第51話 糞みたいな奴ら

 そう言うとありすは大きく息を吐いた。


「ほらっ、あんまり大きい声で話せねぇんだから近づけ」


 ロッドが俺たちに向かって手を招く。それを見た俺たち、いやミナト以外はご飯を食べる手を止めありすの方に体を向けた。

 それを確認するとありすが話し出した。


「あたしもここに来てまだ1年しか経ってないから新国家の全てはわからないんだけど知ってる範囲のことは全部話すね」


「はい。お願いします」


「じゃあ、まず新国家で1番大切なのがポイントよ。新国家ではお金の代わりにポイントが使われてるの。さっき見たと思うけどご飯を食べるのにも1ポイントがかかるわ」


「スマートフォンで支払ってましたよね」


「そう。支払いは政府から支給されたスマートフォンで行われるの。だから絶対に無くさないようにね。国民証も新国家の住人の証だから絶対に無くしたらダメだよ」


「はい。わかりました」


 新国家ではお金=ポイントらしい。ということは俺の全財産は10ポイントということになる。それが円に直すとどのくらいの価値になるのかはわからないが10食分に間違いはなさそうだ。


「ありす、ポイントを増やすことはできないのか?」


 洋一がスマホを見つめながらありすに聞いた。


「もちろん可能だよ。いくつか方法があるわ。1つ目は日付が変わると自動的に1ポイント増えるよ。2つ目は他の人からポイントをもらう方法。そして3つ目が他の人とゲームをして勝つこと」


 自動で1日1ポイント配られるということは1食分は保証されているんだな。ゲームで言うところのログインボーナスに似ている気がする。


「1つ目は理解できたけど2つ目と3つ目をもう少し詳しく教えてもらってもいいですか?」


「わかったわ。ポイントのやり取りはスマートフォンを使えばいつでもできるの。ええと……」


 ありすがポケットからスマホを取り出した。


「例えばあたしは今220ポイント持ってるんだけどそのうちの20ポイントをはやと君に渡すことができるの。大丈夫? わかった?」


「はい。ポイントは自由に受け渡し可能ってことですね」


「そゆこと。次にゲームをして勝つことだけどこれは言葉の通りよ。新国家では不定期でゲームが開催されているんだけど無作為に新国家の国民が選ばれるの。そのゲームに勝てば報酬としてポイントがもらえるのよ。その他にも滅多に見ないけど一騎討ち制ってのがあるみたい。1対1でお互いが納得した方法で勝敗を決めるんだって。一騎討ち制の怖いところは敗者は勝者に全てのポイントを奪われるってところね。だから一騎討ち制はお互いの了承が得られないと行うことができないらしいわ。じゃないと無理強いしたりする人が出てくるからね」


 ここまで説明するとありすはコップ一杯の水を飲んだ。


「あとはそうね。ポイントを増やすならカジノに行くのが1番手っ取り早いかな。負けるリスクはあるけどあそこには全階級の人が集まるからポイントの動きも激しいみたいよ。あたしも何回か行ったことあるし。ちょっとごめんね。話すの疲れたからいったん休憩」


 ありすは欠伸をすると空になったコップを持って立ち上がった。飲み物はセルフだ。


「ありす、俺も行く」


「うん!」


 洋一もコップを持ってありすについて行った。

 ここまで聞いた中だとポイントを増やすのにはカジノが適しているだろう。毎日確実にもらえる1ポイントや他の人からもらえるポイントだけを頼りにしているといつかは無くなる時がきてしまう。

 不定期開催のゲームに期待することもできないし、そもそもゲームの内容によってはポイントがどうこう言う前に死ぬ可能性だってある。

 一騎討ち制も同じだ。負けたら相手に全てのポイントが奪われる。0ポイントになったら脱落。つまりこれも死が待っている。消去法でカジノ一択が残った。


「他に何か聞きたいことはあるか?」


「ジル、ボスが戻ってくるまで待ってろ」


 ロッドがジルを止めた。


「いいや、どのみち説明することになるんだ。だったら俺たちで説明した方がいいだろ。そうすればボスの手間を取らせることもない」


「うっ、それも、そうだな」


 ロッドがジルの言うことに納得したようだ。


「ということで何か知りたいことはないか? 遠慮しなくていいぞ」


「じゃあ、いいですか?」


「あぁ、なんだ?」


 ジルが里菜を見る。


「下級エリアに向かってる際に階級制度の話を軽く聞いたんですけど詳しく教えてもらってもいいですか?」


「あぁ、わかった。階級制度のことはどこまで聞いたんだ?」


「階級が4つあって下から下級、中級、貴族、王の順番って聞いたんですけど何ポイントから何ポイントがどの階級か知りたいです」


「そうか。俺たちがいる下級エリアは1~249ポイントまでだ。中級が250~4999ポイント。貴族が5000ポイント以上。王は貴族で1番ポイントが高い人らしい。俺も聞いた話なんだが、貴族クラスまで辿り着いたのは数人しかいないそうだ」


「中級のポイントの範囲が広すぎないですか?」


「誰もがそう思ってるだろうな。でもその範囲に間違いはない」


「そうですか……」


 下級に比べて中級の範囲があまりにも広すぎる。

 ジルが聞いた貴族が数人しかいないという話を信じれば、新国家の住人は中級と下級が99パーセントを占めていることになる。貴族クラスまで辿り着いた人は相当優れているだろう。化け物並かそれ以上か。


「それに上ばかり見ていてもどうしようもないぞ。まず下級エリアを生き抜かなければ何も始まらない。俺はボスより長くここにいるがまだ75ポイントしか溜まっていない」


「俺もそのくらいだ」


 ロッドがジルに続いた。

 ロッドやジルがそのくらいのポイントと聞くといかにギルドのボスであるありすの220ポイントが凄いとうことがわかる。


「このエリアには糞みたい奴らがいるからな。ボスもなかなか思うように行かなくて困ってるんだ」


「それって一体……」


「キャっ!!」


 こころが俺の腕につかまる。

 突然衝撃音とともに木の扉が勢いよく飛んできた。すると見るからにガラの悪い連中が店の中に入ってきた。20人は超えている。


「おら、何してんだ! はよう飯出さんかい!!」


「その、ポイントの方は持ってらっしゃいますか?」


 受付のおばちゃんが声を震わせて店に入って来てから怒鳴り散らしている坊主頭の男に聞いた。


「あるに決まっとるがな。何、んなこと聞いてんだよ! そんなこと聞く暇あんならはよせんかい!」


「わいらを誰だと思っとるんだ!」


 坊主の男と一緒になって男の仲間と思われる輩が受付に文句を放つ。


「最悪だ。その糞みたいな奴らが来てしまった」


 ジルが溜息を吐く。


「あんっ!! てめえ今なんか言ったか!?」


 坊主の男がジルを睨みこっちに向かって歩いてきた。ジルは男と目を合わせないようにしている。


「お前だよお前。無視してんじゃねーぞおら!!」


 最悪だ。完璧に目を付けられてしまった。

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