5番塔三業一階層 狂鳥の餌場
第11話 冒険の始まり
近くで見れば見るほど大きい。
阿倍野にあるハルカスさんをもっと縦に伸ばした感じ。それが円を描くように5本並んで建っている。
これが5番塔。ヤマトが言うには、試練の塔らしい。
その5本の塔の内の一つ。なんでもサンゴウ? とか言う塔の前にいる。
塔の入り口前の道には、赤い石でできた灯篭がずらっと並んでいる。
その灯篭の先に、塔の入口はある。入口の上には、でっかい注連縄が付いていて、塔の入口の中からボンヤリと明るい光が常夜の街にこぼれていた。
「いろいろ準備に手間取った。さて、行くか」
私たちは、あれからヒツジさんの店で沢山買い物をした。まあ、買ったのは主に私の装備らしいけど。
でも。
「ねーねー? やっぱり他の色の服がいいよー」
私は買ってもらった服が気に入らない。何でかと言うと、色が真っ黒だからです。もう、完全に真っ黒。全然オシャレじゃない。私の身の回りで色がついているのは髪につけている彼岸花のカンザシの赤くらい。着物くらい、もっと色付きの綺麗なやつがほしい。
「何故だ? その着物は、闇ダコの墨で染めている貴重品だぞ。敵から発見されにくく、しかも物理的な攻撃に強い。まあ、魔力抵抗は低いが……うむ、まさにお前のためにあるような装備だぞ?」
「でも、なんか格好悪くない?」
私がそう聞くと、ヤマトは私の服装を眺めて、言う。
「……そうか、似合っていると思うが」
似合ってるのかな? まあ、それならいいかも。でも、普段着はもっときれいな服を買ってもらおう。
「ふーん。……ねえねえ。これって戦闘用なんでしょ? 家で着る服はもっとオシャレなの買ってね?」
「ああ」
よし、ヤマトは頷いた。もし、買ってくれなかったら街中で泣こう。
「それより、これから塔に挑む。やることは分かったな?」
「もう、何度も言われなくてもわかってるよー。隠れてればいいんでしょ?」
「そうだ。基本的にはお前を守ってやるが、不測の事態があれば確約はできん。その時は、買った術印書でどうにかしろ」
「はーい」
まあ、試練の塔とか言ってもそんなに危険は無いだろう。なにせ、変態のヤマトがほぼ毎日出入りしてる場所だし。よゆーよゆー。
私とヤマトは、5番塔の一つ、サンゴウに入った。
入口をくぐると空気が変わった気がした。
でも、そんなことより。
「はえ?」
塔の中なのに夜空がある。
月が出てる。
鳥が飛んでいる。夜なのに。
私が入った場所には、明らかに外から見た塔より大きい空間が広がっていた。
「え? え? 何ココ?」
訳が分からなかったので、私はヤマトに聞いた。
「どうかしたのか、ヒナミ」
ヤマトは三つ目で私を見つめてくる。
「えーと、ヤマト。ココ塔の中だよね?」
「そうだが」
「何で空があるの?」
「ああ、ヒナミは知らなかったな。……この中の空間は歪んでいる。塔の外観で中を判断するな」
「ええー?」
何それ。トンデモナイところに来た気はしたけど、実際なんかトンデモナイなあ。あー、ヤマトの家でじっとしてれば良かったかもしれない。
周りを見渡してみると、地面は草原になっている。すごく大きい草みたいなのが伸びていたり、でっかい石があったり、変な木造の建物……たぶんもう廃墟になってるようなやつが点在している。でも、全体として見晴らしは良い感じがする、空があるからかも。
__ピピ ピピピ ピイ
ん? 鳥の鳴き声がする。
「さっそく来たな」
ヤマトが顔を動かす。
鳴き声の方を見ると、スズメが6羽いた。……私と同じくらいの大きさの、スズメが。
「うわ、でっか。何あれ、何あれ? スズメ?」
「ヒナミ。火雀を知っているのか」
「ひすずめ? スズメさんじゃないの?」
__ピピ ピピピ ピイ
__ピピ ピピ ピ __ピピ ピピピ ピイ
ピイイイイイイ
私がヤマトに話を聞いていると、すごい勢いでスズメが走って来た!
あの細い足で、どうしてあんなにスピードが出るのか不思議。
て、のんびり観察している暇はない!?
「ヤマト、ヤマト! なんかこっち来たよ! どうしよ、どうしよ!」
私が慌てていると、
「ふん!」
ヤマトが刀を抜いた。
切ったところは見えなかったけど、ヤマトが腕を何度か振ったら、スズメさんは全員倒れた。
「うわああああ! スズメさんが」
お亡くなりになってる。……いや、よく見ると4匹は、泡を吹いて倒れてる。血を流して死んでいるのは2匹だけだ。
「こいつらは、火雀という。素早い上に、火を吐くから注意が必要だ」
「スズメさんがあー。……ねーねー、ヤマト。何も殺さなくってもいいんじゃないかな?」
「……阿呆め。殺さなければ、自らが喰われるぞ?」
「えー。そんなー」
殺されるのかな? それは嫌だけど、うーん。この子たち、私を食べるかな? ……でっかいから、食べそう。じゃあ、仕方ないのかもしれない。私はスズメさん達に手を合わせた。南無ー。
「あ、でもでも。死んでない子もいるね? 泡ふいてるけど、あれは何で?」
「ふむ、そいつらはメスだ」
「メス?」
「俺の呪いでやられたのだろう。俺の額の目には女除けの呪いがある。この階層はメスが強く、数も多い。俺にとっては戦いやすい場所だ」
「へー。スズメにも効くんだ。変なの」
女除けか、それで泡ふいて倒れたのか。ふーん、ヤマトは意味もなく三つ目さんじゃあなかったのか。
「ん? ヤマトのその女除けって私にも効くの?」
「……俺の呪いは殊更強力だ。ある意味、暴走していると言っても良い。女なら、俺の側にいるだけで、倒れる。そうだ、そのはずだが。……何故か、ヒナミに俺の呪いは効かないようだな」
ヤマトが顔をこちらに向けてくる。あの額のお月様のような色の目を見ると、倒れるのかな?
じっと、ヤマトの目を見る。
「何ともないねー」
「ふむ。体調が悪く成ったりはしないか? 干渉を受けている様子はあるか? 俺の額の目を見てどう思う?」
「たくさん質問されてもー。別に何ともないよー。でも、ヤマトの目って綺麗だよね? お月様みたい」
「な、に? 俺の目が……月のようだと?」
私が感想を述べてあげると、ヤマトは目を三つとも大きく開いた。
「うん、お月様みたいに綺麗ー」
私がそういうと、何故かヤマトは顔をそらした。
「……そんなことを、言われたのは初めてだ」
「そう?」
ヤマトはしばらく、私の方へ顔を向けてこなかった。
仕方ないので、私はヤマトの着物の裾を掴んでついて行く。
ピーーーピイピー。
ピーーー。
夜の空、鳥の鳴き声が聞こえる中で、私の冒険が始まった。
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