第48話 記念日に夫の大学訪問

春馬の風邪が治ったと思ったら、なんと今度は夫が!定期テストの最終日に39℃の高熱。解熱剤もないので、顔色は終始真っ青。大学3年生の秋。必修の単位がかかっていた。行くしかなかった。


テスト後に病院で薬も貰ったが、5日間38℃前後を行ったり来たり。子どもから貰った風邪は、案外タチが悪いようで初期にしっかり休めないと重症化することを実感したのだった。


やっと、風邪から立ち直ると楽しみにしていた夫の大学の文化祭が。自宅から電車で片道1時間半かかるので、合間にイオンの授乳スペースでレンジやテーブル付きチェアを借りて離乳食タイム。春馬は、キューピーの瓶詰めのチキンライスがお気に入り。生え始めたばかりの歯で、美味しそうに噛み締めた。


京成線ののどかな駅に、夫の大学はあった。学生の街だけあって、商店街も活気がある。お菓子のディスカウントショップに、ファンシーな雑貨屋さん、一人では到底食べきれないオムライスやピラフが食べられる喫茶店。個人のお店のお弁当は、なんと290円。男子学生を虜にするこってり系のラーメン屋さんも、多数軒を連ねている。


大学に着くと、さっそく夫の仲間たちに会う。「あれが、最近初めて彼女が出来て浮かれてるマツキヨくん。今日、彼女連れて来るらしいよ。彼女、アラサーなんだって。」

夫からの耳打ち。事前に、大学での話を聞いて私は独自にわかりやすいあだ名を私が付けていた。この子は、バイト先がマツキヨなのでマツキヨくん。


春馬は、にこにこ笑顔のマツキヨくんが気に入ったようでベビーカーから乗り出し手をギュッと握っていた。「彼女とがんばれよ!ってことじゃない?」

とみんなにいじられていた。


一番仲良しの茨城くん(茨城出身というだけ)は、言われなくともすぐにわかった。頭も良く、スタイリッシュな風貌。理系男子たちの中では、異端の存在。英語サークルで、女の子たちに囲まれ、椅子に足を組みながら接客。


スマホの無音カメラで、マツキヨくんの彼女を盗撮しているのが許されるのもこの人ならではだ。春馬には、それが通用しないのも更に笑えた。フレンドリーに手を振ったりガラガラであやそうとしても完全に無視されてるのだ。


蒸気機関車に乗れるイベントにも、友達が居た。勉強について行けない時、助けてくれた恩人だという。忙しそうでお話する機会がなかったのが残念だ。蒸気機関車は、文化祭の人気イベントのようで近所の子どもたちがたくさん集まってきていた。


他にも、コスプレイヤーの美少年やお寺の後継者、陽気なブーちゃんなど個性派揃いだった。時間があれば、どこにでも顔を出すのがモットーである夫の交友関係の広さが伺える。


大学周辺で開拓したお店も教えてくれた。商店街から外れた、駅とは反対方向にあるパン屋さんや駄菓子屋さん。駄菓子屋さんは、絵に描いたような懐かしさがあった。瓶コーラには、返却するとくじが引けて50円から500円まで現金が当たる。超能力やじゃんけんの10円ゲームも昔のままで本当によく当たる。店内には、椅子がありおばちゃんがいろいろと話しかけてくれるのも子どもたちは嬉しそうだ。


「おじいさんになったら、こういう駄菓子屋さんがやりたい。自分でゲームの調整なんかもして。万引きしちゃう子は、しっかり叱って。」

夫は、楽しそうにそんな夢も語っていた。


お互いの学校の文化祭に行くのは、大正解だった。より深くお互いの内面や交友関係を知るきっかけになった。去年の文化の日に、婚姻届を提出。結婚して1年になるが、春馬が産まれても私たちの関係は新鮮だ。素朴で優しい夫の雰囲気に合うこの街で、残り1年強でどこまでやれるかを私は見守っていこうと思う。




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