第13話実力主義



「何故、帝国はそんなもの達を野放しにしてるんですかっ!?」



 帝国での勇者達の行いを聞いて、英雄王は声を荒らげてしまう。

 怒りと悲しみに彩られた目だ。


 英雄王の怒りは、悲しみは、一般的に考えたら至極真っ当なモノだ。

 それほど帝国勇者の行いは普通の感性を持っているものなら誰もが異常に思う猟奇的な話だった。


 苦い顔を浮かべるニーベネス。

 彼自身、余り帝国の勇者に良い感情を持っていないのだろう。


「それは、帝国の理念に背いていないからでございます」


「帝国の.....理念? 実力主義の事ですか?」


「そうです.....帝国で求められるのは強者か否かでございます。強者であればあらゆる特権を持ち、逆に弱者であればただ搾取されていくだけなのです」


「それが、帝国の理念? そんなものっ、そこらの山賊と何も変わらないではないですかっ!」



 英雄王の口調が更に荒くなるのをみて、ヒートアップしすぎる前に止めに入ることにした。


「英雄王、冷静にいこう。国が違うなら文化が違う。それは当然な事だよ。だから、頭からの否定は良くない」


 優しく、諭すように。

 ここには今、帝国側の人間も多くいるのだ。下手なことを言って不況を買うのは良くないだろう。



「.....ああ、すまない。けどっ、国がそんなんではっ」


「城下町の景色を見たでしょ? あそこには確かに秩序が存在した。つまり最低限、法律が存在し、ルールがあるんだ」


「.....確かに、そうだ」


 僕の言葉を聞いて、少し落ち着いた様子をみせる英雄王。

 やはり、この世界だと英雄王の欠点がよく出てしまうな。

 本来の彼は頭が良い。

 けど、困った事にこの手の話題で感情が昂ると途端に視野が狭くなってしまうのだ。

 それが、英雄王の扱いにくい所だ。


「東京様の言う通りでございます。いくら実力主義の国と言われましょうが民を無下に扱ってはございません。法律により彼等の生活は保証されております」


 僕の言葉に賛同するかのように会話の途中に入ってきたのは、一人の老人だ。

 青と白の基調の服を着たその老人は、猛禽類のような鋭い眼光をし、自分の長い顎髭を解かすように触っている。


「貴方は?」


「これは失礼いたしました。私は、ナーズ·バッカニーアと申します。エルブンガルド帝国では、未熟ながら宰相をしております」


「帝国の宰相.....」


 英雄王の口から声が漏れる。

 さっきまで、帝国の悪い話を聞いていたのだ。

 正義感の強い英雄王からしたら、帝国の宰相は帝国を牛耳る悪の親玉のように今見えているのかもしれない。



「ニーベネス殿、余り勇者様方に極端に我々を貶めるような事を言ってもらっては困ります」


「貶めるなど、そのようなつもりはございません」


「はて、では我々の国では弱者は搾取されるだけとお聞こえになったのは私の聞き間違いでございましょうか?」


「事実そうではございませんか? いくら勇者様とは言え、一般市民を手にかけて無罪放免では」


 遮るような形でバッカニーアは反論を返す。


「確かに我々が勇者様方に、自由や特権を与えているのは事実では御座います。それにより、特赦が成されたことも。しかし、彼等は勇者であり、我々の希望で御座います。無下に扱う事が出来ないのは貴公の国でも理解されてくださっていると思われますが」


「だからと言っても限度がございましょう。此度の帝国の勇者様方は些かやり過ぎではございましょう」


「此方としてもそれは理解しております。ですから、勇者様方にも罰や制限を受けて貰っております」


 僕らを置いてきぼりにして加速していく口論。

 英雄王や、僕が口をはさむ隙すらない。


「その問題が起きてから制限を付けては遅いのです。バッカニーア殿がおっしゃった通り、勇者様方は我々、いえ、民の希望なので御座います。余り問題が起きるようでしたら民の心が離れていくことになりましょう」


「我々や民の心が離れる事はございません。魔族に追いつめられている我々が勇者無しで勝てると未だ思えるほど民は愚かでございません。ですから、我々や民は圧倒的力をもつ勇者様方に頼るしかないのでございます。貴方も今我々が立たされている状況を理解しておりましょう?」


 バッカニーアにそう言われると何も言えないのか苦虫を噛み潰したかのような顔を浮かべる。


 彼等の口論はどちらも言っていることは正しいのだろう。

 だからこそ、彼等の意見は平行線のままで交わる事はない。



 反論するのを諦めたようでニーベネスは肩を落としながら、僕らにお辞儀をする。


「.....。勇者様方、私は、そろそろ部屋で休ませて頂こうと思います。此度はお会い出来て光栄でした」


「いえ、此方こそ。あの色々とありがとうございました」


 それに対しておじぎを返すと、彼は微笑み、そのまま会場から去っていった。


「お見苦しい所をお見せしました」


「いえ、俺も貴方の国の事を知らずに失礼な事を言ってしまいました。すみませんでした」


 彼等の口論を客観的立ち位置でみていた事により英雄王も帝国が一概に悪い訳では無いことが分かったようで深く頭を下げる。


 それを見て、バッカニーアは少し驚いた様子をみせるがすぐ、笑顔になると。


「なるほど、王国の勇者様方は素晴らしい人徳者のようですな」


「そんなことありません」


 英雄王は謙遜したものいいで否定する。

 僕からしたら英雄王は十分人徳者だ。


「それは謙遜というものですな。勇者様方の国では謙遜が美徳だと聞いた事があります。大変素晴らしい事でありますが、帝国では嘗められる要因にもなります。あまりされない方が良いでしょう」


