死者を生き返らせる僕と、ベテルギウスの見えないあの子

@deltavox

ベテルギウス願いを聞いて

ベテルギウス願いを聞いて

それだけで僕は死者を生き返らせる力を手に入れた。

交通事故の現場で呼びかける。

「この中で生き返りたい人!」

5人に4人が返事をする。

5人に4人が僕の手を取る。

5人に1人は死んだまま。

5人に1人は生き返らない。

5人に1人はベテルギウスが見えない。

目を凝らしたって、メガネを掛けたって、望遠鏡を覗いたって見えないものは見えないのだ。


死者が生き返るようになって、喜んだのは政府だった。

ずっと仕事をしてもらおう。

仕事はいつになってもなくならないのだから。

死者になって、家族と再開の挨拶をしたら、明日は昨日と同じように出勤だ。

生きても死んでも世界は変わらない。


最初に小さくなったのは葬儀屋だった。

今ではベテルギウスが見えない人のためだけに営業している。

死者が死者を悼む形だけれど。


生者が作った食べ物を、死者が売って、生者が食べる。

死者が作った食べ物を、生者が売って、死者が食べる。

そんなサイクルが完成していた。

何を食べているかは誰も知らないことになっているけれど。


ある派閥の長が、永遠に派閥の長であることに耐えられなかった死者と生者が爆破した。

もう死んでいるのだから殺せない。バラバラになったってへいちゃらなのだ。

今でも長は、長のままだ。


「この中で生き返りたい人!」

赤ん坊だって、返事をする。

死者の赤ん坊はずっと赤ん坊のままだけれど。

耐えられなかった母親は精神的に死を迎えた。

今となっては幸いなことである。


ベテルギウスが見えない人は、生き返らないが、生き返らせない。

5人に1人が死者を殺せる。

そんな噂が流れてる。


世界は台無しになった2次会のような有様だけど、

死者でも確実に死ねることは希望だった。

僕は死を恐れてる。

死後に始まるであろう人生を恐れてる。


ベテルギウスが見えない人が死者を殺し始め、救いの宗教となった。

僕の会員番号は14億。

1分に1人が殺されるとして、24時間休みなしなら、2664年後には救われる。


皆と違うのは嫌だから、あの子はベテルギウスが見えるふりをしている。

皆と同じなのは嫌だから、あの子はベテルギウスが見えないふりをしている。

その中から、僕はあの子を探し出さないといけない。

今では生者を見かけることは珍しくなってしまったけれど。

僕の新たな人生が始まる前に、探し出さないといけないのだ。

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