第17話新たな帝国勇者

快晴の空模様。


盛大な音が聞こえる。


賑わう城下町を城から僕たち5人は眺める。

活気に溢れた情景だけど、その裏では実力主義至上の支配が俄然続いている国の状況。

しかし、それは法と秩序によって守られ、国民にとっては必ずしもマイナスのものでは無かった。


実力主義。

それは、力さえつければどのような生まれであっても上へと食い込んでいける。

生半可な覚悟では成し得ないごく僅かな希望だろうけど、血統に、生い立ちに支配されるような国とはその希望の差は雲泥のもの。


しかし、勇者の介入により保たれていた秩序は崩壊し、彼等帝国勇者にとってはただ実力主義だけが切り取られた自分の立場を利用し私利私欲を欲すだけの制度に成り代わった。


「やっぱりすっごいよねー。城下町で華代も遊びたいよー!!タロウ君もそう思うでしょ?(^◇^)」


集まったはいいけれど、英雄王は昨日の調子を引きずってまだ難しい顔をしながら押し黙り。

鎌瀬山も鎌瀬山で強がりは張っているけれど今日は帝国の勇者 九図ヶ原との模擬試合だ。

彼の実力は未知数なのに対し、鎌瀬山は自らの限外能力を一部明かしてしまっている状態で、彼自身そのことをよく考えているようで彼もまた神妙な面もちで城下町を見下ろしていた。


蜜柑は自分から話を振るタイプではないことから、当然話の起点になることはなく。

それは言わずもがな僕も同じだ。


だからこそだろう。

幼女は固まっていた空気を払拭するように僕に対して言葉を発した。

彼女は幼い容姿と言動でいい加減で頼りないように思えるけれど、ああ見えて意外とこの中で誰よりも周りを見ている人だと僕は思ってる。


だから、彼女がいるのといないのでは僕がこのメンバーから離れた時に魔王討伐前に仲間の間の不和で死ぬんじゃないかくらいには重要な人物兼潤滑油ぐらいには評価してるから彼女には頑張ってほしい。


……でもさ、みんな何か困ったときに僕に一番に話をふるのを止めて欲しい。


「うん、そうだね幼女おさなめ。国民が生き生きとしてるのが伝わるよ」


「ほんとにほんとに!!華代達が必要にされてるってわかるよね!!きっとあれって華代達を心待ちにしてるんだよね!!(*´▽`*)」


「……自惚れも程ほどにって言いたいところだけど、幼女の意見は僕にも同意だよ。決して自惚れってわけじゃないけど、昨日の九図ヶ原が出てきたときの貴族たちの反応を見るにね。少なくとも帝国勇者がこの国で好かれてるってことはないことはわかるよ」





「少し前までただの高校生だった華代達がこうやってたくさんの人たちから必要とされてるなって夢にも思わなかったな~、ほんとにほんとにびっくりマンゴーだよ!!( *´艸`)」


