(3)
「皆ようやるなあ。俺には理解出来んわ」
放課後の教室から窓の外を覗くと、グラウンドでは部活動に勤しむ多くの生徒達が見えた。ああやって運動に打ち込む事こそが、学生の本分で青春の正解のように皆溌剌と体を動かしている。それはそれでいい。
そうやって運動する傍らで管楽器や合唱が響く。こっちだって青春をしているんだぞと声高らかに主張するように。それもそれでいい。どっちも正解であっていいと思うし、それを否定する気もさらさらない。だが、それが唯一の絶対的な答えだと言うなら、それには異議ありだ。
体育会系と文科系。それだけが答えだなんて、認めない。
「あいつらには俺らが理解できねえよ」
「言えとるな」
悟達にとっての青春は、そのどちらにも属さない非公式なものなのだから。
「でも俺らは縛られとらん。やりたい時にやる。動きたい時に動く」
「自由だよな」
「せや。自由あってこそ。あいつらの何人が本心から楽しんでやっとるんやっちゅう話や。やりたいとも思ってない事を中途半端な気持ちでやって何の意味があんねん」
「なんて言ったら、あいつら怒るぜ」
「怒るのは図星やからや」
普段は見せないが、こうやって二人で話していると操は驚く程ひねくれた一面を見せる。こんな操を見たら皆心底驚くだろう。だが、そんな操も悟は好きだった。それは何より尖ってひねくれた一面に共鳴するものを感じたからだ。
自由で、楽しいと思う事をやる。操の言う通りだ。それこそが最高だ。
だから自分達は、自分達の思う青春を楽しむ。
「さてと、そろそろ楓ちゃん迎えに行こか」
悟達の行う非公式な部活。その最後のメンバーを迎えに悟達は教室を後にした。
*
体育館の床を打ち鳴らす生徒達の音は活気に溢れ、悟達はそれだけで自分達の住む世界との違いに嘆息する。
いつもの様に体育館の裏手側の入口で待機していると、まもなくして体育館と部室を繋ぐ扉が左右にがらっと開き、一気に大量の女子バスケ部の生徒達が雪崩れ込んできた。
もはや顔馴染になっていた後輩やら先輩やらは、悟達の姿を見つけると声を掛けてくる。
悟達のお出迎えは、彼女達にとっても日常の光景だった。
「あ、先輩お疲れ様ですー」
「お疲れさーん」
何もお疲れていない操が後輩達に軽く手を挙げて答える。
「お二人さん、今日も姫様待ち?」
「お疲れ様っす! はいっす! 今日もお出迎えに来ました!」
先輩には必死で媚びを売るように腰を折ってぺこぺこと対応する操を、悟は冷たい目で見つめた。一体その媚はどこに役立つというのだろうか。
そんな事を思っていた時、
「5分お待ちを!」
その声の主に目を向けると、当の本人は既に声の場所にはおらず、風の如き速さで駆け抜けた姿は女バスの部室の扉をバタリと閉じた。
「はいよ」
誰もいない虚空に向けて、操は返事を返した。
「はい、お待っとさんです」
ちょっきり5分後に現れた疾風ガールは、あれだけの速度で動いたにも関わらず息一つ乱していない。相変わらずそのタフさというか無尽蔵のスタミナには恐れ入る。
「今更言う事でもないけど、自分やっぱ変やで」
「何がよ?」
「散々バスケで動き回って、息つく暇なく速攻着替えてお待たせって言うて一つも呼吸に乱れあれへん。疲れも見えへん。お前、生身の人間やないで」
「失礼しちゃうわね。運動してりゃ自然とそうなるわよ」
「運動って素敵やな」
「馬鹿にしてる?」
「してへんよ、なーんもしてへん」
「ふーん」
無駄なやり取りで無駄に睨み合う二人の呼吸は、今日も見事に波長が合っているようだ。
「さ、とりあえず行こうか」
「了解であります、部長殿」
悟の言葉に楓はびしっと敬礼を決めた。
左にアシメがかったショートカットから覗く大きな瞳は、激しい部活の後とは思えない程爛々としている。
西行楓。
彼女が悟達の最後のメンバーである。
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