戦いの箱庭
ありすえしーらえくすとら
1-1
「おい!おいおいおいおい!さっきまでの威勢はどうしたんだ?」
今や最強の能力者となった、【人の振り見て我が振り直す】が、次々と辺りを破壊していく。
先ほどまで吠えていた【殺すが為の刃】も、その力を目の当たりにしてからは大人しくなっている。今姿を現しても、殺されるのがわかっているからだ。
「残った能力者はたったの五人。さあ、正々堂々と戦おうぜ」
【人の振り見て我が振り直す】の言葉を受け、「よく言うぜ」と【悪夢の瞳】が呟いた。それもそのはずだ。彼は今まで周囲を騙し、仲間として利用してきたからだ。その能力が最大限に発揮されるまでの、隠れ蓑として。
「殺すが為の刃、ここは一時休戦して奴を倒すぞ」
この世界に残された能力者は五人。四人の力を合わせなければ、【人の振り見て我が振り直す】を倒すことは不可能だと、【悪夢の瞳】は判断した。それは他の三人も同じだった。
「<箱庭>から出られるのはたったの一人。それでも・・・」
三人が顔を見合わせた。今協力して倒すべきが誰かをわかっているからだ。この戦いが終わり、生き残れるのは一人だとしても――
1.
連続通り魔事件が発生してから二週間が経った。犯人の目撃情報はなく、以前逃亡中。それどころか、被害者は増える一方だ。学校でも注意が喚起され、人通りの少ない場所は通るなと言われている。
今彼が通っている道は、家に帰るまでの時間が大幅に短縮されるが、人気が少ない。通り魔が出るならこのような場所なんじゃないかと思う反面、実際自分が被害に遭うなんて考えていない。
電信柱の脇に立つ人影を見て、「もしかしたら通り魔かもしれない」と思うものの、今来た道を引き返したりはしなかった。電信柱とは逆端に寄り、その人影とは距離を置いた。それだけで十分だと思ったからだ。
実際、通り過ぎる時には何もなかった。あまりにも静かで、まるで互いが見えていないというようだ。
知らない人同士、道ですれ違うだけの時などその程度だ。挨拶も会釈もしない。極端に言えば、いないくらいの扱いでいいのだ、と彼は思った。
角を曲がる直前、背後から足音が聞こえた気がした。先ほどの人が、歩き出したんだろうと気にも留めなかった。
だが、それがいけなかった。
振り向くことなく、角を曲がろうとさしかかったとき、脇腹に強い衝撃を受けた。勢い余って壁に体をぶつけながら、脇腹に強い痛みが走って目を瞑る。激痛を堪え、恐る恐る目を開け、脇腹を見ると、刃物が深々と刺さっているのが見えた。
「え――」
言葉が上手く出ない。痛さと驚きと、それを上回る恐怖が彼の声を封じた。刃物が抜かれると、傷口から血が流れ出ているのが見える。傷口が焼けるように熱い。彼はどうして自分がこんな目に遭っているのか理解できなかった。
通り魔に襲われたんだと理解できたのは、もう一度脇腹を刺されたあとだった。
「やめ・・・死にたく――」
意識が薄れていく最中、口から言葉がこぼれた。消え入るような掠れた声で、その言葉は誰にも届くことはなかった。
痛みも熱さも感じない。自分が今何をされているのか、立っているのか座っているのかさえも、わからなくなった。
「――死にたくねえ!!」
叫ぶと同時に彼は目を覚ました。少しの間を置くと、辺りを見回し、状況がいまだに自分の理解できる範疇にないと悟った。
ベッドもなく、布団もない。脇腹に痛みもなく、服を捲ってみれば傷跡すらもない。通り魔に刺されたなんていうのは夢だったのか。それとも、ここが死後の世界なのか。
見るからに古いコンクリートの壁。物は何一つ置いておらず、唯一あるのは小さな窓と鉄のドアだけだ。ここが監獄だというなら納得もいくが、「襲われたのは自分のほうである」、と彼は思った。
ここが天国でないことだけは確かにわかった。地獄だというなら生ぬるいが、天国と呼ぶには余りにも何もなさすぎる。
『皆さま、おはようございます』
何の前触れもなく、無機質な声が部屋に鳴り響いた。
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