第10話力の反動
次の日。僕はベットの上で頭を抱えていた。
「ああ、きつい……」
頭にガンガンと痛みが響き気持ち悪い。
経験したことはないけどよく聞く二日酔いのような状態に酷似していると思う。
それより、かなり酷い部類だと思うけど。
朝起こしに来た蜜柑にはバレたら一日中付きまとわれるのが目に見えていたので僕の異常を悟られないようになるべく平静を装って朝食を食べて、部屋に戻ってまた直ぐに寝た。
二度目に起きたのは昼過ぎで、それでも頭痛に悩まされて布団でゴロゴロしているうちにもう夕方になってしまっていた。
そして、流石に今日一日を無駄にするわけにはいかないと決心し、僕は平常通り書庫に向かう道を若干猫背になりながら重い足取りで向かった。
何でこんな事になっているかはおおよそ予想がつく。
限外能力『理想郷』のデメリット、いや、代償、欠点ともいえるものだ。
最初に僕が想像·構築した世界、それを途中でねじ曲げ強引に新たな条件を付け加えた。
そのとき、僕には身体に異物が流れるような感覚を感じた。
劇痛ともいえるものだ。
そこで思い浮かんだのはまず、僕が作った世界と僕自身は繋がってる可能性があるということだ。
だから、世界に無理矢理条件を詰め込んだとき、僕自身にも何かが流れてくるのを感じたんだと思う。
まあ、これはあくまで僕の予想だ。本当かどうかはこれから何度か試して確認しなければならないだろう。
しかし、試したら一日動けなくなるのを考えると今急いですべきことではないことがわかる。
ようするに、当分は理想郷の上書きは使えない。
けど、速い段階で『理想郷』の欠点が分かったのは鎌瀬山との戦いをやった意味があったといえる。
もしこれが、もっと後に気づく事になっていたら致命的なミスになっていた可能性があっただろうし。
はあ、でも……この体のだるさを体験するのはもう勘弁したいものだ。
「タロウか。探したぞ……って、なんだ?体調が悪そうだな」
「あ、英雄王か。うん、ちょっと今日は体調が悪くてね」
「朝はよさそうに見えたが……身体にはくれぐれも気を付けるんだぞ」
重い体を引きずって歩く僕を発見した英雄王は僕に声をかけてきた。
丁度訓練の休憩時間なのだろう。
首にかけられたタオルと若干の汗のあとが残る服、汗で水気を感じさせる濡れた髪でそれがうかがえた。
「英雄王は今休憩中?頑張ってるね」
「あぁ。今やっと『限界突破』と聖剣テトラの組み合わせに納得がいってな。一区切りついたから休養をとっていたんだ」
「へぇ、すごいじゃないか」
その向上心はね。
「俺はいち早く強くなり世界を救わなければならないからな。俺が王に魔王を倒すと決めた以上、俺が弱いのでは話にならない」
やはり、彼の責任感は人一倍強い。
だからだろうか、どうにも彼は僕たちに相談もなしに魔王討伐を了承した最初のときの事を負い目に持っている節がある。
現にこうやって強さを求め、速く自分が世界を救わねばと考えてるようだし。
僕たちが気にしていないと言っても、それでも責任を感じ自らが蹴りをつけようとする彼の性。それは別に悪い事ではない、何故なら、その甲斐あってか彼の成長率は勇者の中では著しく早い。
「ところでタロウ。鎌瀬山のことなんだが……今日あいつは以前にも増して鍛錬に没頭していたのだが、何か知らないか?」
「鎌瀬山が?勇者の自覚にでも突然目覚めたんじゃないかな」
へぇ。鎌瀬山が。
昨日は少しやり過ぎたかも知れないと思ったが、思った以上に彼はタフだったようだ。
訓練に気合いが入っているのもまあ僕に敵対するつもりがないなら、寧ろそれはありがたいことだ。
彼には勇者の一人として魔王を倒してもらわないといけないしね。
ふむ、それにしても、鎌瀬山が選んだ道は停滞ではなく躍進だったか。
案外、見込みがあるかもしれないし、彼ならアレを全うできそうだな。
本来は英雄王にやってもらう予定だったが、コイツは何かと動かしづらい。
