マドレーヌ

 半生タイプの焼き菓子の中では、かなりの知名度を誇っているこのお菓子

 名前だけでも、たいはんの人がイメージできるのではないでしょうか?


 可愛らしい貝殻の形をした黄金色の生地

 

 ただ、最近では違った形――経費削減といいますか、他の焼き菓子と併用できる形が増えてきています

 実際、貝殻はマドレーヌ型と呼ばれるようにそれ専用ですからね(フランスではマドレーヌとそれ以外の型を明確に区別している)

 お店としては渋るのも仕方ないかと

 ご存知のとおり、マドレーヌ専門店はありませんので(調べてみたら、東京にあったけど)


 けど、この形にだって理由はあるのですよ

 見た目が可愛いだけでなく、れっきとした宗教的理由が――

 

 それはキリスト教の聖人ヤコブのシンボル

 

 なんでも、かつて巡礼者たちはその証としてを持って聖地――サンチャゴ・デ・コンポステーラ(スペインの大西洋岸にある聖堂)を目指していたとか(ちなみに、ホタテ貝はフランス語で|coquille Saint-Jacques《コキーユ・サンジャック》と無駄に格好いい)


 そしてこれは古今東西で見られることですが、『シンボル』は様々な品物に使われます

 大勢の人々に理解してもらうには、食べ物や日用品に落とし込むのが一番ですからね

 案の定、ホタテの貝殻のアクセサリーやお守り、小物なんかも沢山あるそうです

 

 さて、このマドレーヌですが誕生には諸説あります


1、製菓職人アヴィスによる考案。カトル・カールというパウンドケーキ用の生地を、ゼリーの小さな寄せ型で焼いたのが始まり


2:とある枢機卿がお抱え料理人マドレーヌ・シモナンに、いつもの揚げ菓子の生地から別のお菓子を作るように命じた


3:町の料理人マドレーヌ・ポールミエが生み出した


4:城の宴会のさなか、お抱えの菓子職人が料理長と喧嘩してお菓子を作らなくなったので、急遽、近くにいた使用人マドレーヌに何か作れと無茶振りした結果


 有名なのはこんなところでしょう

 ちなみに、1はピエール・ラカンによる「パティスリーの覚え書き」という書物に記載されているそうです

 もっとも、ずっと以前から作られていたという説が有力みたいですけど


 4に関しましては、そんな馬鹿なと思うかもしれませんが……

 昔は完全に料理>お菓子という関係性だったので「料理長たるものがお菓子なんか作れるか!」ということがあり得た訳です

 それに男尊女卑の時代でありながら女性の使用人に命じたことを考慮すると、お菓子の低~い立場が窺えるかと

(正直な話、現代においてもレストランでは料理>デザートデセールの傾向が強い)

 

 実際のところはわかりませんが、生まれたのはフランスのロレーヌ地方・コメルシー

 由来は女性の名前ということは、どの説でも一致しているそうです



 とまぁ、由来や物語はこれくらいにしておいて肝心の中身について


 マドレーヌは簡単なお菓子です

 オリジナリティーはレモンの皮と形だけで、他はすべてありふれたケーキと同じ――卵、砂糖、バター、小麦粉を混ぜ合わせて焼いたもの

 最近のレシピだと、そこにハチミツとベーキングパウダーが入ったり


 焼きあがった生地は黄金色でふっくら柔らか

 指で押せばへこんでしまい、飲み物を流し込めば口の中で溶けてしまう

 味は素朴な焼き菓子だけど、軽く抜けるレモンの風味がアクセント


 だから、合わせるならコーヒーよりも紅茶がいい

 それもノンフレーバー

 アールグレイを始めとした柑橘系のフレーバーも合わなくはないんだけど、それだとマドレーヌのレモンを感じられなくなるからもったいない


 あとはミルクかストレートか……

 でも、これは完全に好みの問題

 ミルクとレモンといった牛乳+柑橘系の組み合わせが嫌いな人はいますからね


 茶葉はどれでも合うと思うけど、お勧めは癖のないセイロンティー

 それが一番、レモンの名残を感じることができるから

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