第40話 ネッチーのいる夜の時間
夜の更けた時間。
有栖はエイミーとジーネスと一緒に晩御飯の席についた。
舞火の晩御飯も凄かったが、エイミーの作る晩御飯も日々進化をしていた。
段々と美味しく、有栖の好みにも合う味になってきていた。
「腕を上げたね、エイミー」
食べながら正直な感想を言ってやると、エイミーは少し控えめに答えた。
「そうですか? 舞火先輩にはまだまだだと言われるんですけど」
「舞火さんは上手いからね」
手伝いをしながら、エイミーは舞火に教えてもらっているようだった。
ジーネスは箸を持ったまま、それをじっと見つめている。
もしかして日本の箸を使ったことが無いのだろうか。
有栖は何か声を掛けるべきかと思ったが、それよりも早く、エイミーが声を掛けていた。
先輩として後輩の彼女に教えてやる。そんな偉そうなお姉さんのような態度で。
「ネッチー、箸はこうやって持つんですよ。ミーも日本のことは勉強してきましたからね」
「うむ、こうか」
ジーネスはエイミーに教えられるままに箸を持ち、テーブルの上の料理を見る。
肉じゃがへと手を伸ばし、芋を一つ器用に掴んだ。
潰すことなく口に運んで、一口食べて、
「旨いな」
喜びを噛みしめていた。後輩の指導の成功に、エイミーも嬉しそうに輝く笑顔をした。
「でしょう? さあ、どんどん食べるです。今度はこの味噌汁をどうぞ」
「ああ、分かったから押し付けないでくれ」
ぐいぐいと口元に押し付けていくエイミーにジーネスは困惑している様子だったが、二人はまるで仲の良い姉妹のようだ。
上手くやっていけそうだと思いながら、有栖は安心して食事の箸を進めていくのだった。
ご飯を食べ終わり、お風呂に入ることにする。
「一番風呂は主のものです。この家の今の主は有栖です」
「そうなのか」
ジーネスに教えながらエイミーがいつものように一番風呂を譲ってくれたので、有栖は先に入ることにする。
「エイミー、ネッチーの相手をお願いね」
「ラジャーです」
言う必要もなく面倒を見てくれるだろうが言っておくことにする。
ジーネスは悪霊王なのだが、エイミーもジーネス本人も全く気にしていない。仲良くテレビを見始めている。
そんな二人の様子を見ては、有栖も警戒するのを忘れそうになってしまう。
だが、何を企むにしてもエイミーが見張っていてくれるなら安心だろう。
有栖は部屋を後にして廊下を歩き、脱衣場に入って扉を閉めて、少し悩んでしまった。
ジーネスがいるのに封印石をここの棚に置いていっていいものだろうかと。
でも、風呂場に持って入るのも面倒だし、ジーネスとエイミーのことを信用してないように思えて、何だか自分が悪いような引け目を感じてしまった。
「大丈夫だよね。問題は無い」
有栖は決意して封印石を脱いだ服の間に入れて、お風呂に入った。
お湯のたっぷり入った湯船に浸かる。綺麗で温かいお湯は気持ちがいい。疲れも不安も取れるかのようだった。
それに一人で入るお風呂は気が楽だ。
最初はエイミーがお背中をお流ししますとか言って入ってきていたっけ。二日目からはそんなことはしなくていいよと断ったけど。
そんなことを思い出したからだろうか。
脱衣場の方で何やら物音がした。そして、金髪の少女と銀髪の少女が入ってきた。ここはお風呂なのでもちろん二人とも裸だ。有栖はびっくりしてしまった。
「エイミー、何で入ってくるの? ネッチーまで」
「もちろん、主のお背中をお流しするためです」
「お邪魔だったのか?」
「いや、邪魔って言うか、しなくていいって言ったよね?」
「けじめですよ」
「わらわは帰った方がいいのだろうか……」
ジーネスは少し困惑している。どうやらエイミーに乗せられて仕方なく来たようだ。ここで断ってしまうと、彼女との仲が遠のいてしまうかもしれない。
エイミーは笑顔でゴーサインを促してくる。どの判断が良いのかはすぐに理解できた。
有栖は迷ったが、ため息を吐いて答えることにした。
