第52話 祝精神科卒業
電車に乗ると、鼓動が外に漏れ出すほどの動悸がした。夜中、寝ていると変な汗が止まらずバッと起き上がった。それが、大学1年の夏休み。精神科ジプシーを経て、今の主治医に出会う。そして、そこから1年後妊娠発覚。「薬の心配は、しなくてもいい。お母さんの手助けも得られるし、悪くないタイミングだ。」
そう前向きに、先生は妊娠継続を後押ししてくれた。
春馬が、1歳の誕生日を迎えるひと月前。断乳したことも、3日もすればケロッと忘れていた。まだまだ、つかまり立ちが精一杯だが「よいしょっと!」
と掛け声をかけて歩きだす姿が本当に愛らしい。パパ・おびゃーちゃん(おばあちゃん)・いたいいたい・やったーなど言葉数も増えてきた。みんなが、私を名前で呼ぶからか「ママ
!」とはまだ言わない。そう呼ばれる日が待ち遠しい。
とんぷくの薬を飲まずとも、体調が安定していることを伝えると通院終了を告げられた。「一時的な不安障害(パニック障害)は誰にでもあること。薬の継続は、必要ないよ。」
ただただ、ホッとした。
「今一番辛いことは?」
明るい声色で先生は言った。
「なかなか、一人の時間が取れないことかな。」
と子持ちの母親らしいことを言うと、先生は微笑んでいた。「もっと、自信を持ちなさい!」
先生の私への最後の言葉はこれだった。
学生時代は、自意識過剰とか自信満々とか言われてきた私だったが、本当はそんなことないのだ。実は、少し注意されたり、怒られただけで萎縮してしまう。父に得意なことが似ているから、褒められたこともあまりない。
夫は、私を常に肯定的に受け入れてくれた。すべての話を否定せず、耳を傾けてくれた。主治医も、薬よりもこの夫のカウンセリングが私の助けになったと分析していた。
母は母で悩んだようだが、私が外に出られる時は喜んで送り出してくれた。もし、大学を辞めたことを責め立て、外出することも止められていたら夫と出会うことも出来ない。私の世界を閉ざさず、見守ってくれた母の寛大さも大きかった。
パニック障害は、死を感じさせるほどの恐怖を与える。こんな日々が、続くなら本当に死んでしまった方がいっそ楽なのでは?と冗談ではなく、頭をよぎることもあった。でも、本当に負けなくてよかった。2年半の通院をやっと卒業する瞬間。私は、また少し強くなれた気がした。
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