第32話 豹変と暴走

「あれでダメだったらやっぱりゲームに従うしかないな」


「私たちじゃ政府に逆らうこともできないね」


「このゲームで生き残るしかない……」


 外を見ていたかける乃愛のあが話をしていた。

 翔が銃の上部分をスライドさせる。すると、カチャッという音がした。


「翔! 待てって!」


 翔が教室で座っていた海沙に銃口を向けた。

 俺と蓮が翔にタックルをして地面に叩きつける。翔の手から銃が離れて床を転がった。


「みんな抑えるの手伝ってくれ!」


 俺の声を聞いてBチームのみんなが暴れる翔を抑える。


「やめろ! どうせこのままだと死ぬんだ! 早いか遅いかの違いなんだよ!!」


「どうしちまったんだ翔! 落ち着けってお前は、こんなことする奴じゃなかったろ」


「離せよ洋一! もう無理なんだよ!」


 普段温厚な翔とは思えない暴れようだ。まるで人が変わってしまったかのようだ。


「どうした!」


 教室に空雅が走り込んできた。


「翔、お前……涼太! ぼさっとしてないでこっちに来い!」


 転がっている拳銃、抑えられている翔を見て状況を理解したようだ。

 空雅が涼太を呼んで一緒に翔を抑えてくれた。


「あれっ? 公彦は?」


 公彦は、外で動かなくなった黒崎とスマホを交互に見ていた。


「許さねぇ。ぶっ殺してやる」


 その言葉を残し、廊下に走って行ってしまった。

 まずい。みんなおかしくなってきている。

 鈴が脱落したってメールもきたし、この混乱した状況で殺人犯も動き出したってことか?


「ちょっとここは任せた」


「おっ、おい、洋一」


 背中に空雅の声が届いたが、その声を無視して俺は公彦を追って走った。公彦は、ぶっ殺すって言っていた。放っておいたらまずいことになる。


「公彦、待てって!」


「ついてくるな!」


 公彦は、廊下を曲がり職員室に入って行った。俺も後を追って職員室に入る。


「おやおやどうしましたか?」


「半田先生。林はどこにいますか?」


 息を切らしながら公彦は、半田先生に林の居場所を聞いた。


「林さんなら放送室にいると思いますけど。どうしたんですか? 2人共そんなに慌てて」


「ちょっと林さんに聞きたい事があって」


「そうですか」


「失礼します」


 林にさんを付けるのを抵抗した感じで言った公彦は林の居場所を聞き、3つ隣にある放送室に向かって走って行った。

 俺は、職員室に残り銃撃戦のことと鈴が脱落したことを先生に伝えた。


「そうですか。鈴さんが……残念です。力になれなくてすみません」


「いえ、先生が謝ることではないです。じゃあ、公彦のところに行くので失礼します」


 職員室を出ると銃声が1発鳴り響いた。


「公彦……」


 放送室のドアを開ける。

 そこには、林と倒れた公彦がいた。


「公彦!」


 公彦の体から血が出ていたが、心臓は動いていた。


「安心して大丈夫ですよ。麻酔銃を撃っただけですから」


 林の手に拳銃が握られていた。


「勘違いしないで下さい。撃たれそうになったので、自分の身を守っただけですよ。正当防衛ってやつです。それに外にいる方達も死んではいませんよ。この銃で撃ったので生きています。目覚めた後、罪に問われることになるとは思いますが」


「林さんあなたは一体?」


 林は拳銃をテーブルの上に置いた。椅子に座り、くるりと半回転する。


「私はただの選別ゲーム課の人間ですよ。ゲームがスムーズにいくように導くのが私の仕事です。どんなハプニング、アクシデントがあろうと迅速に処理するのが役目なのです。安心してください。私が人を殺すようなことはありませんから。何があろうと。そうゆう風に上から言われてますので」


 そして、またくるりと椅子を半回転させた。

 俺は、公彦を揺すって起こそうとするが、麻酔が効いているのか反応1つない。


「彼が起きたら君に話したことを伝えておくから先に行ってもらって構わないよ。ちゃんと話せば彼も分かってくれるだろう。それにここは安全だから」


 林を信頼していいのだろうか。言っていることに嘘はないと思う。だが、躊躇いもなく引き金を引く男だ。もし公彦に何かあったらと思うと怖い。自分のせいで友達にもしものことがあったらと考えると怖い。この男を心から信頼することはできない。


「いえ、公彦が起きるまでここにいます」


「そうか。友達思いなんだな君は」


「…………」


 俺は、公彦の隣に座った。この数時間で色々起こり過ぎている。公彦の家が雇っている武装集団の襲撃、鈴の脱落、翔が海沙を殺そうとしたり、公彦が暴走したりと収拾がつかない。

 鈴を殺した人は誰だ? メールが来た時に教室にいなかった人が犯人だ。あの時教室にいなかったのは、Aチームの空雅、鈴、ショーン、陽菜。Cチームは祥平、武。

 殺された鈴を除くと5人とだいぶ絞られる。全員人を殺すようには見えない。

 殺人犯について考えていると公彦のポケットの中からスマホの着信音が鳴った。

 俺のスマホも音を鳴らしながら振動している。


【真壁翔、ゲーム続行不可能の為、脱落。Aチーム残り9人。またルールを破った為、駒田海斗を脱落とする。Bチーム残り7人】


「はあ!?」


 思わず声を上げて立ち上がる。


「みんなのところに行った方がいいんじゃないか?」


 林がこっちに顔を向けないままそう言った。

 俺は、公彦を見る。まだ目を覚ます気配はない。


「大丈夫ですよ。何もしないから」


「……」


 こっちを見ずとも林には見えているようだ。俺の心の中まで。

 俺は、何も言わず放送室を後にした。

 ゲーム続行不可能? 空雅がいたはずだろ。何をやっていたんだ? ルールを破った為って……。


「くそぉおおおおおおーーー!!!!」


 廊下を全力で走り教室に向かった。

 もう何かを考えようとしても頭が上手く働かなかった。

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