「じゃあ、お願いしようかな」
ジーネスに安心してもらえるように快く。
彼女の肩に掛かった緊張も解けたようだった。
有栖は自分の判断は正しかったのだと実感することが出来た。
少し打ち解けた様子で背中を流してもらい、有栖もお返しにネッチーの髪を洗ってやった。
三人で入る風呂は狭かったが、悪い気分では無かった。
エイミーもジーネスも楽しそうに歌まで歌っていた。
人が一人増えただけで随分と賑やかになったと思える夜の時間。
お風呂から上がってパジャマに着替えて、有栖はエイミーやジーネスと一緒に、トランプやボードゲームをして遊んでいた。
こういう遊びは二人だと物足りないが、三人だとゲームになる。
楽しく遊んでいると遅い時間になってきた。有栖は時計を気にして切り上げることにした。
「そろそろ寝ようか」
「お休みの時間ですよ、ネッチー」
「ここでは寝るのが早いのだな。わらわのいた城ではみんなよく夜遅くまで騒いでいたものだが」
「ここは日本だからね」
「それは助かる。わらわも本当は夜更かしは苦手なのじゃ」
寝室に蒲団を広げる。3つの蒲団を並べると、何だか旅行に来た気分だった。
「ネッチーは真ん中に寝るです」
「うむ、了解」
エイミーが後輩に場所を指定した。ジーネスにもエイミーの言葉遣いが少しうつっているようだった。
有栖からもエイミーからも見張れる良い位置だと有栖は思った。
「じゃあ、電気消すよ」
有栖が電気を消して暗くなる部屋。封印石は戸棚に入れてある。
このまま寝て大丈夫だろうか。隣に寝る少女のことが気になったが、瞼はすぐに重くなってきて有栖は寝てしまったのだった。
気持ちの良い朝の空気がした。
「重い……」
自分の声かと思ったが、そうじゃなかった。
すぐ隣から呻くような声が聞こえてきて、有栖は目を開けた。窓の外はすでに明るくなってきている。
時計を見ると、鳴る少し前の時間だった。鳴る前だった目覚ましのスイッチを切って隣の蒲団を見る。
そこではエイミーの腕に抱き着かれて、ジーネスが苦しそうに呻いていた。
「エイミー、またこんなことをして」
まるで始めてエイミーと一緒に寝た時の自分の姿のようだった。有栖は懐かしく思い出す。注意したのが効いたのか、あれからエイミーも気を付けるようになったのか、最近は無かったことだが。
ジーネスのことをよほど気に入ったのだろう。エイミーは後輩を抱きしめながらとても幸せそうに寝息を立てていた。
「後輩のことをお願いね」
ジーネスが悪霊王だろうが何だろうが、エイミーに任せておけば大丈夫そうだ。
起こすのも悪いので、有栖は忍び足で寝室を出ていった。
今日は学校に行く日だ。有栖が制服に着替えてパンを食べていると、エイミーとジーネスが起きてきた。
二人ともまだ少し眠そうだ。
「おはようです、有栖」
「おはようなのじゃ、有栖」
「おはよう、二人とも」
眠そうなのは、昨日遊んでてやっぱり少し夜更かしになったからだろうか。有栖も少し眠かった。
「わたしは学校に行くけど、ネッチーもエイミーと通信教育するの?」
「はいです、後輩の教育はミーに任せてください」
エイミーは自信満々に返事をした。ジーネスが訊ねてくる。
「有栖はどこかに行くのか?」
「学校に行くんですよ」
後輩に答えるエイミー。有栖が教えることは無さそうだった。
「そうか。有栖は偉いのじゃな。わらわは学校に行かなくていいのか?」
「学校は入学の手続きをしないと行けないからね。て言うか、ネッチーは学校って知ってるの?」
「うむ、わらわの城にも勉強を教えるのが得意な奴がいてな。たまに集まって勉強会を開いておったぞ」
「有栖、さすがに学校を知らない人はいないですよ」
「そうだよね。あはは。エイミー、ネッチーのことをお願いね」
「ラジャーです」
そして、二人に見送られて、有栖は学校に向かって行った。
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