第15話 不安解消!両親学級

私が住んでいる市町村では、両親学級が安定期に入る5ヶ月前後から3回ほどある。妊婦は、体調もさまざまなのでもちろん強制ではない。私も、実は8ヶ月に入った今回が初めて。


予想通り私と同じような年頃の人は、全くいなかった。25歳過ぎがちらほら。ほとんどが、30代だ。みんな下を向いてケータイをしていたり、資料に目を通していたり。笑顔はない。グループは、テーブルごとに始めから家の近い者同士が分けられていた。


まず、学生時代にも保健体育や家庭科の時間にやったことがある赤ちゃんの人形で抱っこの仕方を確認した。私たちのグループで、唯一夫婦で参加していたうちの奥さんは、元保育士さん。

「そんな抱き方じゃ、赤ちゃん首がおかしくなっちゃうじゃない!」

とぎこちない抱っこの仕方の夫に、怒り心頭。わからないから、仕事休んで習いに来たのに怖い。私まで、萎縮してしまう。


お隣の女性は、とてもおしゃべり。順番に、赤ちゃんの抱き方を練習する間も、自分の話をしている。「私は、3月中旬まで働く予定なの。」

から始まり、自分の仕事が代わってもらえないことを力説する。私は、ありきたりの褒め言葉で会話の切れ目を探した。


「働いていたせいか、食べづわりが酷かったから、2回も体重増加を警告するスタンプ押されちゃった。いいな。痩せてて。」

つわりが、酷く点滴生活がひと月以上続き太れなかったのだが、それでも羨ましそうにする。なんだか、私が病気自慢をしているような雰囲気になり、げんなりした。普段から、痩せ型の私は、「痩せてていいわね。」と初対面で話しかけてくる人は、要注意人物にカウントしてしまう。


おしゃれで、メイクも洗練された女性は、常に聞き役に徹していた。「妊娠してから肌荒れがね。」と言った時だけ、「私も、毎日クリーム塗ってるのにカサカサで。」と同意していた。赤ちゃんの抱き方が上手くいかない私を見かねて、手を添えて教えてくれたり、親切な人もいてよかったとホッとした。


おしゃべりな働き者の女性に、次回いつ両親学級に来るかなど聞かれたが、はっきりとは答えず、連絡先を交換することもなかった。期待していたママ友は、この日出来ることはなかった。


グループでの実技が終わると、後はひたすら講義。最初は、慣れない講義に眠たくなりそうだったが、明るく元気な保健師さんの話しは、ポジティブになれるものだった。


「みなさん母乳が出るか心配されますが、スキンシップだと思って身構えないでください。今は、いいミルクもありますし。ただ、母乳は始めが肝心。泣いたらくわえさせるの繰り返しで、出やすくなるんです。」


「母乳をあげるメリットは、お母さんにもあるんです。母乳を吸ってもらうと、ハッピーホルモンが自然に出るんですよ。赤ちゃんは、一人では生きていけないから、本能的にママを助ける仕組み。すごいでしょ?」


「女性は、初めのうちは夜中も3,4時間ごとに授乳しなきゃならないから大変よね。でも、赤ちゃんの声で起きられないからって怒らないでね。男性には、赤ちゃんを育てるためにパワーが出るホルモンなんて出ないのよ。ママ達だけ特別。」


「あとね!これだけは、言っておく。旦那さんが、何もしてくれないんですって相談多いけど、はっきり何して欲しいか指示がなきゃ男って動けないから。料理してるから赤ちゃんちゃんと見ててねっ!とか。休みの日だけは、夜中のオムツ替え代わってくれたら助かるなとかね。」


保健師さんのお話は、ママが優しくなれるヒントが詰まっていた。自分だけが大変だと思って、荒んでいたつわり期の自分を思い出して恥ずかしくなった。そして、出産後の生活を想像して、モチベーションが上がった。妊婦は、不安や心配に弱いけれど、少しの言葉で一気に気分が上がる。それも、きっとホルモンの仕業なのだろう。俄然、産後のハッピーホルモンに期待が高まった。

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