第17話 パパになるのも楽じゃない

妊娠して、身体ごと縛られて、私は自分がママなんだって自覚した。守ってやらなきゃって、お腹を蹴られるたびに感じた。妊婦だからって、我慢したこともたくさんある。妊娠初期の那須ハイランドパークへの仲間内での旅行なんか、特に行きたかった。胃腸が弱いから、普段から吐き気止めは常備されていた。つわりから逃げたくて、これを飲んだら楽になるかもと頭をよぎることもある。でも、私の身体じゃない。


一方、男の人はいつでも逃げられる。私が、産婦人科で、理不尽なことを言われた話をしても他人事。義母に、何か暴言を吐かれていても、聞こえないふり。私は、そのたび夫の頼りなさを糾弾した。


就活前最後にするからディズニーランドに行かせてと言われた時も、妊娠8ヶ月だけどOKした。帰ってきて、ディズニーランドでの出来事を事細かにハイテンションで話してきた時は、「聞きたくない!ディズニーのことなんか、楽しそうにしゃべんないで。あっち行ってよ!」とブチ切れた。気持ちよく送り出したいけど、出産後もこの調子だったらたまらないと思ったら言わずには居られなかった。


妊娠中は、八つ当たりとも呼べる行動を大量に起こしていたと思う。でも、これがなければ産後の夫婦仲は冷え切っていただろう。私が、ブチ切れるたびに態度を夫は態度を改めていた。


義母は、「自分たちでやっていけないんだったら、借金よ!借金!」

と私たちを突き放した。方向性が全く決まらないのに、無駄な急かしが入る。言われなくても、切羽詰まってるのは自分が一番知っていた。


つわりで点滴に毎日通っている私が働けるはずもない。病院への交通費に、通院代。お金は出ていく一方。夫の大学の単位は、ギリギリ。バイト詰めにすれば留年まっしぐら。近所のドラッグストアの夜間が高時給だと判明し、働きだすと、すべて私にお金の管理を任せてくれた。これは、結婚前からだ。無駄遣いをする余裕はなくとも、手元にお金があるだけで気持ちは楽になる。


「運転免許なんていらない。自転車で、どこでも行けるから。」と車の免許もいらないと言っていた夫。仕事で必要になるかもしれないし、時間のあるうちに、就活が始まる前に済ませるよう私は勧めた。これは、義両親も納得したのか、成人祝いだからなと自動車学校のお金を出してくれた。夫が、何度頭を下げたのかは、私にもわからない。期待に応えるべく、かなりのスピードで免許を取得し終えていた。


私は、大好きな人にこんなに本音をぶちまけたことがあるだろうか?結婚って、理想と違う。でも、夫は着実にパパになっていった。ただの大学生の男の子じゃなくて、パパの顔に。


私は、子育ての前にパパ育てをしている気分になってきていた。怒られると、考えるなんて、まさに子どもだ。言われたことだけやってれば、上手く行くのは学校の中だけ。私だって、子どもだけど、理想の家族がある。そこには、頼れるパパが必要だった。目標を共有出来れば、向かうところ敵なし。私たちは、大人になる親になるための階段を全力で駆け上がっていった。


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