第19話 襲撃者
外に出ると帰ってきた時にはわずかに残っていた太陽の光も消え、空はすっかり真っ暗になっていた。
星空が瞬いている。雲一つないとはいかないが。
有栖は空を見上げる。いくつかある雲がちょうど月を隠して辺りの暗さが少し増してしまった。
「あまり遅くなるわけにはいきませんね」
「近くだけでもざっと散策してみましょ」
「敵が巫女さんを狙ってくるなら、町を探すよりこの近辺を探した方がいいかもね」
「神社パトロール隊出動でーす」
とりあえず神社の近くを探すということに決まって出発することにする。
だが、その近くにすら探しに行く必要はなかった。境内まで出ると神社の入り口の鳥居の下に人影がいるのが見えた。
ただの人影ではない。相手は巫女服を着ている。ちょうど影に立っていてその姿はよく見えない。
歩いていた有栖達は足を止めた。相手がただの神社を訪れただけの客だったらその必要はなかっただろう。
だが、相手から立ち上る霊気。それは攻撃的で強く、それだけで相手がただ者ではないと知ることが出来た。
そして、これから戦いが起こるだろうことも。
今まで下級の弱い霊の相手しかしてこなかったみんなにとっては初めて出会う強敵と呼べる存在だった。
相手が歩みを進めてくる。
「お前達がこの神社の新しい巫女か。三人も増えることになるとはな」
少女の声だった。相手は有栖達と同年代のようだった。
雲間から月が出て、彼女の姿を映し出す。
彼女は確かに巫女だった。白と赤の見慣れた服を着て、右手には舞火や天子の見慣れない金色の錫杖を持っている。
その顔には目元を隠す怪盗のような仮面が付けられていて、有栖には相手の正体が全く見当も付かなかった。
「巫女……なの?」
天子が訊ねると相手は堂々と答えてきた。
「違うな。わたしは巫女さんキラーだ」
「巫女さんキラー?」
「ということは、あなたがテレビが言っていた」
「ふん、そんな低俗な物はどうでもいい」
巫女さんキラーと名乗った少女の左手に数枚のお札が現れる。彼女はそれをただ無造作に投げてきた。
「わたしは巫女を許さない。それだけだ」
ターゲットにされたのは舞火だ。有栖は叫んだ。
「舞火さん!」
「大げさな声を出さないでよ。これぐらいの攻撃で」
まっすぐ飛んでくる数枚のお札を、舞火は箒を一振りしただけで全て防いでしまった。
「わたしに出来ないお札投げを平然とやってのけるのは気に入らないけど、なまっちょろいのよ」
「そう思うか?」
だが、巫女さんキラーの攻撃はそれだけで終わりではなかった。
「爆発しろ」
「!」
巫女さんキラーの声とともに箒に張り付いていたお札が赤く光った。
危険を察知した舞火は素早く箒を手離して後方へとジャンプする。
直後、舞火の箒に付いていたお札が次々と起爆して赤い炎を上げていった。
境内に赤い花が咲く。
直撃は避けたものの、舞火は爆風に飲み込まれて吹き飛ばされた。地面を転がり、すぐに起き上がろうとするが、ダメージが大きくて立ち上がれない。
「あいつ……やってくれるわね……!」
巫女さんキラーは勝ち誇ったように見下ろした。
「その程度か。しょせんは巫女を始めたばかりのバイトだな」
「くっ!」
舞火の殺気の視線をぶつけられても相手はびくともしない。
巫女さんキラーはそれ以上舞火に追い打ちをかけては来なかった。
舐められているのだ。それが舞火に屈辱を与える。
「無理に動こうとはしないことだ。術は力で解けるものではない」
「舞火先輩……」
エイミーが呆然と呟いた。
「ぼんやりしている暇はないぞ。次はお前だ」
次にターゲットにされたのはエイミーだった。巫女さんキラーの視線が彼女を捉える。
エイミーはびくっと身を固めてしまう。それぐらい相手の目は本気だった。
金色にきらめく髪を見て、彼女は不快に思ったようだ。
「外国から巫女を志して日本に来るとは、あってはならない存在だ。お前は消えろ」
巫女さんキラーの錫杖がエイミーに向けられた。
鎖が揺れて不気味な音を奏でる。
「巫女退散!」
掛け声とともに金色の錫杖から同じ色をしたビームが迸った。呆然としていたエイミーは全く反応することが出来なかった。
「危ない! エイミー!」
そんなエイミーを天子がかばった。天子の背にビームが直撃する。
「キャアアアアァ!」
「天子……先輩。そんな……」
エイミーは身を震わせて目の前の光景を見ることしか出来なかった。
天子の体が光に包まれ、やがて消える。
光が収まった時、そこにはもう巫女の姿はなかった。ただ裸の少女となった天子がいただけだった。
「って、何よこれえ!」
天子は慌てて自分の両腕で自分の胸元を隠した。
消えたのは巫女服だけだった。全裸でもなく下着は付けていた。
天子は涙目になって、巫女さんキラーを睨みつけた。
「何のつもりなのよ、あんた!」
「これでこの世から一人の巫女が消え去った。お前はもう悪霊を見ることも、退けることも出来ない」
巫女さんキラーの冷たい声に、天子は身をすくませてしまった。
「この世から巫女を消す。それがわたしの目的だ」
巫女さんキラーは錫杖で地面を突く。そうして四人を順に見る。
「お前達は巫女を始めたばかりのただのバイトなのだろう。ならば誤りの道から引き返すことは出来る。もうこのような仕事は止め、霊に関わることには近づかないことだ。わたしとしても素人をいじめるのは本意ではない」
「素人!?」
「ですって!?」
「そして、有栖」
「!」
巫女さんキラーの目が射抜くように有栖を見る。
だが、お互いに何を仕掛けるでもなく、その視線を緩めてくれた。
「お前は父が帰ってくるまでこの神社で何もせず待っていればいい。今までずっとそうしていたように。お前は一人では何も出来ない奴なのだから」
「……」
言い返せずにいる有栖を見て、巫女さんキラーは笑ったようだった。
「これから霊の時代が訪れる。お前達はそれを知らず、ただ表の世界でぬくぬくと生きていくがいい」
そう言い残し、巫女さんキラーは去っていった。
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