第11話帝国編
二日後の夜。
宮廷魔術士の中でも筆頭魔術士レベルにしか使えない第9階梯魔法『転移』によって僕を含む王国勇者一同と王達は帝国エルヴンガルドへと転送された。
転送された場所は帝国城の最上階に位置する帝国全土が見渡せる魔法陣の上。
勇者お披露目の影響で祭りが開催しているらしく上から伺えたその様子は、圧巻であった。
「すっごいよー!!王国も凄かったけど帝国もおっきいし、それに凄い!!」
幼女の感嘆した声が夜空に響く。凄いを三回も言ってるなんて彼女にとっては相当凄い事なんだろう。
まあ、でも彼女の感動する気持ちもわかる。
一つ一つの出店の光は小さいものだ。
けど、、それが何百何千も集まればその集合体は夜を照らす光となり、大通りに沿って光るそれは、夜空に煌めく天の川のようで、城下街の活気がどれほどのモノか僕たちに伝えてくれる。
荘厳で歴史を感じるユースティアと活気に溢れ賑わうエルヴンガルド。
日本でイメージするなら京都と大阪のようなイメージが合う。
「確かにすごいところだな。ユースティアも凄いがここにはまた違った趣があるな」
「だよねだよね!!英雄王くんもわかる?遊びに行ってみたいな~」
「やべえな、俺もテンション上がってきたぜっ」
「テンションが上がるのは結構ですが、騒がしくしないで下さいね」
「蜜柑ちゃん、辛辣っ」
「ははは、ドンマイドンマイ」
慰めようと小柄な体を使ってぴょんぴょん飛び跳ねながら、鎌瀬山の肩を叩く。
そこに、背後から声がかかる。
「お待ちしておりました。ユースティア国王ナーゼラル様ならびに王国勇者達よ。私は式典での案内役を務めさせていただく帝国騎士団第六師団団長ガインズでございます」
帝国の城下町の活気を見ていた僕らはその声がした方向に視線を向けると、エ―ゼルハルトとはまた違った形の高価な鎧を身に纏った帝国騎士団第六師団団長ガインズと他数名が頭を垂れていた。
「ご苦労じゃ。では案内してもらおうかの。どれ、勇者殿も部屋を貸してもらい正装に着替えてくるのじゃ。今宵はそなた等が主賓じゃからな」
そう言い残して、おそらく王には僕らとは別口な主賓席のようなものがあるのだろう。
王は僕たちに笑いかけながら、護衛と共にガインズに連れられて帝国城屋上から姿を消した。
「では、男性の勇者様方はこちらへ。女性の勇者様方は女中についていってください。来賓室へと案内いたします。公式な式典はまだですが、交流会は既に始まっております。勇者様方とお話をしたい方々も各国々から集まっております、ささやかな食事しか用意されていませんが当国の料理人が腕によりをかけてつくっておりますので、勇者披露式典の前に食事と交流会をお楽しみください」
王が姿を消したあと、僕たちは式典に向かうべく準備の為、それぞれに別れて正装に着替えにいった。
それから幾ばくかの時間が経過した。
男である僕らは早々と着替え終えて、式典会場の入口の傍で女性陣の到着を待っていた。
僕たちが身を包むのは黒で統一されたスーツ。
過去に召喚された勇者の影響を受けているからか、所々で地球の影響を受けているのがわかる。
まあ、変な格好をさせられるより、日本に似通ったものの方が落ち着くし有難い事だ。
「蜜柑達遅いね」
「女性の着替えとは古今東西長くなるものだ。根気強く待ってやるのが男の器の見せ所だろう?」
「まあそうだね。気長に待とっか」
「鎌瀬山。お前も随分とおとなしいな。こういった場面ではお前の方が何か言いそうだったが」
「あいつらの着替えが遅くなんのは今に始まったことじゃねえだろ。どうせ幼女が服を選り好みしてんだろ」
そうぶっきらぼうに呟く彼は、やはりどこか以前まであった刺々しい雰囲気は消えているようにみえた。
今のところ僕に絡んでくる様子がない事を鑑みるに僕への敵対心は消えたとみえるし、良い傾向だ。
「おまたせしました。こういう服って来たことが無くて……変じゃないですか?」
一人。
ドレスに身を包んだ蜜柑がいつもは無表情に近いその顔を若干赤らめさせながら僕らの前に現れて呟く。
