第81話 独立軍全滅の危機

◆  ◆  ◆


 銀城を落とす為に編成された200人の軍隊。その軍の将に任命された金軍副将のありすは仲間を引き連れ銀城に向かっていた。

 英司からのメールで周辺の地図はすでに頭に入れてある。金城から銀城までは約2キロメートル。

 2キロメートルという狭い範囲に両軍合わせて1954人が散らばっている。これはかなりの乱戦が予想される。

 将軍ゲームのタイムリミットは72時間だが、ゲームの決着がつくまで1日もかからないかもしれない。

 敵に先手を打たれたら致命的になりかねない。故にありすは焦っていた。

 敵が何かしらの策を練る前に一気に畳み掛けなければと。


「全員停止!」


 先頭を走っていたありすが右手を上げ足を止める。

 ありすの声を聞きすぐ後ろを走っていたジルとロッドも足を止めありすの横に並んだ。


「ボス、どうしました?」


 ジルがありすに聞く。


「今から言う所を見ないでよ。すぐ近くに敵がいる。右の4本目の木の後ろと左からも集団が2つか3つ」


「どうしやすか? 挟まれてるなら俺とジルで隊を分けて敵を叩きやすか?」


 ロッドが指の骨をぽきぽきと鳴らした。

 ジルとロッドには感じないがありすははっきりと敵の居場所が分かるらしい。


「そう、ね。襲ってこない所を見ると敵は偵察部隊の可能性が高いわ。だとしたらもう遅いけど倒せるときに確実に倒すべきよね」


 本物の将軍がいた時代とは違いこのゲームにはスマホがある。仲間と連絡を取ることは一瞬でできる。


「何番にしますか?」


「2番にしましょ!」


「分かりました」


 ありすが2番と言うとジルとロッドが指を2本立て腕を上げた。

 すると、3人の指示を待っていたかのように197人が一斉に動き出した。

 ありすの軍は下級エリアだった人間がほとんどだ。

 軍の編成時、英司はわざとそうなるようにしたのだ。その方が下級エリアを統一していたギルドのボスであるありすが動きやすいと考えたのだ。

 その意図を汲み取ったありすは出撃前に全員を集め、連携が上手くいくように番号で軍の形を変える作戦を立てた。

 そして、早速その作戦を使う場面がやってきたのだ。


「俺は右、ロッドは左だ」


「あぁ、分かってるって」


 200人の軍が二分し隠れていた敵に襲い掛かる。

 右から3人、左からは11人の銀色のビブスを着た人が飛び出してきた。

 後は数の暴力だ。なだれ込むように敵の背中に触れようと手を伸ばし次々と脱落させていく。


「あああああああああああ!!!!」


 背中を触れられた人が次から次へと悲鳴を上げ体を大きく震わせた。そしてぱたりと動かなくなった。


「焦げてるな」


 敵は1人も残さず死んでいた。

 ジルが死んだ銀軍の男の体に触れた。ジルには手袋の上からでも男が焦げているのが分かった。肌の色も黒く変色している。

 そこにロッドとありすもやってきた。


「まさかとは思ってたがこのゲームの脱落は死ぬってことか」


 ロッドが男の死体を見てそう呟く。


「この手袋で敵のビブスの背中を触ると電気が流れる仕組みみたいね。それもかなり強力なものが」


「とりあえず味方の被害はゼロです」


「そう……」


 ありすが動かなくなった銀軍の数人を見てから金軍の仲間の顔を見た。

 頭の中で言葉を整理してからありすは口を開いた。


「今ここで起こったようなことがこれからずっと続くわ。今度はあたしたちがこうなるかもしれない。だからどうしても死にたくないって人は金城に戻ってくれて構わないわ! 戻ったからってあたしは何も言わないから」


 誰もその場を動こうとはしなかった。


「ボス、ここにいるみんなボスと最後まで戦いやすよ」


「俺たちのボスはありすさんですから」


「ロッド、ジル……」


 ロッドとジルの言葉に全員が頷いた。

 全員がありすの顔を真っすぐ見つめている。


「分かった。それならあたしたちがゲームに勝つまで全員くたばるんじゃないよ!」


『「うぇい!」』


 不安に思う者もいたかもしれない。

 しかし、この時全員が副将のありすに最後まで付いて行こうと心に決めた。

 ありす率いる攻軍は銀城を落とすべく再び歩みを進めた。



◆  ◆  ◆


 俺たちは、ありすさんに追いつこうと銀城があるはずの南に向かっていた。

 先頭は鮫島の5人組が歩いている。俺たちは歩くのが速い鮫島に置いて行かれないように早足で歩いていた。


「ミナト君、大丈夫か?」


 高校生の俺たちが早足で歩けば、見た目が小学校低学年のミナトはほぼ走るような形になる。

 だが、ミナトの歩くスピードに合わせていては鮫島を見失ってしまう。


「だいじょうぶ!」


 ミナトは呼吸を荒げながらも元気にそう答えた。

 俺はミナトに伝えなくてはならない。ミナトの父親である向井孝蔵むかいこうぞう、新国家初代国王が地下帝国で生きているということを。


「ミナト君、大事な話があるんだ」


「なに?」


「んっ、大事な話って?」


 ミナトと里菜が歩きながら俺の顔を見た。


「ミナト君の父親が生きてたんだ」


「おとうさんが?」


 ミナトが口を開けて目を丸くした。それでも走る足は止めない。


「はやと、向井総理が生きてるってなんで分かったの?」


 里菜が聞いてきた。


「俺が下級エリアで脱落した後に地下帝国って場所に行ったんだけどそこで会ったんだ。今じゃあそこで脱落した人を地上に上げようと仲間と一緒に奮闘しているらしい」


「それじゃあ今は会えないんだね」


 ミナトが小声で呟く。


「あぁ、でもきっとすぐ会えるよ。ミナト君にはすぐ伝えようと思ってたんだけど遅くなってごめんな」


「ううん。おしえてくれてありがと。ぜったいゲームに勝っておとうさんに会う!」


「そうだな」


 里菜と剛が柔らかな笑顔でミナトを見た。


「はやと、前だ! 鮫島さめじまたちの様子がおかしい」


 少し前を歩いていた祥平が声を上げる。

 前を見ると鮫島の5人組が銀軍のビブスを着た10人に囲まれていた。


「鮫島!」


「来るな! 餓鬼に手は借りねぇ」


「そんなこと言ってる場合じゃないだろ」


 俺が鮫島の元に走り出すのと銀軍が鮫島たちに襲い掛かるのはほぼ同時だった。


「コロモさん、尾口! 手伝ってくれ」


「任せるべ!」


「なんで僕が……」


 尾口も口ではそう言いながらついて来てくれた。


「がぁああああ!」


 鮫島の5人組の1人が背中を触られ震えて倒れた。


「鮫島さん、このままじゃ不味いですよ」


 5人組の1人の華原かはらが鮫島に不安そうな声でそう言った。


「うるせぇ! 言われなくても分かってんだよ」


 強い口調で鮫島は言ったが手は恐怖で震えている。


「あいつらが来る前に早くやっちまうぞ」


「一斉にかかれ!」


 銀軍の10人が鮫島に襲い掛かる。

 俺と鮫島までの距離は数十メートル。


(後数十秒持ち堪えてくれ)


「くんな! どうせやられるなら道連れにしてやる」


「ああああああああ」


 銀軍の1人と鮫島の5人組の1人が相打ちになった。


「鮫島さん危ない!」


華原かはら!」


「あがっ、あああああ! 鮫島さん、あっちで待ってます」


 華原が鮫島の横に倒れた。

 鮫島の5人組は鮫島を入れて残り2人。

 タイミングを見計らって銀軍の9人が再び襲い掛かった。


「くそが!」


 鮫島は敵の顔面を殴って戦闘態勢に入った。だが数では不利だ。

 鮫島と背中合わせで戦っていた仲間も敵に背中を触れられ倒れた。


「ここまでか……」


 全方向から鮫島に敵が迫る。

 が、そのとき銀軍の3人が宙に浮いた。


「遅くなったべ」


「鮫島、すまない気付くのが遅れた」


 コロモが銀軍の3人をタックルで吹き飛ばしたのだ。

 ギリギリのところで間に合った。いや、間に合わなかった。鮫島の5人組は4人もやられた。

 鮫島から距離を取った銀軍の9人と睨み合う。


「僕も助けに来てやったぞ」


 尾口も遅れてやってきた。見た目通り運動はあまり得意ではないようだ。数十メートル走っただけで息が上がっている。

 その後ろからコロモの5人組も駆け付けた。全員体格がいい。


「作戦通りだ。さすが林さんだ」


 銀軍の男がスマホを見てそう呟いた。


「林? 作戦通りってどういう?」


 林という名字の人は大勢いるが、俺が林と聞いて思い浮かぶのは担任だった林先生だ。何か嫌な予感がする。


「そっちが16人でこっちが9人だから勝てると思ったか? 甘い。お前たちはずっと俺たち銀軍偵察部隊によって監視されていたんだ。つまり」


 茂みの中から斧を持った銀軍の兵が次々と出てきてあっという間に囲まれてしまった。

 里菜とミナトや尾口の5人組の女子たちも走って俺の近くに移動した。


「第2ラウンド開始だ!」


 金軍16人VS銀軍39人の戦いが始まった。

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