第10話 魔法少女になりました
……またしても私の不意打ちは失敗に終わった。
「何を怒っている?」
鬼畜ヤマトが不思議そうに聞いてきた。
「怒るわ、アホー! 私にケガさせるつもりだったんでしょう!? それってジドウギャクタイだよー。最近テレビでよく見たから知ってるんだから! アホアホ。お巡りさんに捕まっちゃえ!」
「訳の分からんことを言うな、怪我をさせるつもりなどない」
「でも胴体ズパッとなる術を撃ってもらったんでしょ!」
「愚か者が。何を聞いていた? 店主は威力を抑えてくれている。もし当たったとしても皮膚が多少切れるくらいだ」
「そうなの?」
「ええ、ヒナミさま。心配はございません。命に障るような威力ではありませんよ」
店主のヒツジさんが優しい声で教えてくれた。
「まあ、店主さんがそう言うなら」
私は、大人しくなった。
「……さて、ヒナミ。お前自身の特異性は分かったが、適性は全く分からん。此処に来る前は何を仕事にして生きていた?」
「へ? お仕事? 私まだ学生だから仕事はしてないよ。学校行ってるくらいかな?」
「ふむ。学生か。では何を学んでいる?」
「えー。なんだろ? えーと、算数とか理科とか社会とか図画工作とか……」
「ふむ? よくわからんが、サンスウとは算術のことか?」
「うん。たぶんそう」
「では、……ヒナミ。お前は小判一枚をもっている。これで、一分銀二枚分の薬湯を買うとする。ヒナミの手元にはいくら残る?」
ヤマトのやつが、いきなり問題を出してきた。
何か簡単そう! 絶対正解してやる。そもそも、アホなヤマトの作った問題だからすごく簡単なはずだ。問題も、小1でする足し算・引き算のような問題文だし。私に解けないはずない。
「ふふーん。そんなの簡単だよ!」
私はヤマトに大見得を切った。
さてさて。えーと? 私は小判を一枚持ってる。そこから一ブ銀二枚を引いたのが正解。ほら、簡単簡単。小判一枚はえーと。えーと、えーと。あれ? 小判て何円? 一ブ銀って何個で小判一個分? ……はれ?
「……ヒナミ、すまん。無理はするな」
なんか気の毒そうな顔のヤマトに慰められた。
「ちょっと! 解けるもん。私は掛け算も、割り算もできるもん! えーとえーと、ちゃんと小判一枚が一ブの何枚分か教えてくれれば……」
「では、ヒナミ。親は何をしていた?」
無視された!?
「うう。お母さんは家でゴロゴロしてて、お父さんは何だろ? えーと、休みの日にはゴルフ行ってる?」
「……どうやって生きているか理解に苦しむ連中だな」
「うっさーいわーい。失礼なこと言うなー!」
「ふう。これは弱ったな。最悪、親の職業に合わせておけば大丈夫と考えていたのだが……お前に合う適性、職業がまったく分からん。……店主どう思う?」
ヤマトはため息をついて、店主と話をする。
「そうですね。ヤマト様が最初仰っていたように、前衛は無理でしょう。後衛の、出来れば腕力を使わないような、印術師や巫術師などはどうでしょうか?」
「ふむ。こやつに術が使えると思うか?」
「それはわかりませんが……」
「まあ物は試し、と言うしな。店主、術印書をくれ。火、風、水の三種、それぞれ最小の攻撃印が刻んているモノを一枚づつ頼む」
「お買い上げありがとうございます」
ヤマトはヒツジさんから三枚の紙を買った。
あれって私の首輪に変なしるしを入れたやつと同じなのかな?
「さて、店主。試し打ちをさせてくれ」
「はい。こちらです」
「おい。ヒナミ早く来い」
別の場所に移動するみたいだ。私はヤマトについて店の奥に行く。
長い廊下を歩いて、扉を三つ通ると庭に出た。
大きいけど、細長い庭だ。
私がいるのと反対方向には白黒の的がある。
的の後ろは砂があって、これは。えーと、何処かで見たような感じ。うーん、……あ! テレビで見た弓道場みたい。弓をぴゅーって飛ばす場所に似ている。
「さあ、ヒナミこれを使ってみろ」
ヤマトは紙を渡してくる。紙はA4サイズのくらいの大きさで、何かの漢字が沢山書いてある。
「ねーねー何コレ?」
「術印書だ。適性があれば使える」
「使ったらどうなるの? 痛くない?」
「痛くはない、大丈夫だ。使っても大したことはないが、一応、あの的を狙え」
渡されたのはペラペラの紙。的を狙えとか、使えとか言われても使い方が分からない。
「どうやって使うの?」
「魔力を込めろ」
「どうやって込めるの?」
「……念じろ。その書の効力を外に出すように。そして攻撃対象を定めろ」
ヤマトに聞いた私がバカでした。
念じろって言われてもなー。困る。
「ねね。この紙には何が入ってるの?」
「それは風だ。店主がお前に撃ったのと同じ鎌鼬が入っている」
「ふーん」
……カマイタチ。かまいたち。ん? 鎌を持ったイタチさんが入っているのか。それで、イタチさんがその鎌で切ってくれると。……うん。なんだ、そういうこと。それならわかりやすいよ。
__カマイタチさん。カマイタチさん。お願い。あの的を切って。
さわやかな風が吹く。鎌を持ったイタチさんが、風に乗る。
「む!」「おお!」
ヤマトとヒツジさんの驚いたような声。
狙った的は上から下に線が入る。そして、キレイに左右に分かれてゆっくりと落ちていった。
的が落ちると、私の持っていた紙は燃えた。
「やった! できた。どうどう?」
ヤマトの着物を引っ張って感想を聞く。
すごいよね。これって魔法じゃないかな? 私、魔法少女になったのかも! ……変身はできないけど。
「すごいな、ヒナミ。大した威力だ」
「ふふーん。すごいでしょー」
「ああ。……それで、ヒナミ。術印書無しでも放てるか?」
「へ?」
紙なしで? ええー。無理だと思うなー。だって、私はカマイタチさんにお願いしただけだし。でも、できるかも。やってみよう。
「ううーん。……てりゃー」
気合を入れて、右手を前に突き出してみたけど。
……何も起きない。私は魔法少女ではなかったみたい。悲しい。
「……紙に入ったイタチさんがいないと無理ー」
「なるほど。そういう理解をしているのか。……ヒナミ、大丈夫だ。そもそも攻撃の術印書は適性がなければ撃てんし、あれ程の威力も出ない。お前には才能があるようだ。いずれ術印書が無くても撃てるようになるだろう」
「ほんと! やったー!」
私はたぶん、魔法少女に転職した!
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