その橙色のセミロングの前髪で目を隠しながら、僕たちの次に出てくる言葉を待つかのように見つめてくる。
「あぁ、綺麗だな。普段とは見違えるな。待った甲斐があったというものだ」
英雄王が大袈裟に言い。
「似合ってんじゃねーの」
鎌瀬山は興味なさそうにそっぽを向きながら答える。顔は少し赤い。
「うん。綺麗だね。良く似合っているよ蜜柑」
その流れにのって僕も蜜柑を褒める。
「良かったです」
蜜柑は僕たちの言葉を聞いて、嬉しさを含みながら微笑んだ。
「蜜柑ちゃんちょー褒められてるね!!ねぇねぇみんな!わたしはわたしは?すっごい綺麗でしょー?」
そう楽しそうにはしゃぎながら、蜜柑の後ろからいきなり顔を出してきたのは、黒留袖を身に纏った
登場するや否や皆に意見を求めてくるその姿、仕草、様子は、只でさえ、幼い見た目の幼女のため七五三に着飾った女の子が親戚の人に見せびらかすかの様子だった。
「あぁ、可愛いぞ。いつにも増して可愛さに磨きがかかっているな」
だからだろうか、英雄王が笑顔を浮かべ誉めるその様は、どこか親戚のおじさんが子どもを誉めるようにみえてしまった。
「うん。可愛いよ。よく似合ってる」
「でしょぉ~」
誉められて満更でもない様子で、にへっと嬉しそうに子どもらしい笑顔をする。
「おいおい、スーツどころか振袖もあんのかよ」
鎌瀬山が、少し呆れた様子で呟く。
それは僕も思った事ではある。
召喚された勇者は相当自由気ままに行動してたってのだろう。
しかし、しっかり見ると普通の留袖と構造が違うように見える。なんというか、所々に肌がちらついて見えて、幼女だったからまだ良かったが、大人の女性が着ていたら結構過激とも言える格好になっていたと思う。
それに黒留袖は一般的に既婚女性の正装であるので、未婚の幼女が着るのは少し可笑しい。
もし、着るなら成人式とかで着る振袖それかまたは、黒以外の色の留袖つまり、色留袖であるべきだ。
だから、これを作った日本人はそこまで細かく和服の事を知らなかったかあるいは知ってなお気にしなかったのだろう。
「よし、じゃあ行くか」
英雄王のその言葉に皆心なしか緊張した様子だ。
「やべえー、緊張してきた」
「ぶるぶる」
「まあ、堂々と入ろう」
僕のその言葉に英雄王は頷き、蜜柑は淡々と返事をする。
「ああ」
「はい」
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僕達が会場に入った途端、空気がざわついた。
そんな気がした。
しかし、不自然な事に僕らに誰も近づく所か見ようともしない。
これは、一体。
「良く来たな。異界の勇者達よ」
しわがれた声、年老いた声、だというのに、重みを感じた。
振り替えるとそこにいたのは一人の老人だった。
年は60を越えていそうで、しわくちゃの顔は柔和の笑顔を浮かべている。
高価な装飾が施された豪華な絹織物を着ており、その上に金色に縁取られた赤いマントで全身を覆っているが、年齢に見合わない大胸筋、上腕骨三頭筋、二等筋の隆起具合はその上からでも一目で見てとれる。
その姿、立ち振舞い。そこからおおよその見当はつく。
なるほど、これが、圧倒的な武を持つエルヴンガルドの皇帝か。
勇者に匹敵する個としての力を持ち、齢60を越えながらも未だ衰えを知らない正真正銘、天然物の化物。
聞いてはいたが、やはり間近でみると話と少し違うな。
「招いて頂いてありがとうございます。失礼ですが、お名前は?」
僕らの代表として英雄王が、応える。
勇者である僕らは貴族や王を敬う必要はない。
そうは言われていたが、僕達としてはだからといって礼節を弁えないのは失礼だろうから最低限、敬語だけは使うという事にしていた。
「俺か、俺は、バルカムリア·ダーバック」
「ダーバック.....確か、皇家の苗字だね」
英雄王は名前を聞いても分からないだろうから僕がこっそり耳打ちをしたのだか、皇帝には聴こえていたようで。
「ああ、そうだ。よく知っているな」
「大陸の覇者ともいえるダーバック家、歴史を調べるのに置いて、知らない訳にはいかないですから」