「良く僕らの事をしているのですね」


 感心した様子の英雄王。

 

「異界のものは勇者に、限らずたまに現れますからね」




 英雄王達が会話をしている一方、彼の後ろでは幼女おさなめが鎌瀬山をからかっていた。


「じゃあ、鎌瀬山君見習わなきゃね」


「幼女ちゃん、それって俺を馬鹿にしてるでしょ?」


「そんな事ないよぉ」


 にやにやした顔でそっぽを向く幼女は子どものイタズラしたときの表情にそっくりだ。


「私は、馬鹿にしてます」


 彼等の話に珍しく蜜柑がのっかる。


「蜜柑ちゃんはもっとオブラートに包んでくれよっ」



「蜜柑ちゃん、さっすがぁ( ≧∀≦)」



「おいお前ら、バッカニーアさんの前なんだぞ」


 英雄王が後ろを振り向き、幼女達を注意する。

 表情から少し怒っているのが分かる。

 まあ、当然の事だ。


「はは、いえ、構いませんよ。そちらの勇者様方は大層仲も宜しいようで誠に良いですな」



「彼とは仲良くありません」


 そう蜜柑が鎌瀬山を指差す。

 無表情なのが尚更きつい事だろう。


「ほんと、ひでえなおい!」


 鎌瀬山が少し涙目で叫ぶ。


「蜜柑は優しいね」


「え、今のどの部分がっ?( 。゜Д゜。)」


 僕の言葉に疑問を持った幼女。


「はい、言われた通り、オブラートに包んでみました。本当は、視界に入るだけで不快なのですが、マイルドに優しくしてみました。どうでしたか?」


「それを俺に聞くのっ?本人の俺にっ?」


「たく、だから、お前らなぁ」


 呆れた声を漏らす英雄王。


「本当、すみません」


「いえ、この位全く気にしませんよ。あ、そうですな。英雄王様は先程、帝国の事を気になっておりましたな。今から、資料室に行かれませんか?私がこの国の事について説明させて頂きたいのです」


「資料室、ですか?」



「はい、そうです。我々としても王国の勇者様方とは友好で居たいのです。今のままですと、誤解がありますでしょうから是非」


「そうですねぇ」


 少し考え込むような素振りを見せて僕をちらりと見る。

 困ったら僕に振るのは正直辞めて貰いたいのだが、信頼はされておく必要があるから寧ろ良いことかと自分を納得させる。

 資料室か、僕も少し行きたいが、今回は後回しでも良いだろう。

 まずは貴族と接触するのが優先だ。


「行ってきたらどう? 此方はぼくらに任せてくれていいよ」


「....わかった」

「バッカニーアさん、是非お願いします」


「分かりました。此方へ着いてきて下さい」


「悪いけど、後は任せた」


「任せとけって」

「いいよ」

「了解です」

「いってらっしゃいー」




 僕らに見送られながら英雄王は会場から出ていった。

 直後、これまで様子を見ていたのだろうか。各国の代表や、帝国貴族が僕らを取り囲むように話しかけてきた。


 ずっと機会を伺っていたのだろう。


 あれやこれやとぼくらはバラバラにされ、一人で複数人と相手にすることになった。


 きっと皆勇者と知り合いになるのに必死なのだろう。

 英雄王が帝国の宰相に連れていかれて尚更そう思ったはずだ。

 幼女や蜜柑は強いアプローチを受けて困惑した様子を隠せていない。

 これは、後で愚痴を聞くことになりそうだと思いながら、僕は適当に会話を流しつつ、情報を集めていた。


「東京様はどういった限外能力エクストラスキルをお持ちで?」


 結構踏みいった事も聞いてくるので、当たり障りがないように断る。


「そう言ったものは秘匿する性分なので、申し訳ないですが答えられませんね。あ、そういえば一つ聞きたいことがあるのですが、州の太守は来ているのですか?」


 僕の質問にまだ20位の貴族が少し思案した様子で答える。


「太守ですか.....確か、カプリカ州太守、プリアイ·パラカツ殿は来られていたはずです」


「では、他の太守は来てないと?」


「来ているとは聞いた覚えがないです」


「パラカツ殿だけのみ招待されているというのはやはり、それはカプリカ州が皇家と一番繋がりが強いからですか?」


「良く知っておりますね。そうです、他の太守は少なからず独立しております。その為、勇者様方とは余りお会いして貰いたくないのでしょう」


 そのまま、会話を続けこれから必要な事だけを抜き取って頭の中でまとめていき、気づけば、30分近く経過していた。


 突如、入り口のドアが力強く開かれ、一斉に視線が会場の入り口に向く。



「おうおう、やってるかぁ」





 その視線の先には黒髪の男が一人立っていた。

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