ギルパーニャとの再会
プロ鑑定士試験まで、残り一週間となった。
この日、プロ鑑定士協会にあるウェイルの自室に、珍しい客が訪ねてきた。
「ウェイルにぃ~~! フレス~~!! 遊びに来たよ~~!!」
軽快な声とともに扉を開いて現れたのは、妹弟子であるギルパーニャであった。
「……ええっ!? ……ギル!?」
「そうだよ! フレス、久しぶり!!」
「う、うん。久しぶり。……いや、そうじゃなくて、どうしてここに!?」
「そりゃ私もプロ鑑定士試験を受けるからに決まってるじゃない!! 後一週間だから、競売の本場マリアステルで勉強をしようと思ってさ。ウェイルにぃに連絡を入れておいたんだ」
「ちょっとウェイル! どうして黙っていたの!?」
「お前の驚く顔が見たかったんだよ。なぁ、ギルパーニャ」
「うん! 作戦バッチリだったね!」
ギルパーニャは一昨日リグラスラムを出発して、今日ここに到着した。
「フレスを驚かすから黙っていて」とギルパーニャから頼まれていたのだ。
「どう? 驚いた?」
「すんごーく驚いたよ!! ずっと会いたかったんだからさ!」
「私もだよ!」
久しぶりの再会にも関わらず、まるで姉妹のように抱き合う二人。
フレスは相当嬉しかったのだろう。
ここまではしゃぐフレスは久々に見た気がした。
「二人とも。喜ぶのもいいが、そろそろ勉強を再開しないとな。フレス、少し遠出するから荷物をまとめておけ。ギルも一緒に行くからそのつもりで。昼から行くからな」
「えっ!? どこいくの?」
「ここで勉強するものだと思っていたのに……」
何もサプライズを用意していたのはギルパーニャだけではない。
二人には黙っていたが、ウェイルからもサプライズがある。
「さて、本当の競売がどんなものか、体験しに行こうか」
「「本当の競売!?」」
二人して驚いた顔。
「そうだ。ルークの経営するオークションハウスで、実際の競売を体験するんだ」
「ルークさんの? ってことは、もしかして行先は……」
「『教会都市サスデルセル』だ」
――●○●○●○――
――教会都市『サスデルセル』。
数多くの教会が拠点としている大都市だ。
ウェイルとフレスが初めて出会った、ある意味記念すべき都市でもある。
そのサスデルセルへ向かう汽車の中、フレスはとてもご機嫌だった。
「みゅふふふ、楽しみだなぁ……」
「フレス、どしたの?」
「聞いてよ、ギル! サスデルセルには、ウェイルのお友達でヤンクって人がいるんだけどさ!」
「……ヤンク? どこかで聞いたことがある名前……」
「そりゃ聞いたことあるだろうよ。何せあのヤンク・デイルーラのことだからな」
「ええ!? あのヤンク・デイルーラ!?」
「うん。あれ、ギルはヤンクさんのこと知ってるの?」
「そりゃデイルーラ社の会長さんだもん。鑑定士志望なら誰だって知ってるよ。ヤンク・デイルーラ。交渉術において右に出る者はいないと言われた伝説の商人。他大陸相手でも一歩も引かない強硬な交渉姿勢は、経験の浅い者であれば、即座に首を縦に振らせてしまうという、まさに怪物。睨んだだけで、勝手に手がサインをしてしまい、一声発すれば即決になると言われたほどの……」
「大袈裟に言い過ぎだっての」
「流石ウェイルにぃ、そんな大物とも友達だなんて……」
ギルパーニャの尊敬する眼差しに対し、ウェイルは苦笑しか出てこない。
「あのヤンクがねぇ……」
大層な伝説をギルパーニャは語るが、実際に会えば判る。
あれはただの気さくなお爺ちゃんであると。
「それで、そのヤンクさんとフレスは一体どういう関係なの?」
「お友達だよ。ヤンクさん、次会う時にはクマの丸焼きをご馳走するって約束してくれたんだ!」
「……え? く、ま……? くまって、あの熊?」
ギルパーニャは目を点にして?マークをしきり頭上に浮かべていた。
「そうだよ、クマだよ! 熊! みゅふふ、楽しみだなぁ……!!」
「……くまって食べられるの?」
「勿論だよ! ギルも食べてみなよ!」
「え、えっと……遠慮しておく……」
爛々と目を輝かせるフレスに対して、ギルパーニャは若干引き気味であった。
(……そういえばギルパーニャはフレスの正体が龍であることを知らないんだったな)
師匠シュラディンはフレスの正体に気付いたが、それをギルパーニャに話してはいないだろう。
もしかすればギルパーニャには、フレスの正体を見る日が来るかも知れない。
その時、ギルパーニャはどんな反応をするだろう。
元ラルガ教会の信者だったギルパーニャ。
龍に対して良いイメージを持っていないであろうことは想像に容易い。
出来る限り秘密は守り通した方がいいだろう。
仲良く会話をする二人を見て、少し複雑な気持ちとなったウェイルであった。
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