第48話 再び訪れた決戦の場所
学校のいつもの時間。授業を受けながら、芽亜はある事を気にしていた。
斜め後ろの席が空いている。今日は有栖が休んでいるのだ。
休むぐらいは普通にある事なのかもしれないが、真面目で最近頑張っている有栖が休んでいるのはやっぱり気になったので、芽亜は休み時間になってから先生に訊ねることにした。
「先生、今日は伏木乃さんは?」
真面目で可愛い生徒の質問に、先生は快く答えてくれた。
「伏木乃なら今日は家の大事な仕事があるから休むって連絡があったぞ」
「家の大事な仕事?」
仕事と言えば巫女の仕事に決まっている。今は有栖の父、権蔵が家にいない。
有栖が休むほどの用事だ。事態の大きさを芽亜はすぐに理解した。
「先生! あたしも家の大事な用事を思い出したんで帰ります!」
「おお、そうか。気を付けて帰れよ」
先生は慌てることもなく呑気に答える。この町の平和を巫女が守っていることを彼は知らないのだろう。
芽亜自身も警察や消防といった町を守る他の仕事のことは気にしていないので、人の事は言えないかもしれない。
巫女を守れるのは巫女しかいない。
芽亜は胸騒ぎを抑えて、急いで廊下を走っていった。
有栖は仲間達とともに再び廃墟の遊園地を訪れていた。
前に来た時は夜だったが、今日の空はまだ青かった。そのせいだろうか前に来た時とは印象が違って見えた。
「またここに来ることになるなんてね」
舞火が呟くように言う。
入り口の壊れた門をみんなで見る。ヴァムズダーと戦った頃がとても昔のように思えた。
門がひしゃげるように壊れているのは悪霊が破壊した後だろうか。
前回は有栖が結界に穴を開けて入ったので、今回は誰もうかつに近づこうとはしなかった。
「また結界が貼ってない?」
天子が訊いてくる。
「調べてみますね」
有栖は答え、精神を集中する。
霊的な障壁は感じられなかった。有栖はさらにお祓い棒を前方に掲げて何か結界のような物が設置されていないかを探った。
結果はすぐに出た。何も感じられなかったという結果が。有栖は意識をさらに寂れた遊園地の中へと飛ばした。
「結界や罠は何も貼られていないようです。悪霊の数は一体? いえ、よく分かりません」
どういうわけか悪霊の数がよく掴めなかった。悪霊の数は一体のようにも、たくさんいるようにも感じられた。
だが、みんな一か所に固まっている。
結界のような霊的な行動を妨害する物は何も無かった。
有栖はしばらく探りを続けてから意識を戻して目を開いた。
舞火が足を前に踏み出す。
「じゃあ、やる事は決まったわね」
続いて天子が前に出る。
「悪霊を倒してすっきりした気分で家に帰ることね」
エイミーが箒を高く掲げて明るく宣言する。
「悪霊を退治するのがミー達の仕事です!」
仲間達の強い意志を受けて、有栖は頷いた。
「行きましょう。わたし達の手で町を守るために!」
そして、廃墟の遊園地へと足を踏み入れていった。
そこには現実的な光景が広がっていた。
前に来た時は結界の中で集まった悪霊達で賑やかだった遊園地。
遊具や施設もあの時は霊の力で動いていて、ネオンもまたたいていた。
それが今では結界に内方される霊力が維持されることもなく、打ち捨てられた遊具や寂れた施設だけが並んでいた。
人の姿も無い。閉鎖された場所だから当然か。
有栖達は足を進めていく。悪霊すら一匹もいない無人の廃墟の中を。足音だけが無性に響くように感じられる。
足は自然と前回の戦いで罅が入って傾いたこの遊園地のシンボルの塔、ハムスタワーへと向かっていた。
悪霊がどこにいるかなど探すまでも無かった。
有栖達は足を止めた。
悪霊は目の前にいた。塔の前の広場で我が物顔で一際異質な霊気を放って、その巨体をふんぞりかえらせるようにして座り込んでいた。
そこがまるで自分のテリトリーだと主張せんばかりの態度で。
やってきた巫女達が立ち止まるのを見て、邪悪な中級悪霊は嫌らしくにやける笑みを浮かべてみせた。
「ようこそ、君達。新しい王の誕生を祝福しに来てくれたんだね。呼ばなくても来てくれるなんてありがたいよ」
「ムササビンガーー!!」
有栖達は一気に戦闘体勢に入った。有栖が手にお札を指し、舞火と天子が有栖の左右で箒を構え、最近はあまり戦闘に参加していなかったエイミーも真剣な目をしてムササビンガーを睨んだ。
前回よりも上がった巫女達の霊気をムササビンガーは面白そうに見つめた。
「少しは腕を上げてきたようだね。それでこそ良いお祭りが出来るというものだ。僕が王になることを祝するお祭りを始めようと言うのだね!?」
「あんたごときが王になれるわけないでしょ」
「たかが中級の実力なんてヴァムズダーには遠く及ばないのよ」
舞火と天子の言葉は事実だろう。だが、有栖の手にはもう前回の切り札と言える物は無かった。
中級だからと油断は出来ない。有栖達自身、下級の霊しか退治して来なかったのだから。
今の自分達の実力でやるしかない。戦況が楽観視できるものでないことはみんなが分かっていた。
だが、それでもこの仕事を任された者として、自分達の力で成し遂げると決めてきたのだ。
その決意と覚悟のこもった強い眼差しに、ムササビンガーは笑って答えた。
「なら、試してみようか。僕に王となれる器があるかどうか。君達の犠牲でね!」
ムササビンガーの両手に爪が伸びる。前回とは違う異質な霊気を有栖は感じ取った。
「気を付けてください! 何か前回とは違います!」
『っ!』
有栖の言葉にみんなが意識を強くした。ムササビンガーは軽く笑っただけだった。
巫女達の強い決意を前にしても、中級悪霊は微塵の揺らぎも見せない。
「僕は僕さ。さあ、君達の悲鳴で僕を楽しませてくれよな!」
ムササビンガーが跳びかかってくる。巫女達が動き、悪霊の振り下ろす爪が瓦礫を吹き飛ばしていった。
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