結の二  走れ二号! 自由を掴むために

 空中で弓を構える副会長を横目で捉えながら、2号を全力で転がす。

 背筋が凍える程の勁烈な害意を感じ、慌ててドリフト気味に急旋回。

 刹那、ヒュッと風を切る音がして、放たれた光の矢は鏡花の真横の地を豪快に抉る。


 うひゃー! やっぱり凄い火力です。捕まらないようにもっとギアを上げないと!


 砂塵と衝撃で横から突き飛ばされる様な感覚を味わいつつ、気持ちの上でアクセルを更に踏み込む。

 唸りを上げて地を滑る2号。それを追う様に副会長が射た光が轟音とクレーターを作成していく。


 必死で逃げながら、意識を集中し、自分の頭上に光の玉を作っていく。

 自動追尾弾。アサシンさんが特訓で使ったものと違って、急所を穿てば意識を奪える程度の威力はある。


 矢による猛攻を紙一重で躱しつつ丹念に作り上げた弾を撃ち放つ。


 真っ直ぐ飛んで来る光の筋に反応さえ見せず、副会長は弓を構え、その射線を見つめ続けている。


 とった! 伸びる光は彼の頭部に直進。疑いようもないヘッドショット!

 しかし、何かがその進行を阻み、光は彼に届かず霧散する。

 それは不可視、不可侵の障壁。

 副会長はつまらなさそうに鼻で笑った。


 俄かに期待してしまったが、まぁ想定内の結果。

 常に展開したバリアに、大きな盾。その絶対的防御が故に彼は[守護天使]と呼ばれている。

 このバリアに全て攻撃を阻まれたまま彼に負ける選手は決して少なくない

 これを破らない限り、彼を倒すことは叶わない。


 アサシンさんとの打ち合わせ通り、ひたすら逃げながら牽制のために光球の放っていく。

 背後から迫る轟音、もっと速く逃げないと。もっと、もっと。


 そんな中、目の前に光の筋が飛来。


 副会長が鏡花の進路を塞ぐように矢を射ってきた。

 目の前の地面に突き刺さった光の矢。この速度で当たりに行ったら洒落にならない。

 即座に旋回するが避けきれず、ボードから飛び降りることで回避する。


 慣性の法則通りに、降りた後に勢いが殺しきれずに鏡花は地に転がる。

 2号はというと明後日の方向に滑走していく。


 体を強く地面に打ち付けて、痛みに涙が浮かぶけど、今は女の子している場合じゃない。


 倒れたままに目の涙を拭い、副会長の姿を探す。


 彼はゆっくりと降下して近づいて来る。立ち上がりもしない鏡花に止めを刺しに。


 両手の弓矢を何時の間にか盾と剣に持ち替えて、今鏡花の目の前に降り立った。

 ヤバイヤバイ! 急げ急げ急げっ!

 右手に持つブロードソード高く振り上げ、侮蔑の視線で見下して来る。


「全然足掻けなかった分、悲痛に鳴いて下さい。まずは使い物にならないここを!」

 つまらなそうな顔のまま、彼は鏡花の右足に剣を振り下ろす。


 最早これまで、そう思った刹那、副会長の横腹に何かが飛びかかる。


「いいタイミングッ 愛車2号!」


 スケボーはその進行をバリアに阻まれこそすれ、勢いはまだ生きており、バリアと拮抗している。

 完全に不意を突かれた副会長は動きを止める。


 今が好機と飛び起き、逃げながらこそこそ作り溜めてきた弾を可視化。

 そして発射し、2号の援護に向かわせる。


 加勢を得た2号はバリアを遂に突き破る。


 アサシンさんのシナリオ通りに事が運んだ。

 副会長は鏡花を侮る余りに、力の出し惜しみを警戒しなかった。

 過去の試合データを漁っても副会長がバリアを修復したという記録はない。

 鉄壁の防御破れたり!


 ぶつかってくるスケボーや光球を盾で事もなげに払うと


「思ってたよりやるますね。まさか壁を壊してくるとは。」


 そう言って盾と剣を構える。未だに余裕の面持ちは崩れない。


「壁は崩壊させるためにありますから。 時代はバリアフリーです」


 適当に言葉を返しながら、両手に得物を作り上げる。左手には小型の鎌、その柄から伸びる鎖を右手に収める。


 鏡花は足元に戻って来た2号に乗り込み、鎖鎌を構えて見得を切る。


「さぁ副会長! どこからでもどうぞ」


 マイナーな武器の登場に、彼の顔が不快に歪む。


「大道芸でも始めるつもりですか。ふざけてます?」


「天使コスで試合している人には言われたくないです。」


 我ながら秀逸な切り返し。これには副会長も反論できない。

 いや、あれは無言でキレてる。


 彼は地を蹴ると翼の羽搏きを推進力にして、盾を前に突進してくる。


 かかってこい。浪漫武器の力見せてくれます!

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