ほしにせかいを

狐鞠

プロローグ

はじめてのプロローグ

 このせかいのはじまりを、知ってる?

 暗くて、哀しくて、歪んだ、この世界の始まりを。

 それは、ずっとずっと、遥か昔よりも少しだけ後のお話。


・ + ♪ + ・

 

 あるところに、一人の魔法使いが居ました。

 彼は、どこかの世界の、どこかの街の者でした。

 彼は、自分の生きる世界を嫌っていました。

 自分が不幸な目に遭うのはすべて世界の所為だと思い、憎んでいました。

 毎日毎日憎しみは降り積もり、そしていつしか、彼はこう思うようになっていました。


 ——こんな荒んだ世界は嫌だ。俺の世界が、俺だけの世界が、欲しい。


 それからというもの、彼は探しました。「世界」を創ることができる力を。


 ある日、彼は見つけました。


 〝ほし〟を。


 〝ほし〟はきらきらと光り、とても美しいものでした。

 〝ほし〟は彼に語り掛けました。と言っても〝ほし〟の意思が伝わってきた、ということですが。


『きみは、世界を創りたいの?』

 幼い声の〝ほし〟は言いました。

「ああ。出来るものなら、創りたいさ」

 彼は答えました。〝ほし〟は少し間を置いてから、囁くように告げました。

『じゃあ、力を貸すね。少しの間、目を閉じていて』

 彼は言われた通りに、静かに目を閉じました。瞼の裏にはまだ〝ほし〟の煌めきが残っているようでした。


『世界を、創るね』


 普通なら有り得ないようなこと。けれど〝ほし〟はあっさりと言いました。そして次の瞬間、地鳴りがして、不思議な音が聴こえはじめました。何かを奏でる音のような、歌のような。今まで聴いたことの無い旋律はとても心地良く、憎しみで歪んだ魔法使いの表情も心なしか緩んだようでした。そんな時間が永遠に続くかと思われたその時、


『目を、開けて』


 〝ほし〟の声が響きました。

 

 恐る恐る目を開いた魔法使いの前に広がっていたのは、



「世界、だ……!」



 それは「世界」でした。彼が今までに居た世界と、殆ど変わらない、けれど、生きているものは存在しない世界。


『この世界は、きみのものだよ』


 状況をよく飲み込めず、驚愕と感動で茫然としている魔法使いに〝ほし〟は優しく語り掛けました。

 その意思が彼に届いたかどうかは、分かりません。それでも〝ほし〟は満足げに光を放つと、突然、何処かへ消えてしまいました。茫洋たる世界の中心に佇んだ彼が〝ほし〟の消失に気付いたのは、それからかなりの時が経った後のことだったといいます。


 

 それから彼がどうやって生きたのか、或いは死んだのか、知る者は一人もいません。しかし新たな世界にはいつの間にか生命が溢れ、魔法使いと〝ほし〟の話は伝説として、そしていつしか神話として語り継がれるようになりました。彼と〝ほし〟は、神とされたのです。

 その神話では新たな世界が生まれた日のことを〝創世日スタラルカ〟と呼び、重要視されていますが、語り継がれるうちに曖昧になり、忘れられていってしまったのでしょう。今ではそれがいつなのか、はっきりとしたことは誰も知りません。

 

 そんな世界で、ある日、ひとりの子どもが生まれました。

 その3年後、同じ日に、ふたり。

 さらに2年後、同じ日に、ひとり。

 4人の子どもが生まれました。それぞれ、別の街で。

 その時、何処かで〝ほし〟は微笑わらいました。


『世界は、変わるね』


 そんな〝ほし〟の呟きを聞いた者はいません。


『その日を、楽しみに待つとしよう』


 〝ほし〟は、もう一度呟きました。


『すべては、あの子たち次第なのかもね』


 〝ほし〟は何処かで〝せかい〟を見守っていました。

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