英雄秘剣~自爆少女は夢に走る~
親之脛カジキ
起の一 挫折リーマンwill meetsゴールデンルーキー
零細芸能事務所、(株)紅色カーペットの一室、僕は言われるままパソコンに目を通す。
映されるは異能格闘技、ddsの動画だ。
数十年前、超能力や気の類は科学的に解明され、総合して
直ぐに力をより引き出す研究もされ、軍事転用も検討された。
しかし力を抑制する技術も早急に確立されたために、秘剣が現代社会に残したのは結局この娯楽だけだと言える。
画面では、可愛らしい少女と生意気そうな大柄の少年が睨み合っている。
ゴンと鐘の音が響くと、少年が少し脚を開き、腰を落とす。
すると彼の両脚の筋肉は大きく膨張し、彼を中心に風が渦巻いていく。いずれも彼の発動した秘剣による超常現象だ。
彼が地を蹴ると轟音と共に風が舞い、彼は高く跳び上がって少女の頭上をとった。
凶暴な笑みを満面に、頑強に変貌した拳を振りかぶった。その拳に風を集めて自由落下のままに少女に迫る。
秘剣による筋力の大幅増強、更に風まで纏った彼の振り下ろした一撃は、人の対応速度で避けられるスピードなどを遥かに超えているように見えた。
しかし、寒気がするほどの威力を孕んだそのパンチは彼女に当たらなかった。
避けられないだろうという僕の目算が外れた?
いや違う! 彼女は躱してなどいない。それどころか試合開始から一歩も動いてさえいない。
避けたのは寧ろ彼の拳の方だった。真っ直ぐ少女に向けて振られたその拳の軌道は、当たる直前で突如方向を変え、空振りに終わる。
何が起こったのか分からないという様子の少年はパンチの勢いのまま前につんのめる。ギリギリで踏みとどまるも、その足を少女の左足につつかれるとあえなく転んでしまった。
その刹那、少年の体が宙に放り出された。まるで倒れこんだ場所にトランポリンでもあったかのように。
少女は無防備に宙を行く彼を目で追い、小さく指を鳴らす。
それを合図に花火のように華美な爆発が連鎖的に宙を彩る。
その中心に
遂に花火大会の主役という任から解放された彼は地面に落下。倒れこんだまま地面を小さく二度タップした。勝負ありだ。
凄いな、そんな感想が自然に出てくる。いや、そんなことより彼女が使ったあの技は……
「この試合は彼女の人生二度目のddsだそうだよ。君はどう感じる? 聞かせておくれ」
白髪白鬚の初老の紳士、社長の言葉に僕は目を剥く。
「本当ですか? それはとんでもない才能ですよ。あんな大火力の秘剣を連発出来るだけでも規格外なのに、見せ方も上手い! 巧妙に仕掛けた罠もうまく機能させていますしね。
現状、やりたい事としている事に多少ズレがあるようにも見えますけど、それが修正されるのも時間の問題でしょう。」
ほうっ!と社長は嬉しそうに目を細める。
「君は才能ある若者に冷たいかと思ったが、案外高評価だね。」
ズキリと胸が痛むのを感じた。
「学生時代なら妬ましく思ったかもしれませんけど、もう引きずってませんよ」
誤魔化す様に苦笑いで応じる。もう終わった夢だろう、そう自分を諭す。
「それは良かった。 実は君にこの子のマネージャーをやって貰う事にした。」
社長が悪戯な笑顔を向けてくる。
「うちのタレントなんですか⁉ あっ! この男子の方?」
「タレントだよ? この可愛らしいお嬢さんに決まってるじゃないか。
ほら! 試合後のこの初心な笑顔。
これの受けがいいんだよ」
さいですか。 よくこんな小さな事務所に入ってくれたものだ。何にせよ入社以来初めて貰った大きな仕事だ。社長に恩を返すためにも頑張らないと! それに彼女には聞きたいこともある。
ddsの人気に伴い、世界中に選手の養成学校が建ち、その中での動向もメディアで面白おかしく、事細かに扱われる事も少なくない。
この学校 第二六国立武道専門高等学校 [兼定]《かねさだ》は特にメディアの介入が顕著だ。
名門武専の中でも比較的新しく、生徒の将来を見据えてか、敢えて外部に対して大らかな態度をとっている。
そんな校風が理由でここの上位ランカーのほとんどがタレント契約しているし、年がら年中取材陣やスカウトが出入りしている。
僕は早速顔合わせをして来いと言われ、彼女が在籍しているここに赴く。
僕の母校でもあるここに来るのは、卒業して以来だから一年ぶりだ。
兼定の正門をくぐり、顔見知りの守衛に挨拶しに行くと、スーツが似合わないと散々笑われた。
しばらくはまた
期待の新人との顔合わせまでにはまだ時間があったため、食堂の席に座り、ネットで彼女の情報について勉強しつつコーヒーを啜る。
えっと どれどれ?
5月現在、交流戦で先輩相手に三戦無敗。
学校内ランキング3位の生徒会副会長も倒している。っと
……え? これマジ⁉
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