「……びっくりマンゴー?」


彼女の言葉に一言不可解な謎の言語があったので聞き直すが、


「そうですね、幼女さん。びっくりマンゴーです」


「だよねだよね蜜柑ちゃん!!びっくりマンゴー!!( *´艸`)」


「びっくりマンゴー……です」


何が何だかわからない。


蜜柑の唐突な同意に僕の言葉は掻き消されて、謎の単語の意味を本人から聞くことができなかった。

……女子高生同士にのみ通じ合う不思議言語ってことにしとこう。


話が盛り上がっている幼女と蜜柑から目を離して再び城下町に視線を向ける。


パレードが目前に控えた彼等は昨日に増して賑わっているのが伺えた。

自国の勇者ではなく他国の勇者を心待ちにしている国民。

そんなの、昨日の九図ヶ原を見ていれば簡単に推測できる。


だからね。


「英雄王、いつまでもそんな調子じゃ僕らを心待ちにしてる彼等に申し訳ないよ。昨日のことは蜜柑も僕らももう気にしないことにしたろ?。しっかりしてよリーダー」


僕たち王国勇者の象徴たる君にそんな調子でいてもらっちゃ困るんだ。

君は素晴らしく、誠実で、勇敢で、それでいて正しくなっていてもらわないと困る。



こつん、と落ち込んでいる彼の胸を拳で叩く。

英雄王は一瞬きょとん、と不意を突かれた表情をしたけれど、すぐに僕の目を見て、その瞳は段々と力強さを取り戻していく。


「あ、ああ!!そうだな、俺としたことが……。すまないタロウ、迷惑をかけた」


その瞳はいつも通りの彼の力強さ。

なんとか気を取り直したようで、彼はそのまま蜜柑に向って歩を進め。


頭を下げた。


「昨日はすまなかった洲桃ヶ浦。昨日の俺はどうかしてた……そのせいでお前に不快な思いをさせてしまった。謝って許してもらえるかわからないが、今の俺に出来ることは頭を下げることくらいしかできない。ほんとうにすまなかった......」


