第37話 時間の解決に心を託し

父は酔っ払ってキレた後も、たびたび機嫌が悪かった。トイレットペーパーが無くなっているだけで怒る。「麦茶が悪くなっていたから、気分が悪くなった。」

と謎のいちゃもん。よくよく確認したら、自分で食べに行った昼ごはんのサバにあたっただけだった。家族が、5人もいると麦茶の回転率だってトイレットペーパーに負けない。


周りが見えていないようだ。車の鍵も何度も閉め忘れた。お財布を自宅の中で紛失、こちらが状況を知らずのんびりテレビを見ていると「なんで、一緒に探さない!」

と意味もなく怒鳴り散らす。いつ怒り出すかと思うと気が休まらず、いつも体に無駄な力が入っていた。そして、母の血圧はまた上がる。負のメカニズムが、出来上がっていた。


考えれば考えるほど、ドツボにはまる。精神科の先生にまた話してみることにした。こんな話しを他に誰にしたらいいのかわからなかったのだ。一通り話すと、「お父さんは、50歳くらいかな?新しい職場、単身赴任解消、そこに赤ちゃんも娘の旦那さんも増えたらそりゃそうなるよ。」

当たり前じゃないという顔で、先生は続ける。


「1,2ヶ月じゃ適応出来ないものだよ。歳を取ると。気長に見守ってあげて。」

先生は、私を諭すように言う。「でも…」と言いたげな私を見て、先生はまた続けた。

「それでも、ダメだったら2年後は別に暮らしたらいい。今から決めなくても、ダメだったら別に暮らせばいいやって気楽に考えてたらやっていけるでしょ?」

そうなのだ。私は、今家を出る勇気はない。お金もない。何もない。でも、そのための準備は今からだって出来る。そう思えば、強くなれた。


春馬は、初めて電車に乗ってご機嫌だった。ゆらゆら揺れると、気分がいいって言うものね。今度は、病院じゃなくもっといいところに行こうと心に決めた。

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