1日目
第1話 始まりの日
10月10日(水)
朝早いのは本当に苦手だ。いっそのこと午後から登校したいものだ。
そんな叶うわけない願望を頭に浮かべていたとき玄関のチャイムが鳴った。
「はやとー!! こころちゃん来たよ! 早く降りてきなさい!!!」
母さんの渾身の叫びが家中に響き渡った。
「はやとー、また遅刻するよー」
玄関から俺の彼女である加藤こころが呼んでいる。
ここでさっきまで願っていた願望を完璧に消し去った。それに、これ以上遅刻したら留年の危機でもあるので、うかうか寝てはいられない。
だが、眠いのはどうしようもないのだ。
目を擦りながらも急いで着替え、こころが待つ玄関に向かった。
「あッ! やっと降りてきた。はい! これ朝ごはん」
いつもこんな調子なので、朝ごはんは家で食べずに学校で食べている。少しでも寝る時間を確保するためだ。
「いってきまーす」
「いってらっしゃい」
「はやと急がないとやばいよ!」
スマホを見て時間を確認する。
「やべッ、後10分じゃん」
8時30分まで残り10分。全速力で走ればギリギリ間に合いそうだ。
「こころ悪い走るぞ!」
「うん! いっそげーー!!」
俺とこころは、学校まで全力で走った。
チャイムと同時に教室の後ろのドアから入る。
「あっ! はやと君おはよう!」
親友の
誠は、教室の1番後ろの廊下側の席だ。ちなみに、俺の席は誠の隣だ。それで、俺の前がこころの席だ。
「おはよう誠!」
「まこっちゃんおはよー!」
「お、おはよう2人共」
「んっ、なんだ? 今日は静かだなみんな」
いつもならチャイムが鳴っても飽きずにペチャクチャと話をしているはずだが、今日は誰1人として話をしていない。それに全員大人しく座っている。
ある1人を除いて。
「先生。全員揃いました」
クラス委員の
「おー、そうか! よしっ、はやと、こころ席に座れ!」
体育教員の林先生がジャージの袖を捲り教壇に立つ。何かの冊子を持っている。
「みんなには、さっき軽く説明したが全員揃ったんでもう1度説明する。ちょっと待っててくれ」
先生が教室から出て行ったのと同時にみんなの顔が曇る。
「おい、おい誠。何があったんだ?」
「はやと君。とうとう僕たちもせんべ……」
ガラガラガラッ。
「ささっ、どうぞお入りください」
「失礼します」
林先生が見たこともないスーツ姿の男を2人連れてきた。
「では、説明をお願いします」
「はい。えー、初めまして。私は、日本政府からやってきました佐々木と申します。本日は、ここ楠木第二高等学校2年C組のみなさんが選別ゲームの対象に選ばれましたのでその説明に参りました」
太い声で40代半ばの佐々木と名乗った男が話し出した。
そういうことか。噂で聞いたことがある。
人口が爆発的に増えた日本に導入された選別ゲーム。ゲームで脱落したら新国家から追放され、生き残った人のみ新国家に迎え入れられる。脱落者は、奴隷同様かそれ以下の生活をしていて、自殺する人も絶えないらしいとかなんとか。
だからみんな暗い顔をしていたのか。
「みなさんにやってもらうゲームはどろけいです」
「どろけい!? 子供の頃によく遊んだあのどろけいかよ」
シリアスなゲームを想像していた俺は予想外なことを言われ、ビックリして立ち上がってしまった。
「はやと、声でかいよ」
こころが振り返り小さく笑う。
「はやと座れ!」
「はい。すいません」
「それでは、説明を続けます。どろけいとゆうのは、みなさんが頭の中で想像しているもので合っています。誰もが1度はどろけいをして遊んだことがあるかと思います。そのどろけいを選別ゲーム用にアレンジ致しました。では君、例の物を配って」
佐々木の隣に立っていた男が、林先生が持っていた冊子と同じ物を配り始めた。それと一緒に1人1台スマートフォンが配られた。
「どろけいのルールは、その冊子に書いてあるので各自で読んで下さい。わからないことがあれば質問をどうぞ」
