悪霊達の祭典 霊大祭
第18話 謎の巫女さんキラー
「ただいま」
「ただいまですー」
神社についた頃には時刻は夜に近づいていた。
空は藍色になって暗く、山の向こうにわずかに残った夕焼けが見える程度だった。
有栖は神社に帰ったらすぐに解散するつもりでいたのだが、今日はお寿司があるのでみんなで家に上がって食べることにした。
「時間は大丈夫ですか?」
有栖は早く帰らないと家族が心配するのではないかと思って訊ねたのだが、
「まだ7時前じゃない。有栖ちゃんって真面目なのね」
舞火が平然とそう答え、
「お兄ちゃんはもっと遅い時間に帰ってくることもあるわよ」
天子がそう答え、
「ミーはここに泊まっているのでいつでもOKです」
エイミーがそう答えたので気にしないことにした。
「そうですか」
学校から帰ると神社の仕事しかしていなかった有栖にはぴんと来なかったが、高校生ともなるとこの時間帯の外出も当たり前のようだった。
家に上がって部屋に入る。
「寿司―、お寿司―」
エイミーが早速テーブルの前に座って催促してくる。アナのことは苦手でも彼女からもらった食べ物は別のようだった。
「いま、準備しますね」
有栖はすぐに用意出来るインスタントの味噌汁とお茶を人数分用意してテーブルに置き、アナからもらった寿司を袋から出してテーブルに置いた。
寿司はパーティー用の結構大きな立派な物だった。
「こんな高そうな物をもらって良かったんでしょうか」
「これも報酬のうちでしょ。いただきましょ」
「うおう、お寿司」
エイミーが早速目をきらめかせている。
「みんなでいただきますしてからよ」
天子がそんな彼女を戒めていた。エイミーは行儀よく座りなおした。
「はい、それがニッポンの作法なのですよね」
「そうよ」
「じゃあ、有栖」
「?」
舞火と天子とエイミーに見つめられて有栖は首を傾げてしまう。すぐに自分が言うのかと気が付いた。
「みなさん、今日もお仕事お疲れ様でした。では、お寿司をいただきましょう。いただきます」
「「「いただきます」」」
挨拶なんてどう言えば良かったのかよく分からなかったけれど、これで良かったようだ。
有栖の掛け声でみんなの食事が始まった。
「おいしい。デリシャスです」
エイミーはにこにこ顔でお寿司を食べている。
「わさびを付ければもっとおいしくなるわよ」
舞火がそれを差し出す。エイミーはそれをぐいっと景気よく塗り付けてお寿司をぱくっと食べた。
「あ、それは付けすぎ」
止める間もなかった。
「うー、つーんとしたです」
「慌てて食べちゃ駄目よ」
舞火はエイミーにお茶を差し出した。エイミーはそれをぐぐっと飲んで、
「でも、おいしかったです。わさび気に入りました」
また食事を再開した。
天子は行儀よく箸を進めている。
「前にお兄ちゃんと食べに行ったお寿司もおいしかったけど、こっちの方が上かもしれないわね」
「天子さんはお兄さんと仲が良いんですね」
有栖がそう言うと天子は真っ赤になって否定した。
「え、ええっ、そんなことないし。奢ってくれるというから付いていっただけだし」
「うらやましいです」
一人っ子の有栖はそう思った。
エイミーは調子を取り戻したようだ。また元気に箸を進めている。
「んー、まあ。ニッポンに来て良かったです」
「寿司が好きなんですね」
「イエス。日本といえば寿司、忍者、芸者、はらきりなのでーす」
最後のはどうかと思うが。
「有栖ちゃん、テレビ付けていい?」
「はい」
舞火がそう訊いてきたので有栖が答えると、すでにリモコンを手にしていた舞火はテレビを付けた。
テレビではちょうどニュースをやっていた。
「ねえ、舞火。ニュースなんかよりもバラエティを見ましょうよ。いつもお兄ちゃんと見ている番組があるんだけど……」
天子が言いかけた時だった。テレビが気になることを言っていて、舞火はチャンネルを代えようとした手を止めた。
『ここで巫女さん関係のニュースです』
「巫女さん関係?」
「へえ、神社ではそんなニュースもやっているのね」
「いえいえ、ニュースは全国ネットです」
エイミーは無言で寿司を口に詰め込んでいる。みんなはとりあえずそのニュースを聞くことにした。
『今日夕方6時頃、隣市の神社で巫女の仕事をしている山田さんが何者かに襲われるという事件が起こりました』
「隣の市ね」
「すぐ近所じゃない。物騒ね」
「もぐもぐ」
エイミーは食べながらテレビを見つめている。
『犯人は巫女さんキラーと名乗る正体不明の少女と見られ、警察は付近の巫女さんに注意を呼びかけるとともに、犯人の足取りを追っています。次のニュースです』
次のニュースが始まって、舞火はチャンネルを天子おすすめの番組に代えた。
司会者が面白いことを言う賑やかな番組が始まる。
「お兄さんが見ているだけあって良さそうな番組ね」
「でしょう?」
舞火と天子はすでに気にしていない様子だったが、楽しい番組の音を聞きながら有栖は心配になって言うことにした。
「お寿司を食べ終わったら早く帰った方がいいですね」
「何を言っているの、有栖ちゃん」
「はい?」
だが、有栖の心配とは裏腹に、舞火と天子はまったく気にしていないようだった。エイミーはお寿司をもぐもぐと食べ続けている。
舞火は言う。
「そんな物騒な奴を野放しにしていたら、それこそ有栖ちゃんのことが心配になるじゃない」
天子もうなずいた。
「同感ね。今日は運動が足りない気分だし、腹ごなしにそいつの相手をするのもいいかもしれないわね」
「天子さんまで」
「ミーも先輩達についていきます」
エイミーまで行く気になっていて、有栖だけ行かないと言うわけにはいかなくなってしまった。
「分かりました。食事が済んだら出かけましょう」
「さすが有栖ちゃん、話が分かるわ」
「賢明な判断ね」
「ミーも頑張るです」
みんなは楽しく食事を続け、そして食べ終わった。
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