第49話 ギルドのボス
暗くなった畑の中をひたすら走る。建物の1つや2つでもあれば身を隠すこともできるのだろうが、辺りは何もない。畑や田んぼが広がっているばかりだ。身を隠せるかは分からないが少し左に行けば果物が生っている木がある。俺たちはそこに向かうことにした。
「剛! 左に抜けるぞ!!」
「わかった! は、はやと! 洋一がいない!」
「なんだって!?」
左に進路を変えつつ後ろを振り返る。すぐ後を剛が付いてきていたが洋一の姿はなかった。黒服の集団、警備隊もまだ追ってきている。スピードを緩めたらあっという間に追いつかれそうだ。
「もう洋一はいい。俺たちだけでも逃げるぞ」
左に抜けて木が生い茂っている場所に入り込んだ。このまま奥へと進み追手の視界から消えることができればとりあえずこっちの勝ちだ。追手が諦めたらすぐさまこころと里菜と男の子の救助に向かう。捕まったらその瞬間ゲームオーバー。
「振り切れたんじゃないかな?」
剛が足を止め周りを見る。警備隊の気配が完全に消えていた。
「諦めてくれたのか……」
だが、この静けさが逆に変な違和感を生み出している。風が吹き草木が揺れる。奥に進んだことで俺と剛の周りには木と背の高い草しか生えていない。田畑の時とは状況が変わり視界が狭くなった。これではどこから警備隊が出てきても気付くことができない。できたとしても反応が遅れてしまうだろう。
「もしかして振り切れたんじゃなくて追い込まれた……」
警備隊は初めからこの場所に誘導しようとしていたとしたらここは危険だ。
「えっ、だって人の気配はないよ」
「気配がなくたってそこに人がいないと断言はできないだろ」
「ま、まぁ」
すると突然草の影から黒服の2人が飛び出してきた。警備隊だ。2人は草の近くにいた剛の足を掴むと地面に抑え込んでしまった。
「はやと、はやとは逃げろ!」
「ご、剛……必ず後で助けに行くからな!」
剛を残して木の間を必死に走っていると木の上から人が降ってきた。気付いた時にはもう遅く黒服の集団に囲まれて捕まってしまった。
「ここで俺が捕まったら誰があいつらを助けるんだよ! 捕まる訳にはいかないんだ! 離せ! 離してくれ!」
「暴れるな!」
「うるさい! 離せ! 離せよ!!」
黒服の集団に手足を抑え込まれたが逃れようと必死に抵抗した。ここで捕まったら全員脱落してしまう。しかし、1対5では力で勝てるはずもなく抵抗することすらできなくなった。
「やっと大人しくなったな」
「殺すのか?」
「いいや、それを決めるのは我々ではない」
「はっ? どうゆうことだよ。あんたら警備隊ってやつなんだろ? 捕まえたら即脱落にするんだろ」
「…………殺すにせよ上の許可が必要だ。お前が死ぬかどうかはボスに聞いてからだ」
「ボス? ボスって誰だよ? 新国家の王様のことか?」
「ジル、喋り過ぎだ。お前もだ。少し寝てろ」
「グアッ!」
黒服の男に首を叩かれ視界がぐわんぐわんと揺れた。そして力が抜け徐々に目の前が真っ暗になっていった。
目が覚めたらそこは知らない建物の中だった。薄暗い照明に薄汚い部屋。しみや傷が壁のあらゆるところに見受けられる。というかここはどこの建物なのだろう。下級クラスの田畑エリアに建物はなかったはずだ。
俺はロープで手足を縛られていて冷たい地面の上に横になっていた。
「これ、は、生きてる、のか?」
「はやと!」
「こころ! 里菜! 剛!」
3人も俺と同様手足をロープで縛られていた。男の子は縛られることなく里菜の前に座っていた。
「よし、全員起きたか」
「あ、あいつ……」
俺の首を殴った男が奥から姿を現した。黒服だと思っていたのはマントだった。マントの中は男も女もタンクトップ1枚しか着ていない。黒のマントを羽織った男女15人ぐらいが俺たちを囲むように立っている。
「ボス、全員目が覚めました」
「そう、今行く」
奥のソファーに座っていた女が手を上げるとしばらくして立ち上がった。背を向けているためボスと呼ばれた女の顔は分からないが随分と小さいように見える。中学生? いや小学生か?
「手荒なことをして悪かったね。こっちも余裕がなくってね」
女が振り向きようやくその顔を見ることができた。ぱっちりとした大きな瞳にぷっくらとした唇、髪の毛はショートカットでやはり幼く見える。服はボロボロのタンクトップ1枚に至る所破れているハーフパンツを着ていた。
「小学生?」
「もう、失礼ね! こう見えてもあたしは高校生だよ」
少女が両手を腰に当て胸を張る。そう言われてみればタンクトップの上から胸の膨らみが分かる。この膨らみの大きさは小学生のものではない、か。
「あっ、今ここ見たでしょ」
少女が自分の胸を手で隠す。
「ちょっとはやと!」
こころに腕をつねられた。少女はそれを優しい目で見ている。ボスと呼ばれた少女から敵意は全く感じられなかった。
「あなたたちの話を詳しく聞きたいんだけど長くなりそうだし場所を変えましょ。そうだな。お腹空いてない?」
「ちょっ、ボス! いいんですか? まだこいつらがどこの誰かも……」
「あたしがいいって言ったらいいのよ。で、どう? お腹空いてる?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! お前ら一体何者なんだ? 警備隊じゃないのか?」
「はっはっはっ、ごめんなさい勘違いさせちゃったわね。警戒しなくていいわよ。あたしたちもあなたたちと同じ。元々は外の住人だったから。ここではギルドと呼ばれるチームを作って仲間を増やして生活しているの。あたしはそのギルドのリーダー、みんなからはボスって呼ばれてるわ」
話しながら少女はソファーにかかっていた黒いマントを羽織った。俺たちも男に手足のロープを切ってもらい自由になった。
「ギルド……信じていいのか?」
「あたしがあなたたちを捕まえるようジルたちに命令しなかったら今頃あなたたちは本物の警備隊に捕まってあの世だったのよ」
「そうだったのか」
この少女の言ったことを信じるとすると俺たちは知らない間に助けられていたということになる。
「この世界のこと知りたいでしょ。僕もお腹空いたよね?」
里菜の前に座っていた男の子がぶんぶんと頭を縦に振る。
「さぁ、話はご飯を食べながらにしましょう」
少女がドアノブに手をかけるより早くドアが開いた。
「ボス! もう1人捕らえました!」
苦痛の顔を浮かべた洋一が部屋に入ってきた。
「ったく、いってーな。んっ?」
洋一と少女が目を合わせて数秒固まった。
「あ、ありす?」
「洋一、君……」
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