第30話 これから
「クウガ君、ヨウイチ君、今、言うタイミングじゃないと思いますけど、聞いてもいいですか?」
「あぁ、どうした?」
アメリカ人の父を持つ、ショーン・フラント・フェイスがぎこちない日本語で聞いてきた。
「これから、僕たち、ゲーム続ける。ご飯どうしますか? 寝る場所どうしますか? 学校から出れない、困ります」
「そうだな。綾のことも大事だけどショーンが言ったことも考えないとな」
これから数日、数か月、いやそれ以上続くであろうこの的当てゲームにおいて食事の問題は大きい。
まず、俺たちのクラスが選別ゲームをしている期間、学校は通常通り授業を行うのだろうか?
通常通り授業があるならば、食堂や購買部がやっているので、食の問題は回避される。
しかし、俺たちが銃を所持している以上、他の生徒が危険にさらされるからやらない可能性の方が高い。
そんなことを考えていると空雅が半田先生に質問をした。
「先生、明日って他の生徒は、授業あるんですか?」
「いいえ、みなさんの選別ゲームが終わるまで学校は休校という形になります。みなさんは、気にしなくて大丈夫ですよ」
「そうなんですか」
やはり、予想通り授業はないようだ。
思いつく食料といえば、いつからかリュックに入れっぱなしになっているスナック菓子の袋が1つ。12個入りのガムが残り何個か。それと朝に自動販売機で買ったスポーツ飲料500ミリリットルぐらいだ。
全く食料を持っていない人もいるだろうから俺は持っている方なのかもしれない。
しかし、お菓子だけでは何日ももたないだろう。
災害に合った人や山で遭難した人は、水だけで10日間以上凌いだというニュースを見たことがあるけれど、それをクラス全員でとなると難しいものがある。多少なりとも栄養があるものを摂取しなくては。
今度は、俺が半田先生に聞く番だ。
「先生、学校に食べ物ってありますか? 食堂とかにないですかね?」
半田先生は、腕を組み少し考え込んだ。眉間にしわが寄っている。
「そうですね。食堂にあるかはわかりませんが、文化祭で残った食材が他のクラスにあるかもしれません」
それがあった。
1年4組は、焼きそばの食材と射的の景品は全部売れてしまったためない。だけど、他のクラスなら何かしら残っているかもしれない。
「探しに行こう」
「じゃあ、空雅たちが3年生の教室で、俺たちが2年生の教室を回って……」
そこで、俺は祥平の顔を見た。
祥平は、スマホの画面を見ていて、一連の話を聞いていたのかいなかったのかわからなかった。
「祥平は、1年生の教室を探してくれ」
「わかった」
今まで全く口を開かなかった祥平が、そう返事をしてポケットにスマホをしまった。
空雅が葵の席の前に立つ。
「葵、行こう」
「何が、食べ物を探しに行くよ……綾が死んだのよ」
葵の暗く冷たい目と言葉が俺の心にも響く。
クラスメイトが死んだのに呑気に食べ物を探しに行っている場合ではないのはわかっている。俺も悲しい。悲しくない人など、このクラスにいないだろう。
そして、それと同時に怖い。この中に綾を殺した奴がいるのかと思うと怖くて仕方がない。
でも今は、今後のことを考えて食料を確保しておいた方がいい。そうしなければ全員餓死してしまう。
空雅は、葵の言葉に何も言えず立ち尽くしていた。
「私はいいわ。そんなに食べ物が欲しいなら勝手に行ってくればいいじゃない」
「葵……」
空雅たちAチームは、葵を残して教室を出て行った。
俺たちは、2年1組から7組までを順々に回り、何か食べられるものがないか探した。教室に入るときに電気を付けて出るときに電気を消した。電気を消す意味はないのだが、なんとなく消して出た。特に理由はない。
上級生の教室の雰囲気は、新鮮で緊張した。
今年の目標と書かれた紙が壁に張られていたり、何かの賞状が飾られていたりとクラスによって様々だった。
机の上、教卓の上と置いて帰りそうな場所を見たが、なかなかそれらしきものを見つけることはできなかった。
2年生の人には申し訳なかったが机の中も確認した。しかし、食べ物は飴玉ぐらいしか出てこなかった。
「洋一君、飲み物あったよ!」
志保が隣の教室から出てきた。段ボールに入った飲み物を見つけたらしい。中には炭酸飲料が入っていた。
志保が重そうに段ボールを抱えている。
「重いでしょ。持つよ」
「ありがとう!」
志保から段ボールを受け取る。
全てのクラスを見終わったが、結局志保が見つけた炭酸飲料以外はなかった。文化祭で全部使い切ったクラスがほとんどだったようだ。あるいは残ったものをクラスで分けて持ち帰ったのか。
俺たちは、段ボールを持って教室に戻った。
教室には、机に伏せている葵だけがいた。早くに着いてしまったのでみんなの帰りを待つ。
少しして祥平が戻ってきた。祥平のグループは、野菜が大量に入った段ボールを2つ見つけたらしい。じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、キャベツなどが入っていた。
空雅のグループは、小麦粉を持ってやってきた。
「ごめん。これしかなかった」
空雅が小麦粉を教卓の上に置く。
「こっちは飲み物だけだったよ」
「飲み物に野菜、小麦粉か」
「まあ、こんなもんか」
みんなが持ってきた食材を教卓に集めてどうするかを話し合った。
話し合いの末、限られた食材を大切にするべく、朝と夜の2回に当番制で誰かが調理し、全員揃って食べるということになった。反対する者は、誰もいなかった。
夜は、女子が中心になって作った野菜炒めを食べた。味付けもきちんとされていて美味しかったが、誰も美味しいと口には出さなかった。
綾が誰かに殺されたことでそうゆう雰囲気ではなかった。
食べ終わり片付けを済ませると男子で寝床の準備に取り掛かった。床に寝ると体が痛くなるので、体育館にあるマットを敷きそこで寝るということでまとまった。
思春期の男女だ。何があるかわからないので、体育館の左右で男子と女子が分かれて離れた場所で寝ることにした。布団はなかったが、文句など言ってられない。
今日の出来事が全て夢だったらいいのにと思いながら無理矢理寝た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます