ドラゴンとボク

絶望&織田

第1話 はじめての友達

栄華を誇った文明が滅んだ。


僅かに残された文明の軌跡はわずかだった。


多くの人々は栄華の再興を望んだ。


廃墟ビルが点在する都市部には今の世界では作れないような不思議なものが多く、存在するという。


人々はそこへ雪崩込むのに時間はあまりかからなかった。


多くのドラゴンはそれを空から見ていた。


一匹のドラゴンは人間達にたずねた。


「人間よ文明を求めて、今度は何をする?」と。


一人の人間が答えた。


「ドラゴンのように強く、火を吐き、空を飛べるほどに、自由になりたい」と。


ドラゴンは怒り狂い人間達を都市から追い立てた。


それから人間は都市部に入ることはできなかった。


空には目がある、ドラゴンが人間達を監視している。


人は空を恐れドラゴンが現れると頭を垂れて、命乞いをした。


一匹のドラゴンは笑って言った。


「ならば子供の生贄をよこせ」と。


ドラゴンの獰猛な瞳は人間の幼い子供を捉えていた。


親は我が子を庇うように立ち叫んだ。


「どうかこの子だけは!生贄なら私達を!」と。


ドラゴンは火を吐き大地を焼いた。


僅かに残されていた緑の大地は瞬く間に消えて、残す緑は僅かとなった。


後から多く残されたのは汚染された砂漠とドラゴンだけだった。





夏。


青空がどこまでも広がって、ボクは自然と笑みが浮かんだ。


「さぁ今日も畑仕事を頑張るぞ」


両親が残してくれた家は砂漠の真ん中にある。


家に残された本を読んでいくうちに分かった事。


砂漠は汚染された大地だ。


詳しい理由はよく知らないけれど、その上を人や動物が歩くと体から元気が奪われて、歩いた数だけ寿命が削られて、眠るように死んでしまうらしい。

例外はドラゴンだけ、彼らはその上を歩いても死ぬことはない。


家の土地は僅かに残った緑の大地だ。


ほっとくと畑に雑草が生えるから早く起きて草をむしる。


春先に植えた苗の一つのトマトは実っていて、今日も豊作だった。


刈り取りの際は感謝を言うのが日課の一つだ。


「ありがとう、これでまた今日もボクは生きていけるよ」


ボクは他の人より長く生きられない。


もっともは両親以外見たことはないのだけれど。


両親が教えてくれた。


昔、二人がドラゴンに追われて仕方なく幼い僕を連れて砂漠を歩いたことを。


おんぶしていたらしいけれど、それでも病は確実に僕を蝕んでいるらしい。


両親はこの病を「永眠病」と呼んだ。


時よりボクは強い睡魔に襲われて、寝てしまう。


寝てしまう時間はまちまちで、5分から5時間と日によって違う。


最初は一週間に一回程度だったけど、最近は三日に一回のペースで短いペースになってきている。


炎天下の中、眠りこけたら日射病で大変なことになる。


だから作業は素早く短めにしている。


刈り取りが終わると頭上に影が差した。


僕より少し大きめな影だった。


見上げてみると女の人で、翼を生やしていた。


本や聞いていた話しとは違う。


でも直感的にドラゴンだと思った。


ドラゴンは銀色の髪をなびかせて、ボクを睨みつけると叫んだ。


「おい人間の子供、聞きたいことがある!」


「は、はい!」


ボクは緊張で体が震えた。


声も上ずって変だ。


きっとボクはドラゴンに食べられてしまうんだ。


でも、ドラゴンがあまりに美しくて、それでいてなんて久しぶりで、嬉しかった。


両親の仇のドラゴンだとしても。


今からドラゴンに酷いことを言われても。


ボクは悪い気はしないと思う。


それほど、ボクは孤独だった。


その矢先だった。


ドラゴンは本当に酷いことを言った。


「──知っていたら教えろ人間、どうやったらドラゴンの私は死ねると思う?」


ドラゴンは真顔だ。


ボクの心臓は大きな手で鷲掴みにされたみたいに止まった。


そして、気づいたらボクは自分でも驚くくらい叫んでいた。


「ふざけるなー!命を粗末にするなー!父さんや母さんに貰った命だろ!?なんでそんなに簡単に捨てるんだよ!!バカーー!!」


「なっ...!?」


ハッとしてボクは口を抑えて、ドラゴンを見ると。


ドラゴンは驚いた顔で、家の庭先に降り立った。


手が触れれるくらい近づい来て、ジーッと見下ろしてくる。


まるで信じられないものを見たかのような顔で。


「あ、あの...ついバカとか酷いこと言ったけど...やっぱり死ぬとかいけないと思うんだ...命は大切にしなきゃ」


「永遠にも近い長さでもか?」


「え...?」


「お前達が思うよりもドラゴンは長生きなんだよ。同時にそんだけ長く生きていると退屈で死にたくなる。分かるか?いや分からないだろうな?星のきらめきみたいな、お前達の寿命ではな」


「ボクはそれよりも短いと思う。ボクは小さい頃に両親と砂漠を渡って来たから...」


「なら邪魔したな...そんなお前に聞いた私は馬鹿だった」


ドラゴンはどこか悲しげに笑うと、背を向けて羽ばたく。


ボクはそんなドラゴンの背中がとても小さく見えて、自分に重ねて見えた。


ボクは声をかけずにはいられなかった。


「ねぇ...ドラゴンはボクを食べないの?」


「なんだ?私に死ぬなと言った矢先に今度はお前か?人間は相変わらず身勝手だな!!」


ドラゴンの声には怒りがこもっていた。


「そんなに死にたいなら!食ってやる!ああ、やってやる!手足の先から時間をかけて、ジワジワと食い殺してやる!」


ドラゴンはボクを押し倒して、肩に鋭利な爪を立てる。


血が僅かに滲んで、土に伝う。


今日は快晴だった。


雲一つない青い、青い空だ。


ボクの顔に雨粒が降った。


雨粒はどんどん降って、ボクを濡らし続ける。


「さぁ命乞いをしろ...!生まれてきたことを後悔させてやる!人間なんて簡単に死んでしまえるんだ!!」


ドラゴンの声は震えていた。


ドラゴンの美しい顔は涙と鼻水でクシャクシャで、どんよりと曇っていた。


ボクは手を伸ばして、ドラゴンの頬に触れてみた。


ぷにぷにしてて、弾力があって、肌触りが良かった。


ボクが小さい頃に泣いていると、母さんがこうしてくれた。


それに倣ってみた。


ドラゴンは驚いて「やめろ!」と叫んだけど、ボクは意を決して言ってみた。


心臓が高鳴ったけど、ボクはずっと待ち焦がれていた。


「ボクを食べる前に一日だけでも良いから友達になって欲しいんだ」


「と、友達だと!?」


ドラゴンは目を見開いて、ボクを穴が開くくらい見てきた。


沈黙を破ったのはドラゴンの腹の虫だった。


「もし友達になってくれたら...美味しいトマト料理をご馳走するよ」


「それは...お前より美味いのか?」


「うーん、分からないけどボクを食べる前に食べてみるのも良いかもね。でもどうするの?友達...なってくれるかな?」


ドラゴンは眉を寄せて、真っ赤な顔でボクを睨むと叫ぶ。


「勝手にしろ...!だがお前は必ず食うからな!!」


ボクのはじめての友達が出来た瞬間だった。


「うん!じゃあ食べられる前に美味しいモノ作るね!」


ボクの目から涙がいっぱい溢れて止まらなかった。


「お、おい!何を泣いている!?肩に爪をたてたのが...そんなに痛かったのか!?お前、まさか死ぬのか!?おい待て!私を置いていくな!!あぁ、私はどうしたらいいのだ!?」


ドラゴンは慌てた様子でボクを抱き上げると、わたわたと左右に首を動かしては何も出来ずに悲鳴を上げ続けた。


「じゃあ友達になったんだから名前を教えてよ」


ボクは落ち着かせるように友達に言い聞かせた。



つづく

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