送らない手紙
サタケモト
一通目
【頭のなかで思うこと】
言っていることが矛盾しているよ。
そうあなたに言われてしまうのがイヤで、頭のなかでよく考えている。
そうあなたに言われてしまうのが、残念ながら容易に想像出来てしまうんだなぁ。
あなたはそうやってわたしを追い詰めることばかりするんだ。
なにもむずかしく考えなくていいんだよ。
直感を信じたらいいじゃない。
言われたとおりにそうしていたら、ほら、また矛盾。
ああ、矛盾ってなんだ。
どうして真っ直ぐじゃない?
そんなに捻くれていますか。それとも純粋なのですか。
どっちですか。どうなんですか。
「素直でいたい」と、ねがう気持ちは、ほんとうです。
結果、あなたはわたしのことを「嘘つき」と呼ぶのだろう。
あなたはそういう胸に突き刺さる言葉が好きだね。
わたしがわたしのなかでどれだけ葛藤したとしても、あなたにはそれがわからないだろうから仕方がないのかもしれないね。
それとも傷つけるためにそういう言葉をつかうのかな?
そういう残酷なところが誰しも持っているものだ。
自分が生き残るために、他人を蹴落とす的な、ね。
弱肉強食の世のなかだもの。
しょせん、これはわたしのなかだけの話で、だれも理解なんてしようとはしないだろう。
あなたの吐く言葉はわたしを殺すだろう。
【あきらめに似たなにか】
ヒトの相性って、あると思う。
きっとそうだったと思うようになった。
もうなんだか、あらゆるものに対して、諦めのほうが強い。
そして、そうさせるのがあの人なんだろう。
それはそれは、感情としては下劣なほうだなぁ。
それってあの人が病的人格者だっていう証明だ。
他人に対して諦めを強要する。
なんだかあわれだ。
あわれなのが、自分なのか、相手なのかわからないまま。
あわれだ、と思わず口から言ってしまいそうになっては、口を
最近は、そんなことが多くなった。
言いたいことが喉もとまで出かかっては、それに気付いて口に出さないようにする。
それが習慣となりつつある。
言ってしまったら、すべてが駄目になる。
言ってしまえたら、ずいぶん楽なのに。
言ったあとの罪悪感がつらい。くるしい。
自分が駄目になりそう。
そんな自分の感情に苛まれたくない、ただの自分のエゴですか。
言ってしまったあとの相手の表情を見たら、もうなにも言えない。
言えない。
【雑踏のなかから見つけた】
あ、あの人だ。
そう思ったのに、わたしは、なにも見なかったことにした。
いっそ、記憶から消そうとした。
あの人だって気づかなければ、そのままにしていたはずの光景。
あの人だって気付いた瞬間に、わたしは排他的になった。
これはいったい、どういうことだろう。
自然でいたいのに、どこか不自然だ。
あの人がいることが不自然?わたしがいることが不自然?
この化学反応に似たなにかはなんだ?
【理解度のちがい】
あの子が言う言葉が理解できない。
あの子がつかう言葉が理解出来ない。
どうもわからない。なにを言っているかさっぱりだ。
それでもあの子は、わたしになにか手応えを感じているらしく、いろいろ話してくる。
そのたびに、わたしは軽くパニック状態に陥る。
わからない。
わからないとも言えなくて、必然と沈黙する時間が多くなる。
さもなければ愛想笑いを浮かべている。
不思議そうにあの子がわたしを見つめる。
その視線がとてもこわい。
あの子の言っている言葉に、わたしは応えられているのだろうか。
あの子の発する言葉は、わたしの許容を超えているというのに。
ねぇ、わからないんだ。
そう言ってみたことがある。
そしたらあの子はわからないわけないでしょうって笑う。
それを見て、わたしはとても切なくなった。
ごめんね、わからないものはわからないんだ。
あの子は理解者を欲している。
表面上だけの理解者が欲しいのか。
ねぇ、わたしはわかっていないのに?
あの子はわたしをその立ち位置に置こうとするんだ。
そんなのはイヤだって、藻掻いてみたところでもう遅くて。
わたしはお飾りの理解者を演じる羽目になるのだろう。
いつだって、そんな感じだ。
【きみはときどき、年寄りみたいだ】
話をしていて思う。
そして、そんなふうに言われる。
そんなとき、わたしは笑うしかない。
ほんの少し、うつむいて笑う。
「きみのそれらの言動が、すべて計算だったとしたら、こわいね」
そんなふうに言われる。
そんなとき、わたしは笑うしかない。
ほんの少し、心になにかを感じながら。
【思いどおりにならないことがあっても、ふつうなのに】
あきらかに不機嫌そうな顔をするあなた。
わたしはそんなあなたが苦手だよ。どうしてそうなの?って思ってしまう。
それでもそんな表情を浮かべられたらご機嫌をうかがってしまう自分が憎い。
あなたに引き摺られてしまう自分が憎い。
それを利用するあなたが憎い。
憎い。憎い。憎い。憎い。
この関係はもうだめだと気づいた。
感情が絡まって終わることすら出来ないようです。
手放せば楽になるのにね。
悲劇の主役が好きですか。そうですか。
それに付き合わされるわたしの役はなんですか。
悪役ですか。
近頃、メロドラマの悪役の気持ちに共感するよ。
あの人って、本当はつらいんじゃないかってね。
あなたの価値観が憎い。その主観的なところが憎い。
【たとえば全部、全部なかったことにしてしまいたい】
住む世界がちがうって改めて言われるとつらい。
あなたに自己犠牲なんて強いてないのに、そう思われるのもつらい。
自由でいていいんだよ。自由に生きたらいいじゃない。
もう好きにしなよ。こちらに関わってこなくていいよ。
なにか言えば誤解が生まれるし、もう最悪だ。
言い繕ってみたところでどうしようもないし。
わたし自身に疑いや迷いがあるのが良くないのだろう。
そんなの分かりきってる。分かりきってるのにな。
迷いを生ませたのは、だれだったかな。
わたしの猪突猛進みたいな勇気はどこに行ったんだろう。
終わってしまうと分かるまでは、守ろうと思う。
ほんとうに、そのように思う。
大切なものを大切に出来る人間でありたいと願うから。
それにあなたは値する人間ですか。
いいえ、きっとそうじゃない。だから悩むんだ。
そこには情があってね。責任だよね。
関わってしまった責任というもの。
あなたにはそれがあったのでしょうか。
いつも相手ばかりを責めてはいませんか。
周りは見えていますか。周りなんて関係ないなんて言っちゃったりしていませんか。
周りを巻き込んだからには、周りだって関係あるんだよ。
【自然消滅】
ガチの主張なんてしないで、きれいごとで、事なかれ主義で、お茶を濁しておくほうが楽ですよね。
でもそれって誠実かな。
向き合ってきた誠実な人には誠実に対応すべきなんじゃないかな、なんて。
ほんのちょっと思ったり。
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