第24話 日常を取り戻すための入院生活

出産から退院までの7日間は、何かと大忙しだった。


産後1日目は、動くとお腹の傷が引きつり、息を吐いて痛みを逃しながらのトイレ。歩かないと、癒着してしまうと看護師さんに脅され、私は必死になった。新生児室でのはじめての面会。我が子の小ささが不安だった。周りには、うちの子より大変そうな赤ちゃんもたくさんいた。赤ちゃんは、アイマスクをして目の光を遮り、家族はその隣で視力が出るかの話をされている。男の子の赤ちゃんは、早産のせいで生殖能力がないかもしれない、まだわからないと深刻な顔で話されていた。不安がっている自分が、恥ずかしく思えた。食事は、この日の夜から再開。情緒不安定な私のために、個室の病室に移動し、家族が交代で泊まり込んでくれることに。


2日目からは、1mlの母乳を小さな針のない注射器でかき集める作業が始まった。1ml出すのに、1時間。根気のいる作業だ。私は、これを母乳100本ノックと呼ぶことにした。昨日は、あまり出ていなかった悪露(赤ちゃんを産んだ後に出る血の塊が生理のように排出されるもの)も、たくさん出てきた。生理と同じで、動かず寝てばかりでは悪露も出ないのだそうだ。悪露は、生理の血より粘っこく特有の生臭さもあるので、ウォシュレットが便利だった。実は、今まで必要性がわからず使ったけどがなかったが、産後はウォシュレットに本当にお世話になった。爪切りや、体拭き、着替えなど身支度も自分で出来るように。当たり前の生活を送れることが、こんなに幸せに感じるなんて。


3日目、朝から雨が降っている。めまいがする。しっかり睡眠をとっているつもりだけど、何だか辛い。親知らずが、出産後から急に生えてきて痛い。私の中の成長ホルモンにも何か影響があるのだろうか?私の友人の20歳のママも、産後親知らずに悩まされていた。赤ちゃんに面会に行ったら、いつもより脈などを測るモニターが頻繁に鳴っていた。大丈夫かな?私の心臓に似て、脈拍が多めなのかなぁ?先生に何か言われたわけでもないのに、不安になった。夕方、2週間ぶりのシャワーも浴びられた。お腹の傷は、案外問題ない。傷の焼き豚のような赤黒さも、少しはマシになってきた。


4日目、義理の父が面会に来た。新生児室は、赤ちゃんの両親以外は頻繁な面会は断られている。そのため、出産後私の母は春馬に会ったので、今回は夫の方の両親がということに。結局、義理の母は仕事で来なかった。私の父は、単身赴任解消で仕事と荷造りに追われている。義理の父は、「おじいちゃんって気持ちだと、余裕が持てて余計に可愛く感じる。」とビデオとカメラでたくさん撮影していた。私の母にも、写真とビデオで可愛さを必死に伝える。この人の子どもっぽさが、実は救いだった。妊娠中の父や、義理の母とのやり取りは、赤ちゃんさえ受け入れてもらえないのではないかという疑念に繋がっていたのだ。


5日目、夫が出生届けを出してきてくれた。赤ちゃんとの面会には、貧血気味の私のために夫が毎回付き添ってくれていた。この日は、市役所の他にも、保健センターなど一日役所回りがあるので面会は中止に。学生結婚は、金銭面での問題は多いけれど、つわりが酷い時も産後も長期休みだったおかげで夫のサポートを受けられた。メリットも実はあるのだ。


6日目、帝王切開の抜糸の日だ。抜糸と言っても、ホチキスのようなもので止められているので、ホチキスの針をテコの原理で抜いていく感じ。想像していたような痛みはない。高校の保健の先生は、2人出産しているが溶ける糸の方が引きつるし、傷の治りが悪かったと教えてくれた。実際、そういうことはあるようだ。抜糸に来た主治医ではない先生は、うっかりしていて針を飛ばす。病室のベッドに先生が去った後も針が残っていた。この先生に手術されなくてよかった。この日は、ミルク会社が病院で行う調乳指導にも参加した。面会に行き、パパが頭を撫でたら赤ちゃんが笑った。胎内に痛みはことによる新生児特有の顔のむくみも取れてきた。


7日目。予定より一日早い退院となった。主治医の先生が、内診すると子宮の収縮の早さに驚いていた。若さの賜物。これに尽きる。看護師さんに教えてもらったのだが、子宮の回復には、おしっこを一時停止しながら出すのが効果的なのだそうだ。巷で話題の膣トレは、実は産後にこそ役立つのだとか。悪露も、お腹に力を入れて出し切るイメージを持つと、トイレ以外でタラタラ出続けにくいそうだ。参考になった。お風呂は、悪露が不衛生なのでシャワーで。悪露は、3週間前後続くそうだ。


産後の1週間は、普段の生活を取り戻しながら、たくさん新しいことを学び、取り組んだ。はっきり言って、脳の許容量を超えている。毎日、メモを取っては見返していた。産後は、頭に霧がかかっているようだった。看護師さんに、教えてもらったことを再確認しては怒られて泣いていた。でも、赤ちゃんと面会すると、負けてられないという気持ちになった。


生きているだけで、奇跡。普通の生活を送れることの幸せを強く感じた一週間だった。




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