なになに、俺は冊子をめくる。
【選別ゲーム・どろけい】
ルール
1、クラス全員は警察と泥棒に半分になるように分かれる。
2、ゲームは5日間行われる。(途中休憩有)
3、警察チームは泥棒チームを捕まえる。(触れればok)
4、泥棒チームが全員捕まる又は脱落、警察チームが全員脱落した場合は強制終了となる。
5、乗り物の使用は禁止
警察側のルール
1、逃亡している泥棒を捕まえる。
2、捕まえた泥棒を牢獄に収監する。
3、牢獄の防衛
4、1日に泥棒を2人以上捕まえることができなかった場合は、泥棒を捕まえることができなかった者2人を脱落とする。
泥棒側のルール
1、警察から逃げる。
2、捕らえられた泥棒を救出することが可能。逃亡している者が捕らえられている者に触れることで逃亡可能。
3、1日で2人捕まってしまった場合はランダムで2人を脱落とする。
4、5日間のゲーム終了後、最後まで捕らえれていた者を脱落とする。
ルールを読み終えたのか教室がざわざわと騒がしくなった。
5日間か。警察と泥棒どっちになっても大変だなこりゃあ。俺とこころは、運動が苦手じゃないからいいけど——————今日も学校まで走ってきたくらいだし。心配なのは誠だな。
誠は、運動部に所属しているわけでもないし、体育での様子を見てきた限り運動が苦手だ。
「はやと君、5日間なんてどーしよう……」
「頑張って生き残るぞ誠!」
「大丈夫だよ、まこっちゃん」
大丈夫、と、こころが誠をなだめるが誠はもう涙目になっていた。その涙目の誠が手を挙げた。
「質問ですか?」
「あっ、はっ、はい。このゲームはやらないとダ、ダメなんですか? できればやりたくないんですけど……」
誠が声を震わせながら佐々木に聞いた。
「ゲームには、どんな理由があろうと必ず参加して頂きます。国で決められていることですので。尚、ゲーム中に棄権することも認められておりません。それでもやりたくないという方がもし、いらしたら脱落という形になりまのでご了承下さい」
「そ、そうなんですか……」
ゲームには強制参加で途中棄権することも認められない。この選別ゲームは理不尽すぎる。
「脱落するとどうなるんですか?」
俺が質問してみた。ルールにも書かれていた脱落について何も教えてもらえてないため気になっていたのだ。
「脱落について現段階では、何もお答えすることはできません。すいません。決まりですので」
「そうですか。分かりました」
分かりました、とは言ったもののますます引っ掛かる。脱落が何か分からないままゲームを始めるなんて怖すぎる。
脱落したら一体どうなってしまうのだろうか。
「あの、俺もいいっすか?」
教卓の真ん前、1番前の席に座っている
「このスマートフォンは、なんですか?」
「あぁ、この端末は、私たちからの連絡用だったりクラスメイト間で連絡を取る用です。常に所持するようにお願いします。充電は、特殊な装置を使っているので無くなることはありません」
「おぉー、凄いなこれ」
スマートフォンを触った感じだと普通のスマートフォンと何ら変わらないようだ。操作方法も同じだ。
「すいません!」
クラス委員の明日香が手を挙げる。
「どうぞ」
「ルールは分かりました。ですが、1番重要な警察と泥棒の分け方が書かれていませんが、どのように決めるのですか?」
「それは、みなさんが平等になるようにくじ引きで決めようと思います。箱の中に1と2が書いてある紙が入っているので1枚引いて下さい。1が出たら警察。2が出たら泥棒になります。15枚ずつ入っているのでちょうど半分に分かれます」
「なるほど。それなら平等ですね」
明日香が納得したようだ。
「それでは先生、箱をお願いします」
「はい」
林先生が箱を持ってきて教卓の上に置いた。
「それでは、廊下側の1番前の生徒からくじを引いてください」
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