第50話 この世界の仕組み
しばらく沈黙が続き、少女が口を開いた。
「本当に洋一君、だよね?」
「うん。随分と変わったな、ありす」
「良かった。生きてたんだね!」
少女が洋一に抱き着いた。どうやら2人は知り合いのようだ。
「あ、あのー2人はどういう関係?」
こころが洋一と少女に聞いた。
「俺とありすは元クラスメイトだ。前にいた高校で起こった選別ゲームの数少ない生き残りだ」
「そうだったんだ。ギルドのボスさんが洋一のクラスメイトだなんてびっくりだね」
「ギルドのボス?」
洋一が首を傾げる。
「下級エリアでギルドって組織を作ったの。あたしは、そこでボスをしてるの」
「へぇー、あの泣き虫だったありすがねー」
「うるさい。それは昔の話でしょ!」
「昔って言ってもまだ1年前の話だろ」
洋一がありすをからかう。2人の雰囲気を見る限りとても仲が良かったのだろう。洋一は俺たちには見せたことのない表情をありすに向けていた。
「ねぇねぇ、ごはんまだー?」
男の子がお腹を押さえている。そういえばご飯を食べに行くという話をしていたんだった。男の子は相当お腹が空いているはずだ。
「あーごめんなさいね。洋一君も一緒に行きましょ」
「ボス、いいんすか? あんまり大勢だとこの前みたく奴らに絡まれますぜ」
「うーん、それもそうね。じゃあ、ジルとロッドは何かあった時のために付いてきて」
「わかりやした」
「残りはここで待機」
「はい!」
ギルドのメンバーは声を揃えて返事をした。
結局ご飯には俺たち5人と男の子、ギルドからはありすとジルとロッドが行くことになった。ジルは俺を捕まえた奴で、ロッドは俺の首を殴った奴だ。ロッドの方がジルより体格がいい。大勢いた中からこの2人が選ばれたということはボスであるありすから信頼されているということだろう。
俺たちはありすに言われるがままご飯が食べられるという場所まで歩くことにした。
「里菜、男の子のことは何か分かったのか?」
「この子ミナト君って名前なんだって。それ以外は何も……」
里菜は手を繋いでいたミナトの頭を撫でた。
「ミナト君、パパとママはどこにいるのかな?」
「わかんない」
ミナトは里菜の影に隠れてしまった。
「はやと、怖がられてるね。ミナト君、この人はとっても優しい人だから大丈夫だよ」
ミナトは里菜にそう言われると俺の顔を凝視した。だが、まだ怖いのかミナトから俺に近づいてくることはなかった。
しばらく歩くと木造の建物が10軒ほど見えてきた。外に明かりが漏れている。人の話し声も聞こえる。
「ここはどこですか?」
「下級エリア北区の外れだ」
ロッドが答えた。
「ここが北区ということはギルドのアジトは西区ですか?」
「あぁ、そうだ。だがそれをあまり大きな声で言うなよ。ここには色んな奴が集まるから聞かれたら不味い」
物凄い形相でロッドに睨まれた。
「は、はい」
「さぁ着いたわ! ここよ」
ありすが建物の中に入って行った。俺たちも中に入る。室内は長机がずらーっと並べられていた。結構席が埋まっていてみんな会話をしながらご飯や麺を食べている。その光景が食堂を思い出させた。
「こっちよ」
ありすとジルとロッドが受付に移動していた。
「定食を9人分お願いします」
「はい。1ポイントが9点で9ポイントになります」
9ポイント? 支払いはポイントなのか。1食1ポイントということは俺は10ポイントしか持ってないから10食で終わってしまう。1日3食だと3日で終わりだ。
「じゃあ、これで」
ありすが政府から渡されたスマホをポケットから出し、受付にあった機械にかざした。するとピロリンと軽やかな音が鳴った。
「ありがとうございます。商品は右から出ますので受け取ってくださいね」
定食を受け取り空いている席に座った。
「ありすさん、さっきの支払い俺たち払わなくて良かったんですか?」
「気にしなくていいよ。今回はあたしが誘ったんだからあたしの奢りってことで」
「でも9ポイントって結構高いんじゃ……」
「ボスがいいと言っているのだからありがたく奢られておけ。冷めない内に早く頂こうじゃないか。ボス、いただきます」
ジルが味噌汁をすすった。
「いただきますっ!!」
それに続きミナトが豪快に生姜焼きを口の中に入れた。
「ありすさん、いただきます」
「うん。どうぞ」
つい最近まで食べていた懐かしい家庭の味が口の中に広がった。今までのことが色々と思い出される。
「えっと、あなた……」
ありすに箸の先で指された。
「はやとです」
「そう。はやと君たちは新国家に今日来たんだよね?」
「はい。もう何がなんだかさっぱりで……」
「じゃあ、約束してたし教えてあげるね。この世界の仕組みってやつを」
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