はじまりの日-5
「えっ」
空気が凍った。
琴子はその場で凍り付き、ロウもわずかに肩を震わせ目を見開いた。
一番顕著だったのがアーリアで、思わず伏せていた顔を上げ、クレハ将軍に向かって愕然とした視線を投げかけた。
一瞬の間、重い沈黙。
何も言いださない三人の代わりに、クレハ将軍が口を開いた。
「というのは真っ赤な嘘だ」
「!」
「将軍、疲れ切っている娘たちにまでそのような冗談を仰っては酷というものですよ」
近くに控えていた年かさの近衛兵がため息まじりにそう将軍を窘める。
「そう思うのならすぐにお前が訂正してやればよかったじゃないか」
「私がすぐに訂正すればお怒りになるではありませんか。そちらの方がこの者たちにとってはよほど恐ろしいでしょう」
「それは怒るだろうな。折角の悪戯を台無しにされては」
愕然とした三人を置いて、馬上でどんどん会話が進んでいく。
クレハ将軍は改めて三人に向き直り、言葉を言い改めた。
今度は先程とは違い、その目には相手を威圧する気配が漂っている。ロウが微かに身じろぎをした。
「捕まえるというのは言葉が過ぎたが、お前たちには重要参考人として上宮に参上してもらう。怪我をしているロウ・キギリには悪いが、上宮で医師を用意するので勘弁してくれ」
「………それは、上宮に身柄を拘束されるということでしょうか」
クレハ将軍の言葉にそう返したのはロウだ。ハッとして琴子もその答えを待つ。
「預かるという言い方を人はするが、まあ、そうだ。そのために私自らお前たちを迎えにきたのだ。逃げられては困るからな。そう考えると、先程の真っ赤な嘘というのは言い過ぎかもしれぬ」
確かに、それは捕まえると大して変わらないんじゃないかと琴子は思った。多分、ロウもそう思っているのだろう。
(重要参考人………)
刑事ドラマでしか聞いたことがない単語を、まさかこんな場所で自分に向かって言われるとは思ってもみなかった。
「他にも重要参考人はいるのですか?」
ロウの質問は続く。
「ああ、アドリア家の跡取りを重要参考人としてすでに上宮に引き取っている」
(!シャン)
琴子の記憶の中だと、あの影が巻き起こした突風で壁に打ち付けられたところで止まっている。焦燥が胸の裏を焼いた。シャンは大丈夫なんだろうか。怪我は?ロウ程ひどくなければいいけど。
「では、拘束されてくれるな?」
そう問いかけるクレハ将軍の声が、人気のない森に嫌に響き渡った。
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