第32話 有栖、学校に行く。
次の朝、気持ちの良い朝日で有栖は目覚めた。伏木乃神社は今日も平和だ。
町に悪霊が増えたといっても有栖達でも対処できる程度の弱い悪霊ばかりだったし、町には他にも活動している巫女さん達もいる。
悪霊は夕暮れから夜に現れることがほとんどなので、朝や昼といった時間はわりと平和だった。
今日は平日なので学校に行かないといけない。巫女をしている有栖だが、普段は普通の高校生だった。
制服に着替えてリビングの食卓でパンが焼けるのを待っているとエイミーが起きてきた。彼女は朝から眠そうだった。
「おはようです、有栖」
「グッドモーニング、エイミー」
「モーニン、有栖」
有栖は外国人の彼女に軽く英語を振ってみたが、軽く流された。
エイミーの分のパンもトースターに入れて焼く。ほどほどに焼けたところで先に自分のパンを出してジャムを塗った。
エイミーはテレビを見ていた。嬉しそうに歓声を上げた。
「今日は良い運勢です。師匠」
「良かったね。それとわたしのことは普通に有栖って……」
「師匠のファーザーは今日帰ってくるんですよね?」
エイミーはあまり話を聞いていないようだ。有栖は答える。
「はい、夕方頃になると言ってました」
「お出迎えしないといけませんね。ミーもゴンゾーに会えるのが楽しみです」
エイミーは楽しそうだ。とてもニコニコした笑顔をしている。
彼女は空港で有栖の父に会って、ここの巫女にスカウトされてやってきた少女だ。
きっと気が合ったんだろうなと思った。
そんな彼女にコーヒーとパンを進呈だ。エイミーはもしゃもしゃと食べ始めた。
パンを食べながらテレビを見て、朝の準備をしていると、時間はあっという間にやってくる。
有栖は鞄を持って出かけることにした。ごく普通の高校生として。
「それじゃあ、わたしは行ってくるから。留守番お願いね。お父さんや仕事の電話があったら出てね」
「ラジャー」
エイミーは眠そうだが、しっかりした巫女だ。父やみんなからも信頼されている。大丈夫だろう。
有栖は家のことを彼女に任せて、
「わんわん!」
「あ、こまいぬ太も家の事をよろしくね」
我が家の式神の事も思い出して声を掛けて、出かけることにした。
神社の境内の先の階段を降りていく。
今日は気持ちの良い朝で、悪霊の出そうな予感はしなかった。
町に悪霊の出現が増えていても、学校の風景はいつも通りだ。
授業もいつも通りに行われている。
警察官が人知れず軽犯罪の犯人を捕まえていても誰も気にしないのと同じで、巫女が下級悪霊を退治していても特に気にする人はいない。
またやっているなと清掃屋を見るような感覚だろう。
有栖もいつものように授業を受ける。時間は平和に過ぎていく。
休み時間になると同じクラスで授業を受けている芽亜が話しかけてきた。
「有栖ちゃん、悪霊に注意を呼びかけるポスターを作ってみたんだけど見てくれる?」
「はい」
答えると、芽亜はそれを広げて見せた。
そのポスターには、恐い悪霊から逃げる人々と悪霊に立ち向かう巫女のイラストと、『悪霊に注意、悪霊を見かけたら近くの巫女に連絡を』という文字が書かれていた。
芽亜は言う。
「この町の人達は悪霊に対する危機感が無いと思うのよね。意識して欲しいと思って、こんなポスターを作ってみたんだけど、どう?」
「良いんじゃないでしょうか」
悪霊が実在するものより恐ろしく書かれている気がするが、注意を呼びかけるならこれぐらいが良いのだろう。有栖が快く答えると、芽亜は安堵の息を吐いた。
「そう? じゃあ、このポスターを町の掲示板に貼っておくね。有栖ちゃんの神社にも貼りにいくけど良い?」
「もちろんです」
悪霊に注意を呼びかけるポスターだ。巫女のいる神社に貼るのに、特に反対する理由は無かった。
授業が始まるチャイムが鳴って、芽亜はポスターを仕舞って自分の席に戻った。
そして、またいつもの授業が始まった。
今日は父が帰ってくる。
そう思うと後の授業になるほどそわそわとしてしまう有栖だった。
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