第96話 一点突破

 ポイントが無いのなら敵から奪えばいい。小坂はそう言った。

 将軍ゲームでは相手を脱落させると、そのプレイヤーのポイントが全額自分のものになる。そのことを言っているのだろう。

 俺もゾーンに入った時に銀軍兵を8人倒している。

 後々スマホを確認したら80ポイント増えていた。どういうわけか銀軍兵は共通して10ポイントしか持っていないみたいだ。

 その80ポイントが元々持っていた俺のポイントに足されて4391ポイントになった。


 自分で投げたビブスの1つを玲央が掴んだ。


「これは敵から奪ったビブスや。全部で11着ある。このビブスを俺の独立軍が着て銀城に潜入する」


「要するにスパイじゃ」


「敵から奪ったと言ったけど、それなら玲央の独立軍の顔はバレてるんじゃないか?」


 敵を逃した。それはつまり情報が相手に流れたということだ。

 銀城に上手く潜入できたとしても、銀城の敷地で敵に気付かれてしまっては逃げ場所はどこにもない。


「逃がした敵は3人じゃ。同じビブスを着て堂々としてれば大丈夫じゃろ。あんたみたいなのがいたらちと危ないかもしれんが」


 小坂の視線に肯定とも否定とも取れない顔で英司は不破のノートを取り上げた。

 すらすらと何かを書いていく。

 英司並の記憶力を持っている人物はそうそういない。

 一度見聞きした情報をほぼ全て記憶するのだ。超能力といっても遜色ない。


「もしバレたとしてもこっちでなんとかするから大丈夫やって。あの時の俺とは違う。信じてくれ」


「分かった。小塚玲央の独立軍をスパイとして銀城に潜入してもらう」


 英司は玲央の独立軍に2つの役割を与えた。

 1つ目は潜入後、敵の戦力を削ぐこと。敵に見つからないよう行動し脱落させる。それで不足しているポイントを回収するというものだった。

 2つ目は内側から正門を開くこと。こちらとタイミングを計り、合図と同時に門を開く。

 どちらも重要な役割でリスクもかなり大きい。


「ただ、このままでは銀軍には勝てない。人数、武器、ポイント数。全てにおいて金軍は負けている。決着がつかない場合は全プレイヤーが脱落ということを考えると、城をガチガチに固める必要はない」


「長期戦になればなるほど戦力差が開くからの。じゃが、この絶望ともいえる状況だからこそシンプルな方法が生きるかもしれぬ」


「俺も同じことを考えてました」


 小坂と英司はお互いの考えていることがよく分かっているようだった。

 話についていくことでやっとのコロモ、鮫島、尾口。いや、訂正する。3人の頭の上には、はてなマークがついていた。

 よって、話しについていけていない3人とは違い、小坂と英司は直接的に作戦を口にしなくても分かり合えているみたいだ。


「敵が鉄壁の守りで防ごうというのならそれを貫く矛で。敵が強力な矛で攻めてくるというのならそれをも超える矛で」


「あ、あの、それはつまり……」


 不破がたまらず2人の会話に口を挟んだ。


「一点突破だ」


「一点突破じゃ」


 2人の声は揃った。


「これしかない。ありすの攻軍の数を500人に増やし、銀城への最短ルートを行ってもらう。銀城付近に着いたら城の中にいる玲央の独立軍と連絡を取り、門の中に入る。銀城の敷地内に入ったら敵将軍の首を取って終わりだ」


「500人ですか! でも、あたしは多くの仲間を失ったばかりで……」


「分かっている。だが、この人数を指揮できるのは副将のありすしかいない」


 120人を失ったことをありすさんは引きずっているようだ。

 ジルとロッドも、ギルドの古参のメンバーも失ったから当然だ。仲間を失うのは誰でも嫌なものだ。

 軍の人数が増えれば戦いで失う人数も増えることになる。

 ありすさんは迷っているように見えた。


「ボス、大丈夫だよ。私もいるから」


「揚羽……」


 揚羽の言葉に心が揺れるが、まだ決心できないみたいだ。


「やらなきゃやられるだけじゃ。金軍の全員が死ぬか、勝利への可能性が少しだけ上がるか、それだけじゃ。わしゃー、もう先が長くないからどっちでもいいがな。どっちでもいいが、こんなゲームで死ぬのは話が違う」


 妙に思いが込もった小坂の言葉。

 確かにここで死ぬのは話が違う。

 寿命や病気で死ぬことが当たり前だった現代。事故や戦争などの例外があるにしてもデスゲームで負けたらという訳の分からないルールがまかり通っていいはずがない。

 しかし、これは現実として起こっている。だから、俺は王を倒して選別ゲームを終わらせると誓った。


「あたし、やります。ここでやめたらみんなに合わせる顔がない」


「軍のメンバー編成は後でメールで送る。それと新田はやとの独立軍は金城で待機してもらう」


「待機ですか?」


「待機だ。一点突破とは言ったが、全員で攻めては守りが手薄になる。攻め切る前に攻め込まれたら負けだ。様子を見て出撃の命令を出すから準備はしておくように」


「分かりました」


 英司は今後の作戦概要を全て説明したのか一息吐くと小坂に視線を向けた。


「わしから言うことは何もない。いいんじゃないか」


 英司と小坂、天才と天才が合わさったとき、勝利への道が今薄っすらとだが確かに開かれた。


 その後、細かな説明を受け、夜の山は危ないから全員金城で夜を過ごすことになった。

 敵も同じ考えだろうと英司と小坂の意見は一致した。

 最終的に日が出て準備が出来次第、玲央の独立軍が出発。

 時間を少し開けてありすさんの攻軍が出発ということでまとまった。


 翌日、両軍激しくぶつかることになるが、それはもうちょっと後の話。

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