だから、動かしやすい鎌瀬山が適任ともいえる。
だとなると、計画を大きく変える必要が出てくるか。
まずはー
僕の思考を遮る様な形で英雄王が呟く。
「そうだタロウ。二日後に帝国で勇者のお披露目のパーティーがあるみたいなんだが……どうにも帝国にも俺たちと同じように勇者召喚に1ヵ月ほど前に成功していたらしくてな」
「帝国でも勇者が召喚されてたの?」
「あぁ、俺たちと同じ5人だ。同時に世界にお披露目をするらしいな。様々な国の重鎮が集まり、盛大な式典を行うらしい。それに俺たちもついで……といってはなんだが、ちょうど良いタイミングで召喚されたから俺たちのお披露目も同時に行うらしい」
帝国にも勇者が召喚された。僕はその話を知っていた。
書物庫に引き込もっている間食事を届けに来てくれていたメイドさんと世間話をしたときに聞いてみたのだ。僕たち以外に今勇者っていますか?と。
何故、そんなことを聞いたのかには理由がある。
歴史について調べて要る中、異界の勇者が何度も召喚されている事実が載っていたからだ。しかも、歴史の分岐点ともいえる大規模な戦争があったときなどには勇者は100人近くいたみたいだった。
当然、魔族によって危機に陥っている現状で僕たちしか勇者がいないはずがなかった。
しかし、丁度良いタイミングね。
偶然にしては出来すぎてるし明らかに王国側が狙って合わせたのは予想がつく。
しかし、英雄王たちが一時的にでもいなくなるのは行動に制限がかからなくなるから僕としては非常に助かるし、別にいいか。
「へぇ。僕は勇者じゃないから留守番だろうし楽しんできなよ」
「いや。タロウ。お前の参加も決まっているぞ」
「え?僕も行くの?」
「あぁ。王国も5人の勇者召喚に成功したと明言した手前、一人巻き込まれた者がいるのは王国としても面子がたたなくなるらしい。帝国と王国は不仲だと王自身が言っていたしな……」
「あぁ……なるほどね」
帝国と王国の不仲。
これは歴史からも現在進行形でも仲が悪いのは明白だ。
勇者を5人召喚したのに一人は巻き込まれた人がいるのは帝国から王国に対する非難材料にはうってつけのものになってしまうのだろう。
だから、隠したいと。
「おれが言うのもなんなんだが、ここは俺の顔を立てると思って一緒についてきてくれないか?」
英雄王が僕に頭を下げる。
恐らく英雄王は僕が行かないと王に告げて話がこじれるのを防ごうと思っているのだろう。
ここで彼に借りを作るのも悪くないし、それに、もともと帝国には王国で下準備が終わったら行くつもりでいた。
それが少し早まっただけだと考えればいい。
「いいよ。僕も行くよ」
「いいのか?」
「うん。特に断る理由もないしね。それに皆と帝国に行った方がなにかと安心だよ。勇者が近くにいるなら最高のボディーガードだし」
「恩に着る。タロウの身は俺が守ろう」
「いや、蜜柑に守ってもらうから英雄王は大丈夫だよ」
「そうか……まぁ、俺よりも洲桃ヶ浦のような可憐な女性に守られた方が嬉しいだろうな」
英雄王は苦い顔をしながら苦笑する。
まぁ、こんな暑苦しい男に守ってもらうために傍にいられるよりは蜜柑に居てもらった方が清涼感に溢れるのは言うまでもない。
それに英雄王が僕について回れると行動がかなり制限される。
その点、蜜柑は基本的に僕の意思に逆らうことはないから僕にとって都合がいい。
再度お礼を告げた英雄王は、訓練をもう少ししたくてな、と言い残して再び鍛練場へと駆けていく。
「帝国か……」
帝国エルヴンガルド。
帝国側の勇者。
予定と少し異なるが、帝国側の詳しい情勢を知るいい機会だ。
魔王討伐にどれだけその勇者達が役に立つのかを見定める必要もある。
予定通りではないが、
二日後の勇者お披露目の式典が楽しみだ。
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