あなたの知らない物語

紫月 結乃

第1話 物語はこの冬からはじまる

新学期が始まって少し日が経った、

私の高校1年生の冬。


寒々しい階段。

2階から3階に上がるそこは少し薄暗く、踊り場から見上げる上の階は逆光で人の顔がよく見えない。

上級生が降りてくるその階段で、知る先輩に出会わないか気をまわしながら私は上っていた。

その時、顔を合わせたのは偶然か必然か、良かったのか悪かったのか。あなたを見つけてしまった私は一瞬止まってしまったのだった。




遅めの初恋だった。

高1の夏、今思えばその頃からあなたに惹かれていたのだろう。

でも気づくのが遅かった。

あなたの隣にはあの人がいた。

2人は幸せそうだった。

知りたくない情報ばかり私の中に入ってきた。

でもこの複雑な想いを口にはできなかった。

私の気持ちなんて私以外誰も知らなかったから。


何度も気持ちを切り替えようとした。

それができると思っていた。

できたつもりになっていた。

でもあの時、気づいてしまったのだ。

自分の気持ちに。


この物語はこの冬からはじまるー

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