ポルトの謎

 文字の羅列。中には幾らかの単語が見受けられる。

 一体これは……。

「ポルトが気になるな」

 見笠木さんは眼鏡を取り、のぞき込むようにして呟く。

「あの、見笠木さん」

「なんだ」

「眼鏡いいんですか?」

 やけにそのことが気になり訊く。

「近視なんだよ」

 突き放すような冷たい目で俺を見て言う。

「ねぇ、ウチ分かったわ」

 優樹さんは無関心を貫くが、俺と見笠木さんは目を見開いた。

「はぁ、どこで分かったんや?」

 あまりにも早い分かったコールに見笠木さんは三好さんの関西弁が写ったようだ。

「単語見つけたらええんちゃん?」

 いかにもバカっぽい回答が返ってくる。

 それにはさすがの俺もポカーンとしてしまう。

「な、なんや……」

 痛い子を見るような視線に気づきうろたえる。

「見たらわかる」

 いつの間にか足音も立てずに歩み寄って来ていた優樹さんが魂を抜かれたかのような声音で告げる。

 一様にギョッとする。それを優樹さんは死んだ魚ような目で見回す。

「現ってなんだ……」

 頭を掻きながら呟く。

「アホちゃん?」

 三好さんに小悪魔的な笑みを向けられる。

 テメェにだけは言われたくねぇーよ!

 心底でそう叫ぶ。

「見たら分かるやん。この現ってのは現在地で到は到着地ってことやろ」

 おぉ、すげ。そう思ったのは俺だけだったらしく、見笠木さんも優樹さんですらうん、と頷いていた。

「君。ホントに暗号解いて来たのか?」

 見笠木さんが疑いの目で俺を見る。

「た、たりまえだよ!」

 ちょっと躊躇するのは解いたのが俺でなく緋里だからだ。

「ふーん」

 信じられないな、と言った感じだ。

「にしてもポルトをどうにかしないと」

現こんぺいとうてすいか

まどこんじょうんぎゅう

んきゅうけつきぷはずる

とめいたんていらかっぱ

ろくろくびきりんりすぼ

みせものせいやくつるた

かみさましんせつかめん

 何度見返しても謎すぎる。

「ポルトが正しき道を導く。か」

 俺は何げなしに呟く。

 そこでふと有る違和感を感じた。

 ポルト……。ボルトじゃないな。何かの略なのか? じゃあその略ってのはなんだ。待てよ……。そう言えばちょっと前って言っても俺がまだ実家にいる時だけど、聞いたような気がする。何で聞いたっけな。くっそ、思い出させねぇ。

「何か気づいたか?」

 俺の顔つきが変わっていたのか、それはわからないが何かを感じ取って見笠木さんが訊いてきた。

「いや、ポルトって単語がどこかで聞いたことあったような気がして……です」

「ですなどいらん。普通に話せ。今は年齢など気にしている時ではない。それよりもだ。それを聞いたのはどこでだ」

 見笠木さんが渋い声で訊いて来る。

「すいません。それが思い出せないんです。多分ここ半年以内に実家で聞いた気がするんですけど」

 顔は残念そうだが優しくこう告げる。

「そうか。できればそれを思い出してくれ」

「はい……」

 それから見笠木さんは三好さんと話し始めた。この暗号を解いているのだろう。

 優樹さんはボーッとしているが時偶2人の会話に入っている。

 よし、思い出せ俺。いつ見た。見た……? 見たってことはテレビか。あの頃はよくテレビ見てたからな。どんな番組だ。夜だったか、それとも夕方か? 思い出せない。

 ポルト……。ポルト……。ん? なんだえっと……、あれは……はっ!

 FCポルト。FCポルトって言えば……サッカーだよな。国は……ポルト、ポルト……。ポルトガル!

「ポルトガルだ!」

 俺は意気揚々と得意げにそう叫んだ。

「何!?」

 見笠木さんは目を細めて俺を見つめてくる。

「思い出したんです。見たのは夜のニュース番組。FCポルト。それはポルトガルのサッカーチームです」

「それとこれがどう関係してるん?」

 三好さんが古紙を指差しながら訊く。

「そ、それ……」

 俺が答えを言い淀んでいると代わりに見笠木さんが言った。

「それこそ単語か。ポルトガルの単語か」

 妖しい笑顔を顔に刻みながら見笠木さんはそう吐いた。


「ポルトガル語なんてわかるはずないだろ」

 ダルそうな力のない声が飛んでくる。優樹さんだ。当初の元気はすっかりなくなっている。

「いや、分かるさ。日本語の中にもポルトガル語からきてるものもたくさんあるからな」

 眼鏡をクイッと上げて、自信アリげに見笠木さんは言う。

「そうなん?」

 三好さんは知らんかったーといった顔を浮かべている。

「こんぺいとうとかってそうでしたっけ?」

「そうだ。よく知ってるな少年!」

 俺がそう訊くと見笠木さんは楽しげに答える。……えっ。キャラ変わってね?

「って、ちょっと待って!」

 三好さんは驚きをあらわにして古紙に目を落とす。

「ある! こんぺいとう、ある!」

 声が上ずっている。それほどまでにテンションが上がってるのか。

「なら、ビンゴだ。それを辿っていけば自ずとゴールへと導かれるってわけか」

 見笠木さんは最後にもう1度眼鏡を上げた。

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