鬼神2

 戦場という中で、その場所は地獄と言えるものなのだろう。

 そこは、生きとし生けるものが、死して死せるものでしか存在意義が無いと言える場所と化していた。


 死屍累々


 まさに、この言葉の真意を、一つ、また一つと命の灯を消し去っている琥珀色の存在によって繰り広げられていた。


 しかし、その状況を作り上げている琥珀色の存在、つまりトライヴ事本堂にとってみれば、倒すべき相手をただ倒しているという事でしかなく、その様な感情などを持つ余裕が無かった。


 なぜならば、本堂自身の思考と身体の動きにズレが生じ続けているという事が、周囲の状況を観察させる余裕をなくさせてもいたからにすぎなかったからである。

 だが、その溢れんばかりの暴力とも呼べる力によって、その状況、戦闘において優位性を保つことを維持しつづけているのも、また事実ともいえた。



「調子が戻りきっていないが、今は数を減らさなければ!」



 本堂の思考は、自身の身体の事よりも、まずは戦況を打開するべくという思考しかなく、その溢れんばかりの暴力すらも、現状で有効な打開策の一つという認識でしかなかった。


 その暴力を使い、襲い掛かってくる怪人を、トライヴの正拳突きが粉砕し、巨大な鈍器を以って襲ってくる怪人を、トライヴの手刀が切り捨て、火炎を放つ怪人を、その脚力を使っては蹴り潰す。

 その暴力の合間、怪人たちの数の攻撃によっては、トライヴ自身への傷が増えもしたのだが、トライヴが持つ自己治癒能力が異様な速度でそれらを常に修繕していった。



「それにしてもおかしい。怪人といえど、こうも脆いという事は無かったはずだが…」



 その戦場で圧倒的優位に立っているはずのトライヴであったが、その状況があまりにも自身が経験した戦いと異なりすぎる事に違和感を感じてもいた。


 トライヴとして、今迄戦ってきた怪人との闘い。


 その記憶を巡らせても最大出力マキシマムドライヴ状態で大型の怪人を一撃で葬りさるという事は無かったのである。


 特に、そういった怪人相手では、まさに無理やり隙ともいえる瞬間を作り上げて一撃をいれる事で勝利を得てきたのがほとんどであり、今の様に相手の隙を狙うほどの身体反応が行えるという状況でもない為、牽制ともいえる一撃を放つだけで、相手が崩れ去っていくという事に戸惑いを抱くには十分であった。



「量産を優先させた弊害という事か?」



 襲ってくるの怪人たちを、ただ単なる牽制ともいえる一撃で屠り続けていく最中、本堂は怪人兵団に対して、怪人一体あたりの能力よりも量産を重視した事による性能の低下をもたらしたのではないだろうか?という考えに至る。

 そして、それならばこの脆さになるのではなかろうか?と、本堂は思い始めてもいた



「これは幸いとでもいうのか?」



 今迄戦ってきた怪人と同等の能力を持っている兵団と思っていた本堂にとってみれば、予想外な結果に多少の安堵が浮かぶ。

 だが、その安堵はトライヴへ襲い掛かってくる怪人の数が一向に減る様相を見せないでいる事、さらに少なからず、その数に対応出来ない手数によって自身へ攻撃を当ててきている事で、先ほどの考えを改めた。



「能力ではなく、数という…訳か…!」



 そう口にしながら、自身を拘束しようとしていた怪人を振りほどき粉砕していく。

 そうして、本堂が先ほど至った「量産を優先させた弊害」とする考えを修正する。


 特に、先ほどから襲撃が止もうともしない、その襲撃により、多少なりともトライヴへのダメージも入ってはいる。となれば、この怪人兵団の一つが、怪人一体その物ではないのか?という認識へと変わっていった。


 たしかに、これならばトライヴとして、否、単体として対応できる限界が存在し、さらに、本堂播としての消耗を促しているのではなかろうか?という考えに至ってしまうのも仕方がないのかもしれない。



「ザ・リークめ・・・やってくれる・・・」



 本堂は、そう苦虫を噛み潰すかの様な表情で呟いたのだが、トライヴの顔を覆うマスクによって、その表情が怪人達に読み取られる事はなかっただろう。


 また、消耗という点で、本堂播としての身体能力はサイボーグ化によって強化はされているが、万全な状態でない現状で行っている最大出力マキシマムドライヴ状態にその体が何時までもつのか解らない、

 いや、その前にこの数を相手にするという精神的な疲労という物が先に訪れるかもしれない。という推測ともいえる予想が立ってしまった事に、少しばかりの焦りが生じていたのも確かであった。


 不思議な話ではあるが、トライヴへとサイボーグ化された本堂という身なのだが、精神的な部分が人のそれと何ら変わらないという弱点が存在する事。その事にザ・リークは気づいていたのであろう。

 なぜならば、過去にも精神感応テレパシスト怪人を送り出してきたのが何よりの証拠である。



「早めに決着をつけなければ不味いな」



 そう判断を下すが、一転して戦況が止まり始める。


 それは今迄多種多様な襲撃を行っていた怪人兵団だったが、トライヴの徒手空拳によってそのほとんどが一撃の元にその存在を破壊し、傷を負わせたと思えば、すぐに回復する。

 そんな相手とわかり始めた怪人兵団は、いつしかトライヴを中心として円形状の陣を構築せざる得ない形となっていった。


 その中心で、琥珀色のトライヴが自然体のままで周囲を警戒するしかなかったのだが…




「Vi hum ras ? au ... tre nevidebla...」




 不意に、本堂の耳に聞きなれない言葉が投げかけられた。






──────────────────────────────────

○ちょろっと言語訳コーナー

「Vi hum ras ? au ... tre nevidebla...」

(意訳:貴様は本当に人なのか?それとも……そうは見えんがな…)

 ※:主人公には通じていません。


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