「ほう......まだ、こちらに来て数日だというのに、なかなか勤勉だな」
感心した様子で、しかし、何処か観察するような目を此方に向けてくる。
「いえそんな事はありません。私は戦闘向きの勇者ではないので、別の事で少しでも彼らの助けに成れたらと考えての事なだけです」
「ああ、お主もか」
「お主も?ですか?」
「俺らが召喚した勇者の中にも、メイトという直接戦闘にはあまり使えん奴がいるのだ。お主とは仲良くなれるかも知れんな」
「そうだったのですか、それは是非ともお会いしたいです」
「そうかそうか、パレードのときにでも会えるだろうさ」
一瞬見せたのは無邪気な笑顔に見えた。
しかし、直ぐに表情を戻すと、
「悪いが俺はもう退席させてもらう。余り長話していたら、他の奴に裏でぐちぐちと言われるからな」
「あと王国の勇者は随分理性的だな。これは他国が放っておかないだろう。頑張るんだな」
そう言って僕の肩を力強く叩き、豪快に笑いながら彼は会場を後にした。
「太郎、今の人ってー」
「彼がこの国の皇帝だよ」
英雄王の言葉を遮る形で僕は応える。
「ええっ!あれが皇帝さんっ!なんかイメージと違う.....」
「確かに、凄い筋肉だった。歴戦の猛者にしかみえなかったよ」
「歴戦の猛者ってのは間違いじゃないかもね。彼は今でも現役の軍人として、一線で闘っているらしいし」
「あの年でかよ....」
「なるほど。実力主義の国と聞いていたが、皇帝があれなら理解できる」
「そうですね、あの人相当強そうです。今の私達では勝てるかどうか」
「まあ、普通にしていれば僕たちが敵対することはないよ」
普通にしていたらね。
「はっ、敵対しても俺らなら負けねえよ」
まあ、僕らなら負けないだろう。
「お話中失礼します。私、グルナエラ連邦の公爵、ハルルカ·ニーベネスと申します。王国の勇者様方の話はよく聞いておりまして、是非ともお会いしたいと思っておりました」
30代位の細みな貴族、彼が僕たちに話しかけてきた瞬間、周りにいた各国の重臣達がざわつき始める。
「ああ、これはご丁寧に。俺は英雄王正義と言います。まだ、此方に召喚されて十日程度しか経ってませんよ。俺達の噂だなんてそんな早すぎますよ」
「おや、聞いていなかったのですか?勇者様方の事はナーゼラル様が国中に広めておりますよ。最近では王国が誇る緑深の剣、エーゼルハルト殿に勝ったそうではありませんか」
「そんな事まで......」
「うそぉー私達、有名人っ!?( 。゜Д゜。)」
「それは少し気恥ずかしいですね」
自分達の事を世界中に広められていたなんて想像だにしていなかったようで、驚愕の声を挙げてしまっている。
その様子を見たニーベネスは少し安堵した表情で此方をみてきている。
「ふふ、私達からしたら勇者様方は希望でございます。ですから、ナーゼラル様が世界中に広められたのも深い考えがあるからなのでしょう」
「ふうん、あの王様の事だから勇者召喚出来て嬉しくて広めたんだと思った、いました」
鎌瀬山はついため口で喋ろうとしてしまっていたが、途中で気付いたようで最後の最後に敬語を付け足す。
しかし、ニーベネスはそれを気にした様子もなく、
「喋りやすい言葉づかいで構いませんよ」
と此方に気を配ってくれる。
流石にそう言われてもフランクに話す訳にもいかない。
部活の先輩が敬語使わなくていいよっと言っても本当に敬語を使わないで話すとアレなのは誰もが知る事だろう。
だから、
「いや、すみませんでした」
と鎌瀬山は謝罪する。
「王国の勇者様方はしっかりとしていらっしゃいますね」
「それは一体......」
「いやなに、帝国の勇者は色々と問題がありまして......」
苦い顔を浮かべるニーベネス。。
その様子を見て僕たちは顔を見合わせてしまう。
もしかして、最初に入ったあの雰囲気はそれが原因だったのかもしれない。
帝国の勇者まだ会っていないが、面倒そうな奴等らしいな。
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