第31話 会議と連絡と不審な影
みんなで再びテーブルを囲んで座る。今度は食事をするためでなく、話をするために集まった。
みんなは本当に仕事に熱心だ。みんなからの注目を集めて有栖は
「こほん」
緊張を和らげようと咳払いするが、それで何かが変わったりしない。
みんなが注目しているので恥ずかしくなっただけだ。
みんなが真剣に聞きたがっている。物怖じしている場合ではないと、有栖は勇気を振り絞って発言することにした。
ここにいるのはみんな気のいい仲間達だ。恐れることは何もない。
もっとも発言すると言っても、有栖に話せるのは父に教えられたことと神社にある文献に載っていることぐらいだったが。
それでも十分だろう。言う。
みんな静かにしているので、有栖にも自分の声がよく聞こえた。
「中級悪霊は強いです。その強さは下級悪霊とは比べ物にならないぐらいです。上級悪霊はもっと強いです。その強さは中級悪霊とは比べ物にならないぐらいです。悪霊王はさらに強いです。もう比べられる悪霊がいないぐらいです」
こんな説明でいいんだろうか。有栖は言いながら心配になってしまったが、有栖が父から聞いたのもこんな感じだったので他に言いようが無かった。
「わたし達は下級しか知らないんだけど、中級ってそんなに強いの?」
舞火が質問してくる。有栖は答える。
「はい、下級と中級では明確な差があるんですよ。はっきりと違いのあるレベル差があるからこそ級が分かれているんです」
「下級が戦闘員なら中級は怪人クラスぐらいですか?」
エイミーが例えてくる。朝の番組は有栖も一緒に見ていたので頷く。
「はい、そんな感じです」
だいたいそんな感じだと思う。
言いながら、釘を刺すことも必要だと思った。
「中級悪霊が出たら戦わずに逃げてください。下級なら楽勝だからといって中級と戦うとなるとどうなるか分かりませんから」
有栖の雇ったみんなは強いが、巫女を始めてから間もない新人でもあった。
実家が神社でこの仕事をして長い有栖としては気を使わざるを得なかった。
みんなの運動能力は有栖から見ても目を見張るものがあったが、霊力の扱い方はお世辞にも上手いとは言えなかった。
芽亜ほど自在にお札を飛ばせるにはかなりの訓練が必要だろう。炎や雷といった能力まで込めるとなるとどれだけ掛かることやら。
想像することも出来ないが、今は必要の無い技能だ。仕事は出来ている。
「中級悪霊が出たらわたしか芽亜さんに報せてください」
有栖から見ると芽亜はかなりベテランの巫女だった。
その彼女が「任せて」と笑顔で答え、話の続きを促す。彼女なら聞く必要もないだろうが、有栖の話を聞きたいのだろう。話すことにする。
「上級悪霊が現れるともうわたし達では対処できません。父さんを呼んでくるしか無いと思います」
「有栖のお父さんなら上級悪霊に勝てるの?」
その天子の質問には有栖はしっかり答えることが出来た。
「勝てます」
父の強さなら近くで見ていてよく知っていたからだ。
「中級が怪人なら上級は幹部ですね」
「はい」
エイミーの言葉にもしっかり答えた。だいたいそんな感じだろう。話を続ける。
「さて、悪霊王ですが……これはもうどうしていいか分かりません」
「有栖ちゃんのお父さんでも勝てないの?」
「王は別格だって父も言ってました」
「またお札をもらってくるしか無いわね」
「はい、出来るものなら」
「Sランクですね」
「え……えす?」
今度のエイミーの言葉には有栖は言葉を詰まらせてしまった。Sランクという物に聞き覚えが無かったのだ。
「ラスボスですね」
「はい、そうです」
ゲームに例えてくれたので今度は頷けた。話すことが終わったので、有栖は会談をまとめることにした。
「とまあ、悪霊のランクについてはこんな感じです」
有栖の話に舞火と天子はうんうんと頷いていた。
