空色の日

汎野 曜

1日目 光と湯気

メルルが見えた。

僕は目覚めた。飴色の部屋に差す朝の日差しが眩しい。

起き上がって窓を見上げた。空が青かった。

もう一眠りすることにしよう、そう思って、僕は身を横たえた。

視界に小さく開いた青い空が色彩を僕の眼に投げかけた。

夢が見たくなった。

小さく目を閉じた。


再び目を開けたとき、何を夢見ていたのか覚えてなかった。

空の青さが、深くなっていた。

起き上がってベッドから降りた。

パジャマのままで階段を下りた。

緋色の空気が僕を包んだ。


メルルは僕のためにトーストを焼いてくれた。

暖かい、と思った。気分が良くなって、言った。

「今度一緒に動物園につれてってあげるね」

メルルは、にっこりと微笑んでくれた。

僕はその顔を見てまた、暖かいと思った。


食事を終えた後、僕は散歩に出た。

通りには誰も居なかった。一台の車も無かった。いつもと変わらなかった。

空には雲一つ無かった。空が見たいと思った。


ガラスのエレベータが僕に街を見せてくれた。

彼は最上階で僕の背を押した。

「行っておいで。」


80階建ての屋上だった。

何も無かった。空が青かった。

無限の彼方まで青い空と灰色の街が広がっていた。


「君は、海を見たことがあるかな。」

話し掛けられて、少し困った。

「青いんだ。」

海が見たくなった。今度メルルと一緒に行こうと思った。


屋上の風は冷えた。僕は寒くなった。

「ただいま」

メルルが僕を見てにっこりした。

僕が歯を打ち鳴らしているのを見て、ココアを淹れてくれた。

ココアなのに、苦かった。

もう、空気が飴色に戻っていた。


小さな窓から、空を見た。

菫色の空が星を浮かべていた。

僕は眼を開けていた。星の声が聞こえたような気がした。


空の色が真っ黒になって、僕は眠った。


ヒトという生命体が、遥か昔この空の下にいた。

彼らが何を思い、何を考えていたのか、今では誰にもわからない。

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