蒼い龍は人懐っこい


 話が一通り済んだ頃には、すっかり夜も更け、寝るには良い時間となった。

 明日はルークのオークションへ行く約束だ。

 そろそろ寝ておかなければ明日の仕事に影響する。

 ウェイルは腰に巻いたベルトを外して机の上に置き、備え付けのベッドに腰を下ろした。

 その時に、とある問題に気づく。


「そういえばベッドが一つしかないな……」


 普段宿泊する時は当然一人である為、情けないことにそのことに気付いたのは今頃になってしまった。

 ヤンクに手配して、フレスの分の部屋を確保してもらう必要があるだろう。

 そう考えてウェイルは下の酒場へと降りようと扉に手を掛けた。

 そこでフレスに呼び止められる。


「どこへ行くの?」

「お前の部屋を借りに行くんだよ。流石に俺の部屋で一緒に寝る訳にはいかないからな」

「なんで? ボクは気にしないけど」

「俺が気にするんだよ。それにお前を泊めるとなると、もう一人分の代金も払わなくてはならないからな。下の酒場へ行ってくる」

「じゃあボクもついていくよ」

「ここで待ってろ」

「嫌だ! 一緒に行くもん!」

「あのなぁ、俺がお前みたいな女の子を連れこんだと知られたら、あいつらに何言われるか判らんだろう」

「部屋をもう一室借りようとする時点で変に思われるんじゃないの? だったら一緒だと思うけど」

「……確かに」


 よくよく考えてみればフレスの言う通りである。

 結局部屋をもう一つ貸してくれと頼む以上、誰のために必要かと突っ込まれるに決まっている。

 であれば最初からフレスを紹介するのは悪いことじゃない。


「……問題はもう一人の方か……」


 ヤンクには部屋を借りる以上、フレスの存在を隠すことは不可能だ。

 だがウェイルの懸念はもう一人の方にある。


「ステイリィの奴、もうここに来ているだろうな。さっき来るって言っていたからな……」


 問題は治安局員のステイリィである。

 この時間なら、ステイリィは今頃酒場で仕事の愚痴を垂れ流しながら酒をがぶ飲みしていることだろう。

 どうもステイリィはウェイルに対し過剰な好意を寄せているみたいで、以前にも勘違いから大騒動を起こしたことがある。

 ヤンクにだって間違いなく冷やかされるだろうが、ステイリィのそれはヤンクの比じゃない。

 フレスのことをヤンクにだけ話し、ステイリィには隠す通す。

 これが最も穏便に済む方法だ。

 弟子をとるだけでここまで苦労せねばならないのは、なんとも難儀な話だ。


「判ったよ。じゃあ行くぞ。その代わり俺が店主と話している間、どこかに隠れていろ」

「うみゅ? どうして?」


 フレスは頭の上に?マークをたくさん乗せてピョコピョコとついてくる。


「見つかると面倒な奴がいるはずだからな」

「そうなの? うん、判った。ボク、隠れるの得意だもんね!」


 フレスの自信満々の顔を見ていると、どうしてか不安が込みあがてくる。


「厄介事にならないといいが……」

「はやく行こうよ~! ウェイル~~」


 さも当然とばかりに腕を組んでくるフレスに、慣れないウェイルは戸惑いを隠せない。


「何故くっつく」

「いいじゃない。減るもんじゃないし」

「……減ったら怖いけどな」


(龍って、こんなに人懐っこい存在なのか……?)


 人に馴れ馴れしく、身体も小さい奴だ。

 神話や伝説で語り継がれている龍のイメージとはあまりにもかけ離れているので、本当にフレスは龍なのか、信じられなくなってくる。

 だがあの翼を見た以上信じざるを得ない。

 どうやら背中の翼は、普段は隠しておけるようだ。


「すでに厄介事にはなってるか……」


 龍に対する概念が一日で木端微塵にされたウェイルであった。



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