ヒーロー・シンドローム!

空伏空人

第一章 僕はヒーローに向いてない

一話

 僕は昔『ヒーロー』というものに憧れていた。

 それこそ、日曜の朝にテレビでやっているような、強きを挫き、弱きを助ける『ヒーロー』に、年相応の男の子らしく憧れていた。

 それは自分自身が社会的に弱い立場にいたせいか、そんなヒーローが持ってそうな異能力を持っているからか、はたまたその両方のせいか。

 その憧れの思いは膨らんでいって、いつしか僕にとってヒーローは『憧れ』の対象から『なりたいもの』へと、姿を変えていった。

 マントを作ったりした。

 決め台詞を考えたりした。

 ポーズとかも真面目に考えた。

 親友と秘密基地を作ったりもした。

 頭の中では僕はいつも正義の味方だった。自分と同じ弱い人を助ける、そんなヒーロー。

 けれど。

 現実というのは、子供の戯言のように甘くはなかった。

 もっと非情で、残酷だった。

 その日は大雨だった。一寸先が見えないぐらいの、記録的豪雨。

 そりゃあ、視界だって悪くなる。

 横断歩道を渡っている子供に気づけないぐらいに。

 その日。

 僕は『ヒーロー』に憧れるのを、やめた。

 僕は『ヒーロー』になれないのだと、悟った。

 嫌われているなりに強い能力を持っていたとしても、無駄なのだと知った。

 ――そうかな、きみほどヒーローに向いている人もいないと思うけどね。

 ――だってきみはこうして、私を助けてくれた訳だし。

 恩人がそう言ってくれたとしても、僕は決してヒーローにはなれない。

 そう、例え。

 空から落ちてきた女の子を助けたとしても、僕はヒーローにはなれない。

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