「いえ……昨日は私こそすいませんでした。少し、無神経に言いすぎました。ですから、顔を上げてください。これから……一緒に頑張りましょうね」


英雄王に謝られて頭を下げられて、蜜柑も一瞬不意を突かれて固まったが、すぐに持ち直して優しい声音で英雄王に言葉を返す。


とりあえずは、不仲は解消できた感じかな。

彼等が不仲のままだと色々と予定が狂ってしまうから、とりあえず今の時点では何か問題が起きるなんてことはあって欲しくないところだ。




「仲がいい。いや、慣れ合っているだけの犬どもか......。九図ヶ原の言う通りか」


不意に響く来訪者の声。

僕たちが視線を向けたそこにたっているのは、中肉中背で黒髪の腰まで届くほどの長髪、顔立ちが日本人風の男。


「なんだおめぇは?」


僕らを代表して、何故か鎌瀬山が第一声を上げる。



鎌瀬山の言葉に、男はふっ、と馬鹿にするように鼻で笑う。

その微笑みは、何処か九図ヶ原を連想させる嫌な笑み。

それを鎌瀬山も感じ取ったようで、彼の表情も若干嫌悪感を帯びる。


「帝国の勇者の一人、不動ふどう青雲せいうんだ」


「で、その帝国の勇者がなんのようだ?九図ヶ原の野郎が俺との殺り合いに怖気づいてお前が代わりに来たってところか?」


「九図ヶ原のことなら俺が関与したところではない。弱者は弱者同士慣れ合っていればいい」


「なんだよ、おめぇと九図ヶ原は仲間じゃねぇのか?」


「偶然共に呼ばれ偶々同じ国に所属しているだけの存在だ。そんなものを仲間と呼んで何になる」


帝国勇者は仲が良くない。

ニーベネスの話通りにそれは事実のようだ。

というより、恐らくこいつらには仲間意識なんてものは存在しない。


自分が最も偉く、強く、そうでなければ許されない。

国という単位でこいつらを囲っておかないと、たちまち仲間同士で殺し合いに発展するような性格に歪んでる。

どこまでも自分本位で、どこまでも自分勝手。

帝国の勇者を二人見て、帝国の勇者の現状というものを確認できた。

この調子だと、他3人も似たり寄ったりだろうね。


「帝国の勇者同士で不仲だということはわかったよ。で、お前は何のためにここに来た?」


英雄王が皆を庇うように前に出る。

被害を被るのなら、巻き込まれるのなら自分が。

彼は僕らを信頼していると言ったけど、結局のところ、それは言葉だけなのだろう。

だから、こうして自分一人だけで解決しようと僕らを押しのけて前に出る。


「なに、王国の勇者は小学生を連れたピクニック気分だと聞いたものだからな。様子を見に来ただけだが、納得がいった。その通りだとな」


「華代は小学生じゃないよ(`・ω・´)」


幼女は自分の事を言われてるのを気付いたようで眉を吊り上げながら反論する。


「.....ふん、どちらにしろガキのお遊びには変わらん。英雄ヒーローきどりもほどほどにしとくんだな」


ぐっ、と幼女が何かを言いたそうな顔をするが、その前に英雄王が出てきてその言葉を潰す。


「幼女は俺たちの大切な仲間だ。仲間に対する侮辱は看過できないな」


「.....仲良しごっこは寒気しかしないものだ。虫唾がはしる」


瞬間、不動ふどう青雲せいうんの手には斑模様の柄の入った蛇腹剣が現れる。


それにいち早く気づいた英雄王も同時に、その手に聖剣『テトラ』を顕現させ構える。


一触即発。


誰もがそう思い、英雄王に続いて鎌瀬山達もその手には固有武装を顕現させる。


けれど。


「ヘイ!!青雲!!こんなところにいたのかYO!!もうすぐパレードが始まるからハリーハリーYo!!」


彼の背後から声が聞こえ、その声の主が姿を現す。

日焼けした茶色の肌に、身長は2mはあるのかと思うほど巨体と筋肉質の身体。

ボンバーヘッドにサングラスのその男は馴れ馴れしそうに不動青雲に話しかけた。


「興が削がれた。命拾いしたなクズども」


不動青雲は心底嫌そうにため息を吐くと、顕現させた剣をしまい僕らに背を向け、現れた男を押しのけてこの場から去っていく。


「ソーリ―ソーリ―、青雲はファイター気質なのYO。許してやってほしいのYO」


不動青雲に対する態度から、おそらく彼も帝国勇者の一人なのだろうことが伺える。

彼と入れ替わりで残されたその男は僕らに頭を下げて謝る。

言動はおかしいことこの上ないが、不動、九図ヶ原よりかはマシには見える。


「……お前は」


英雄王が警戒しながらも、きつい視線で彼に話しかける。

その手にはもう聖剣『テトラ』は無いが、それでもなお目の前の新たな帝国勇者を警戒する。


「HAHAHA、そんなに警戒するなYO。ミーは青雲とは違ってファイター気質じゃないYO青雲達と違ってユー達と争う気はナッシングYO」


英雄王の視線に対して、彼はおどけたように笑みを交えながら言葉を返す。

毒気を抜かれるようなその反応に、英雄王も張り詰めた空気が徐々に柔らかになっていく。


「ミーは音乃坂おとのざか芽愛兎めいと。これから勇者としてよろしくして欲しいYO。もうすぐパレードが始まるYO。ユーたちも急ぐYO。シ―ユー!!」


帝国勇者が一人、音乃坂芽愛兎。

彼は名乗り、僕たちの反応も待たずに足早に去ってしまう。


「言動はアレだが、帝国の勇者で一番まともな性格で話が通じそうなのが彼か……」


英雄王は彼が去ったその後を見てげんなりと疲れたように呟いて。


「……言動とナリがおかしいことに目を瞑ればな」


鎌瀬山も同じく呟いて、みんな同じように帝国勇者のあまりの現状にため息を吐く。


「……彼が、皇帝が言ってた僕と同じく戦闘を得意としないっていう勇者か」


僕は呟く。

皇帝が言っていた僕と似たような勇者。


「力を得なかったからこそ、彼はまともなのだろうな……まだ正確に評価するには情報は少ないが」


英雄王が僕の言葉に反応して、呟く。

力を手に入れなかったこそ、その力に溺れ歪むことはなかった。

それとも本質が僕らと同じように、溺れるタイプではなかったか。


どちらにしても、まぁ、僕にはさほど関係ない。

彼が表面上はまともでも狂っていれば、その時はその時だ。


「さて、色々あったが俺たちも行くとするか」


そろそろパレードの時間が迫ってきているのは事実。

帝国の勇者ならともかく、僕らが遅れるのはまずいだろう……みたいなことを英雄王は考えているんだろうね。



それにしても、音ノ坂芽愛兎、不動青雲か......。

どちらも風変わりの男で面白そうだ。

残りの帝国勇者もあれレベルに変わった奴らだと考えるなら会うのが楽しみだ。




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