「わたし達はまだザコの相手しかしてないってことね」
「お兄ちゃんが言ってたわ。いきなり橋を渡る奴があるか。スライムでレベル上げをしてから行けって。あたし達に出来るのはまずは下級退治ね」
「ミーも経験値稼ぎをするです」
エイミーもやる気だった。
芽亜は気楽に微笑んでいた。
「有栖ちゃん、良い話しっぷりだったよ」
「ありがとうございます」
ベテランの巫女の彼女が認めるなら上手く話せたということだろう。有栖は安心した。会議をここで終わることにする。
「じゃあ、みなさん。明日からもよろしくお願いします」
「お疲れさまです」
今日の仕事の時間は今度こそ終わりだ。有栖はそう思っていたのだが。
突然、神社の電話が鳴った。
みんなが帰ろうとした足を止めて、エイミーが受話器を手に取っていた。
「はいもしもし伏木乃神社です。お」
その外国人特有の綺麗な瞳が見開かれ、きらめいた。エイミーは何かに驚き、とても嬉しそうな様子だった。
続いて話すエイミーの言葉を聞いて、有栖も驚いた。
「ゴンゾー? 久しぶりです。はい、ミーは元気にやっています。仕事も順調です。みんな上手くやっていますよ。有栖ですか? 今目の前にいます。代わりますね」
電話の相手は有栖の父、権蔵だった。
エイミーが受話器を差し出してきて、有栖は立ち上がった。
「師匠、お電話です」
「師匠って言うのちょっと……」
有栖は小声で注意しつつ、エイミーの手から電話を受け取った。
「もしもし、お父さん?」
周囲の目を気にしながら話してしまう。
みんな良い人達だ。みんな話が気になるだろうし、帰れと追い払うわけにもいかないだろう。
有栖は気を配りながら話をした。
久しぶりに聞く父の声は力強かった。
『有栖か。元気にやっているか』
「はい、頼りになる仲間も出来て上手くやっています」
『そうか。急な出発になってどうなるかと心配していたが良かった』
「お父さんの方はどう?」
『うーむ、あまり良いとは言えないが、一段落はついたよ。詳しいことは帰ってからにしよう。明日には着くからそれまで神社の方は任せたぞ』
「うん、分かった」
電話は切れた。有栖は静かに受話器を置いた。
「お父さん、何って?」
舞火が聞いてくる。みんな気になるようだ。興味津々の目を向けてくる。
別に隠すことでもない。有栖は答えた。
「明日帰ってくるって」
「良かったじゃない」
「じゃあ、パーティーの準備をしないといけないわね」
舞火がとんでもないことを切り出してくる。有栖は恐縮した。
「いや、別にそこまでは」
「わたし達の気持ちよ。受け取って」
「そうね。お兄ちゃんも初対面の印象は大事だって言ってたわ」
「礼儀を尽くすのが日本人の心意気ですね」
「はい」
天子やエイミーも乗り気だ。芽亜も暖かく見守っている。
せっかくの親切だ。有栖は受け取ることにしたのだった。
その頃、町の境界に新たな悪霊達が踏み込んできていた。
「ここが今人気のスポットか」
「ここを支配できれば俺達も土地持ちだね」
「そうだ。支配者になるんだ」
彼らは三匹のかまいたちの姿をしていた。
かまいたち三兄弟と呼ばれ、町の外ではちょっと名が知れていた。
その力は並の下級悪霊よりはちょっと強いが、それでも下級には違いなかった。
彼らはちょっと強い下級悪霊だった。
「この土地を得れば、俺達もちょっと強い下級悪霊から中級になれるかもな」
「楽しみだね」
「すでに何匹もの悪霊達が狙ってきている。急ごうぜ」
「おう」
そして、彼らは町に踏み込んでいった。
今、町には多くの悪霊達が集まってきていた。
巫女にどんどんと祓われていって、かつてほどのブームでは無くなっていたが。
それでも町にやってくる悪霊はいる。
彼らもそのうちの三匹に過ぎなかった。
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