第97話 副将の重荷
「わざわざそんなゴミみたいなガラクタ買って何してんだもじゃもじゃ」
「うるさいな。低知能な人には到底理解できないことだから言っても無駄だよ」
「なんだと、この!」
「ちょっとやめなよ。飲み物でも飲んで休んでな。私が奢ってあげるから」
「尾口さんも」
「おっと、ありがとうございます」
尾口がスポーツドリンクを受け取り床に置くと、再びよく分からない金属? の部品をいじり始めた。
金色のビブスの下には白衣を着ていて、丸い眼鏡をかけている尾口。この光景を見た人は、尾口のことをほぼ100パーセント科学者か研究者だと思うだろう。
会議が終わり、俺たちは1階にきていた。
ここではポイントさえ払えばある程度のものは購入することができる。ただ、普通と比べて物価が高い。
物価は高いが、将軍ゲーム中はここでしかアイテムを手に入れることができない。
なので、多少ポイントを払うことになっても仕方ないと割り切り、多くの人が食料や日用品を購入していた。
「なるほどな。作戦は理解した。要するに俺たちは指示があるまでここで待機ってことか」
「城の守備に当てられた人を全員把握できなかったけど、戦闘に向いてる人は少なかったな」
「力のありそうな奴はありすの攻軍に回されたんだろ」
作戦を理解した
やはり、祥平は理解するのが早い。
それともコロモさんが遅いのか。会話の最中、コロモさんはうんうんと頷くばかりだった。
「コロモさん、分かりましたか?」
「おいらは待ってればいいんだべ?」
「まぁ、そうですね」
それだけ分かってれば大丈夫か。
「リーダー……」
「ん? どうした」
すらっと足の長い、モデル体型の
瑠羽子の吐息が耳にかかる。
「トイレってどこですか?」
「あ、あぁ、そこを出て左だよ。いいや、案内するよ」
何かと思えばトイレだったのか。ちょっとドキッとしてしまった。
きっと周りに聞かれるのが恥ずかしかったんだな。
「少し出てくる。何かあったらスマホに連絡して」
祥平は分かったと言い、コロモと一緒に尾口の所へ歩いて行った。
部屋を出て左に進み、突き当たりを右に曲がる。そこにトイレはあった。
ゲームが始まってすぐ金城の中は全てチェックしていた。
「あ、ありがとう」
「後は戻れるよね?」
「うん。大丈夫です!」
瑠羽子をトイレに案内したことだし、俺は
さっきいた部屋の向かいの部屋だ。トイレがあるこの並びにある。
3人は負傷者の手当てをしている。英司の護衛役の
部屋の中に入ると、室内を慌ただしく走るミナトの姿が目に入ってきた。手には包帯を持っている。
里菜と剛は、怪我をしている人に声をかけて回っていた。
里菜たちの他にも戦闘であまり力になれない女の人が自主的にけが人の手当てをしていた。
包帯や絆創膏などの医療用品は英司がポイントを出して買ったらしい。
こういう所まで気を配れるのはさすがだ。弟の
部屋の右隅にフトシの姿を見つけた。
胸のあたりを包帯でぐるぐる巻きにされている。銀軍兵に斧で切られたのだ。
傷は深かったが、里菜と剛が治療してくれたとコロモは言っていた。
「痛みますか?」
「リーダーか、痛いことは痛いがここに来る前と比べたらだいぶマシだ。このぐらいの怪我、気合いで治してやるさ。ハッハッハッ、いてててて」
笑ったのが体にひびいたのか包帯を右手で押さえた。
根性論で治せる傷ではないだろうに。
「無理しないで下さいよ」
「気合いで、気合いで治すからそれまではすまん。治ったら絶対に力になる」
「ありがとうございます。体が第一ですから安静にしててください」
里菜と剛とミナトには作戦の概要を簡潔に伝え、俺は治療室を後にした。
3人は全員分の治療が終わるまで部屋に残ると言っていた。けが人の人数を考えたが恐らく夜までかかるだろう。
独立軍のメンバーの顔を一通り確認したので、尾口たちがいる部屋に戻った。
祥平と2人で今後考えられる敵の行動パターンをできる限り洗い出した。
実際にこのパターン通り動いてくるか分からないが、何もせずにぼーっとしているよりはマシだ。
他の5人組は明日以降の不安なことを話したり、新国家に来る前の思い出などを話して時間を潰していた。
横になり目を閉じて休んでいる人もいる。みんな思い思いに将軍ゲーム1日目の夜を過ごしていた。
数時間後、夜もだいぶ深まりなんだか無性に外の空気に触れたくなったので、金城の外に出た。
こんな状況で寝られる訳無いと言っていた鮫島も腕を組んで座ったまましっかりと寝息を立てていた。
菜月と瑠羽子は固まるように身を寄せ合って寝ていた。
一方、尾口はまだガラクタいじりを続けていた。コロモがそんな尾口を傍で見守っている。
里菜と剛とミナトは治療が終わり、そのまま治療室で朝を迎えるとスマホにメールが入っていた。
しばらく金城の外周を歩くとありすさんが石垣にもたれかかって金城を見上げていた。
月明かりが映すありすさんの表情はどこか悲しげだった。
何とも言えないその表情を少しの間見入っているとありすさんが俺に気付いた。
「はやと君、寝なくて平気なの?」
「なんだか眠れなくて」
「あたしも」
ありすさんの隣に行き同じように金城を見上げた。
起きている人も少ないのか辺りは静かで虫の声しか聞こえない。
よく考えてみればこうやってありすさんと2人きりになるのは初めてだ。
「ジルとロッドは今頃天国で元気にやってるかな?」
「きっと元気にやってると思いますよ」
「他のメンバーも楽しくやってるかな?」
「はい、きっと仲良くやってると思います」
「あたしさ、ギルドのみんなのことを家族だと思ってたからさ。こんなに急にみんないなくなっちゃうなんて……」
ありすさんは目に涙を溜め、小さな体を震わせていた。
ありすさんはこの小さな体に色んなものを背負っている。
みんなの前ではギルドのボスとして強くていつも明るく振舞っていても、中身はまだ俺と歳の変わらない高校生だ。
2年前には普通に学校に通っていた女の子だ。
「あたしが副将で本当にいいのかな? はやと君が副将の方が」
そんなありすさんが弱音を吐いてきた。
「俺には無理です。みんなから慕われ、尊敬されているありすさんだからこそ副将に相応しいと思います。強い信頼関係が無いと500人もの人数をまとめることなんてできません」
「でも、作戦を失敗して信頼関係なんて無いも同然だし」
「ありすさんのことを支持している人はまだ大勢います。それに一緒に行動すればありすさんの人柄が伝わると思いますよ。そんなに心配することはないです」
ありすさんは時間をかけて俺の言葉を飲み込むと、涙を拭い月を見上げた。
空は雲一つ無く、いくつもの星が月の周りで輝いていた。
将軍ゲーム終了まで残り57時間。
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