起の三 自爆少女の後悔と告解
背もたれに深く沈み込み、顔を天井に向け、目を手で覆う。
気づけば僕は、駄目だこりゃのポーズをとっていた。
しばらくの沈黙の後、明寺はポツポツと語り始める。
「聞いて下さい。これは健気で哀れな少女が華々しくやらかすまでのストーリーです。
若き日の鏡花は、いや今でも若造なんですけど
10歳になる頃にはddsにもう夢中で、ありとあらゆるddsの番組や雑誌に目を通してました。
いっちょ前に選手の分析なんかもしてましたね。
ddsが競技として解禁されるのは高校からですから そんなことしか出来なかったんです。
でも中学一年の夏、遂に鏡花はddsの体験が出来るイベントに参加するんです。もちろん危険なので試合までは出来ないんですけど、それでも夢のようでした。
テレビの中の人達と同じように、秘剣増幅フィールドの中で秘剣が発動出来るんですから。
実際やってみると全然制御が出来ませんでした。
けどそれは寧ろ選手達の凄さが分かって嬉しかったんです。
他の子達も鏡花と同じようなものでしたし。
でも違うこともありました。
他の子達と比べると鏡花の秘剣は小さかったんです。
すごく小さかったんです。
二年生になる頃にはフィールドの中じゃなくても、秘剣を発動できるクラスメートもちらほら出てきました。
勿論虫も殺せないような出力ですがしっかり視認出来るんです。
鏡花は毎日練習してるのに全然出せないのに。
何時の頃からか毎晩を泣いて過ごす様になっていました。
起きてる時は相も変わらずddsの事ばかり見てるんですが、眠るとなると涙が出てきます。
悲しくなって悔しくなって涙が止まらないんです。
そんな風に自分をごまかしながら過ごす日々に終止符を打ったのは一本の動画です。
それは兼定の校内戦の一幕を学生がネットに挙げたものでした。
片やテレビでもたまに見る、火力が自慢の有名選手。
対するは鏡花でも全く知らない無名選手。
勝負は見えていると思いました。
でも結果は真逆、無名選手の圧勝です。
凄かった。でも何が凄いのか分からなかったのでもう一度見ました。
繰り返し繰り返し見ました。
繰り返しているうちに何時の間にか眠ってました。
泣かずに眠ったのは久しぶりでした
それからはその選手のことを調べました。
名前が分かり、多くの試合動画を見て、その人がバテリアに恵まれていないことも知りました。
バテリアが不遇でもこんなに強くなれる。
それは鏡花の希望になりました。
そしてその人、浅間様、いえアサシンさんは鏡花のヒーローになったんです。
それからは毎晩ワクワクしながら眠りました。
しかしそんなヒーローもプロにはなれませんでした。
派手じゃないから。
鏡花は納得いきませんでした。
こんなに凄い人が無名のまま消えていくのが嫌だった。
せめて鏡花が有名になって、あなたの名前や技だけでも広められたら。
でも今のままでは、良くてあなたの二の舞です。
私は力を求めました。
そしてネットでサクリフィーチョを知ったんです。
やり方は簡単で、髪の一部でやってみたら難なく秘剣が出せました。
使った髪は痛んで白くなり、切るはめになりましたけど、フィールドの外で秘剣が出せたのが何より嬉しかった。
それ以降も練習したい時にしょちゅう使ってたから、髪型はショートカットになっちゃいました。てへっ
その後鏡花は受験に見事合格し、激動の中学生活にサヨナラ。
夢にまで見たあの兼定の門を叩きます。
そして早々に鏡花は先輩に因縁をつけられて、見せしめの為に試合をさせられます。
でも鏡花は負ける気がしなかったです。
いつもあの浅間真翔を相手にしてイメージトレーニングをしているし、いざとなったらサクリフィーチョをすればいい。そんな気持ちでした。
甘かったです。初めての実践ですから、技は上手く当たりませんし、相手の攻撃を避けるのも想像以上に大変でした。
戦闘中に髪に意識を集中することが全然出来なくてサクリフィーチョも出来ません。
でも後輩をいびる奴になんか負けたくなかったから、足を使ってサクリフィーチョをしました。
これが鏡花のデビュー戦です。この時に右足の指先の感覚を失くしました。
その後の二戦目には踵の感覚も……やっぱり髪は使えなくて、手抜きをして負けるのは失礼だと思ったので全力で倒しました。
副会長との勝負は・・・・・・情けをかけられました。
鏡花の全力をバテリアから捻出した秘剣で完璧に防ぎ切った後、降参されたんです。多分気づいたんだと思います。鏡花の全力の秘密に……
ズルしてっ こんな惨めな勝ち方して……グスッ 鏡花 もう走れ ないんです。
たたかえ……ないんですぅ……」
語り終えると明寺は大声で泣き始めてしまった。 机に突っ伏しているのだろうか 泣き声が曇って聞こえる。
「君は……馬鹿だなぁ。」
僕は震える声でそんな感想を溢す。小さな部屋は少女の泣き声が支配していた。
背もたれに深く沈み込み、顔を天井に向け、目を手で覆う。気づけば僕は、とめどなく流れくる涙を彼女に見せまいと必死になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます