第59話 ミナトの謎

 祥平が計画したカジノ作戦当日。

 今日も変わらず農作業の労働を終えた俺たちはギルドのアジトに集まっていた。ソファーに座っているありすの隣に祥平が立っている。全員の視線が祥平に集まっていた。


「いよいよカジノ作戦当日だ。心の準備はいいか?」


「大丈夫だよ」


 下級エリアに来て数日、俺のポイントはもう6ポイントしか残っていない。里菜が5ポイントで、洋一は15ポイントだ。

 1日1ポイント自動的に増えるが減るポイントの方が多い。ミナトに関してはもう2ポイントしか残っていない。


「カジノには色々な賭け事があるから自分が興味を持ったやつをやるといい。複数人でプレイする対戦型のものから一人でプレイする個人型まである。まぁ、行ってみればわかるだろう」


 祥平がそう言い終えるとありすを見た。


「どうする? もう移動する?」


「そうだな。時間ももったいないし行くか。今日来る貴族は草加くさかっていうじいさんなんだが、7時頃カジノに来るらしい」


「それなら今から移動すればちょうどいいな」


 洋一が膝に手を付き立ち上がった。


「ミナト君はどうする?」


「ギルドの誰かに残ってもらって留守番かな」


 里菜の隣に座っているミナトにそう言うとミナトが首を横に振った。


「ミナトもいく! りなおねーちゃんといっしょがいい!」


「仕方ねぇから里菜が残ればいんじゃねーか?」


「そう言われても私だってポイント増やしておきたいし」


「じゃあ、知らない。祥平行くぞ」


 洋一と祥平が出て行った。


「ミナト君も一緒に行こうか。でもあたしたちがずっと一緒にいることはできないかもしれないのね。だからその時はこのお兄さんと一緒にいてね。わかった?」


「ちょっ、ボス……」


 ありすがミナトに優しく話すとミナトが大きく頷いた。同じくその話を聞いていたジルが慌てた様子を見せる。


「ジル、これはボスの命令よ。カジノでミナト君の警護を担当すること。ボスの命令は何だっけ?」


「わかりました。ボスの命令は絶対です。でもボスのことは誰が護るんですか?」


「大丈夫よ。はやと君たちがいるし祥平もいるしね。さぁ、あたしたちも行きましょ!」


 ありすに続いて俺もアジトから出た。


 下級エリアの中心地にあるモニターから北区と東区の間に少し行ったところ。そこにカジノはあった。ドーム状のとても大きな建物だ。


「中に入るには国民証が必要だから準備しておけ」


 祥平が認証システムに国民証をかざすと自動ドアが開いた。続いて洋一が中に入る。俺たちも2人に倣って国民証をかざし中に入った。


「凄い騒がしいわね」


「あぁ、これはパチンコか?」


「よく分からないわ」


 中に入ってすぐの場所にはパチンコのような機械がずらーっと並べられていて機械の前に座っている人は皆レバーを握っていた。

 里菜とそんな話をしながら祥平と洋一の後を追った。

 奥に進むとテーブルが複数設置してあった。トランプをしている台もあればルーレットを回してその上を小さいボールが転がっている台もあった。

 笑みを浮かべている人もいれば顔色一つ変えない真剣な人まで様々なタイプの人間がゲームを行っている。


「初めに通ったパチンコが置いてある場所がソロプレイ向けのエリアだ。パチンコの他にもスロットとか色々ある。2階にはシミュレーションの競馬や競艇なんかもあるぞ。それでここが対戦型のエリアだ。大体の台が4人でプレイされる。ソロプレイと違ってここは実力者揃いだからポイントの動きも激しい。貴族が来る今日に限って言えば1000ポイント以上稼ぐことも夢じゃないだろうな」


「そ、そんなに」


 1000ポイントも稼げたら均等に4人にポイントを分ければ中級エリアに進むことが出来る。生活も一気に変わるだろう。選別ゲームに選ばれる確率もぐっと低くなる。


「でもそれはほんの一握りだけだ。俺たちは賭け事初心者だから無理をする必要はない。無理をして自爆なんてしたら元も子もないからな」


 祥平が長い髪をかき上げる。


「ここらでひとまず解散にするかありす?」


「そうね。今が7時過ぎたばかりだから遅くても10時に外の自動ドア前に待ち合わせにしましょうか。ミナト君もいることだしね」


「そうだな。それじゃ作戦開始だ」


 祥平がトランプをしている台の方に近づいて行った。洋一はルーレットの方に向かった。


「はやと、私たちはどうする?」


「うーん、色々試したいけど6ポイントしかないからな。確実にポイントが取れそうな簡単なゲームを探そう」


「そうね。それがいいわね」


 ありすさんもトランプの台に向かったので俺と里菜、ミナトとジルで店内を見て歩いた。

 その結果俺たちでもできそうな簡単なゲームを見つけたのでそれをやることにした。それはじゃんけんのゲームだ。ゲーム機に手が映っていてポイントを賭けることで1回プレイできる。

 グーで勝てば1ポイント。チョキで勝てば2ポイント。パーで勝てば5ポイント。さらに、勝利した後にそのまま続けるを選択すると、勝った場合前に獲得したポイントの倍のポイントを獲得できる。

 例えば1回目にパーで勝ち、続けるを選択してまた勝利すると10ポイント獲得できる。また続けるを選んで勝てば倍の20ポイントだ。その他にもボーナスステージがあったりと意外と作り込まれていてポイントを大量に稼ぐことも可能なようだ。

 しかし、途中で負けてしまうと積み上げた分のポイントが0ポイントになるので止めるタイミングを間違えると損をする。

 俺たちは時間をかけこのゲームで地道にポイントを稼いでいった。


「そろそろテーブルの方に行ってみるか」


「うん。いいわ」


 一桁だった俺のポイントも地道に頑張った甲斐あって63ポイントまで増えていた。里菜も44ポイントまで増やしていた。順調な出だしだ。


「うおぉぉーーーー!!!」


 とあるテーブルの周りに人が集まっていた。


「これで10連勝だ! これを止める奴いるのかよ」


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、あまり騒ぐでない。ちょいと休憩にするかのー」


 白髪交じりの老人が人の間から出てきた。白色のスーツに身を纏っていて何処か上品な雰囲気が出ている。

 老人は俺たちを横切って自動販売機やちょっとした休憩スペースがある方向に歩いて行った。


「さすが貴族クラスの頭脳派と呼ばれるお方だ。噂通りだな草加さんは」


 そんな声が聞こえてきた。


「あれが祥平が言ってた貴族の草加さんか。納得だな」


 思わず思っていたことが声に漏れた。


「ちょっと、ミナト君!」


 草加を見たミナトが急に走り出した。里菜とジルが急いで追いかける。ミナトは草加のすぐ後ろで止まった。


「まさか、われわれできめたせいさくによって、おいこまれるとはな。草加くさかよ。あとのことはまかせたぞ」


「おやおや、どなたかな?」


 ミナトの言葉に草加が振り返った。そしてミナトの顔を見ると草加の顔が固まった。


「ミナト様、ミナト様。よくぞご無事で……」


「ひさしぶり。くさか」


 草加の目から涙が零れ落ちた。

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