第35話 決意

 体育館に無数の銃弾が飛び交う。

 全員銃を扱ったことがないので、距離があると命中させることは難しい。壁に弾がめり込むばかりで、誰1人として被弾することはなかった。

 俺は、Bチームのみんなに体育館から出るよう促した。

 体育館の入り口は2箇所だ。片方はAチームに占拠されているので、もう1つの扉を目指す。

 トイレに行った空雅は、まだ体育館に戻ってこない。


 扉を目指している際も攻撃は止まない。1人5発しか弾がないためAチームはローテーションしながら効率よく撃ってくる。

 俺たちは、その攻撃を搔い潜りながら走った。俺と蓮が集団の後ろを走り、銃で威嚇をした。女子4人にはとにかく前だけ見て走るように言った。


「急いで!」


「きゃっ!」


 扉に弾が当たった。

 無事に体育館から出ることはできたが、俺と蓮の残弾は1発になった。Aチームの人も結構な数を使ったはずだ。


「洋一、どうするの? 誰か殺さないと……」


「そうだな。わかってる」


 誰かを殺さないと俺たちの中の誰かが死ぬ。今まで避けてきたけどやらなくてはならない瞬間がとうとうやってきたということか。

 ここでは、変わり続ける環境に適応できない人間が真っ先に死ぬ。生きたいなら殺すしか現状、道はない。


「みんなは、戦うってことでいいんだよな?」


「うん」


 全員頷いた。


「私たちの誰かがいなくなるよりは全然まし」


 芽以が拳銃をまだギュッと握りしめながらそう言った。


「よしっ、戦おう」


 狙うならどっちのチームがいいのだろうか?

 Aチームは、残り9人だけど葵がCチームと行動をしている。Cチームは、残り6人。そういえば、まだCチームは誰も脱落していない。

 普通に考えたら人数が多いAチームを狙うべきか。Cチームは、体育館から出て行ったきりどこにいるかわからない。


「ひとまずここから離れない?」


「だよね。いつ誰が来るかもわかんないし」


「そうだな。プールの方に行くか。あそこなら滅多に人は来ないだろ」


 校舎を出てプールの脇にある女子更衣室の中に入った。

 プール独特の塩素の匂いがする。俺は、この匂いが嫌いではない。かといって好きでもないが。


「プール懐かしいね」


「1カ月前まで入ってたよな」


 8月の夏休みの間、学校のプールは自由開放されていた。

 学校に水泳部はあるが、水泳部は学校のプールを使わないでどこか別の場所で練習をしているらしい。

 だから、夏休み期間中は、俺たちみたいな暇をしてる人がプールに集まったのだ。

 1カ月前が遠い昔のように感じる。


「シャワーって出るかな?」


「ん? どうだろー」


「何かするのか?」


「えっ、えっとね、ずっとお風呂入ってなかったから汗流したいなーって。でもこういゆう状況だし……」


 志保が顔をほんのり赤らめながら体を小さくした。

 男子はあまり気にしなかったが、女子は匂いが気になるようだ。年頃の女の子なら尚更か。

 しかし、いつ誰が来るかもわからないデスゲーム中に、わざわざ危険を犯すようなことは、出来る限り回避したいところだ。


「ちょっと見て来るよ!」


 蓮がシャワーから水が出るかどうか確認しに行った。

 スマホが振動した。


【蜂谷結衣、脱落。Aチーム残り8人。Cチーム、特別ルール達成。】


「結衣ちゃん……」


「Cチーム達成したみたいだね」


 AチームとCチームが戦っているのか?

 特別ルールを達成したからもうこれ以上Cチームは動かなくてもいいはずだ。でも祥平がいるから何をするかわからない。

 そんなことを考えていると更衣室の扉が開いた。


「シャワー使えるよ!」


 それを聞き、ありすが目で訴えてくる。シャワーを浴びたい、と。


「わかったよ。俺と蓮が見張りしてるからシャワー行ってきていいよ。でもできるだけ早くしてくれ」


「やった!」


 ありすが制服を脱ぎだした。


「ちょっ、ありす早いって」


「洋一君と蓮君が出るの遅いんでしょ。そんなにありすの裸が見たいの?」


 ありすがスカートまで脱ぎだしたところで、俺と蓮は慌てて更衣室を飛び出した。

 俺たちは、プールの入り口に銃を持って辺りを警戒する。特に人の気配はない。

 もし攻めてこられたら俺も蓮も1発ずつしか弾が残っていないので、やや不安だ。

 背後からきゃっきゃっ、とシャワーを浴びる女子の声が聞こえる。どうせなら覘いてしまいたい。シャワーなど浴びている場合ではないだろうに。


「蓮は、右を見てて、俺は左を見てるから」


「了解!」


 俺のスマホがまた振動した。空雅からの着信だった。


「もしもし」


『洋一、今どこにいる?』


「いや、ごめん言えないよ」


『あー、そっか悪い。そうゆうことじゃないんだ。今、外の部室の方に来れるか?』


「なんで?」


『殺人犯を殺すのを手伝って欲しい』


「誰かわかったのか!?」


『結構前から目星は付いてたらしいんだ』


「ちょっと待って。らしいって何?」


『祥平から聞いたんだよ。怪しい人がいるってさ。大勢だと気付かれるから洋一、1人で来てくれ。サッカー部の部室で待ってる。じゃあ切るぞ』


「…………」


 断る隙もなく一方的に電話が切られた。

 祥平からという時点で怪しい。1人で行って大勢で待ち構えられていたらどうしよう。


「洋一、誰から?」


「空雅から。なんか殺人犯の目星が付いたから来て欲しいってさ」


「そうなんだ。一緒に行った方がいい?」


「えっと、1人でって言われた」


「そっかー。どうするの? 洋一がしたいようにしたらいいと思うよ。ここは1人でも多分大丈夫そうだし」


「じゃあ、とりあえず様子だけ見て来るよ。みんなに伝えててくれ。危ないと思ったらすぐここに帰って来るから」


「おっけー」


 リスクは大きいが、殺人犯をいつまでも野放しにしておくわけにもいかない。誰かが動かないと殺人犯に全員が殺されてしまう。

 俺は、銃を右手に持ったままグラウンドの横にある部室に向かった。

 酷い孤独感に耐えながら1歩1歩足を進めた。

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