第7章 ヴァンパイア

第64話 新たな扉

海は、いつものように屋敷のリビングのソファーでゴロゴロと寛いでいた。年中、気候が変わらずポカポカ陽気のカレビ帝国では、毎日がお昼寝日和なのである。あまり働く気のない海も、それを理由にソファーで惰眠をむさぼっていた。


エクスカリバー事件から1カ月がたった今では、海は全くやることがなくなってしまったのだ。王の呼び出しもない、楓たちがやらかしたことの後始末も何故だかない状況で、海は暇で暇で、ニート根性に拍車がかかっていた。


そんな中、海と共に、隣のソファーでゴロゴロしていた王女殿下、シャルロッタ・アイリーンが、口を開いた。


「そういえば今、国に珍しく客人が来てるみたいね」

「へぇ~なにそれ、あんな鎖国気味思考の王が珍しい、どんな奴だ?」

「ど忘れたわ・・・確かヴァ何たらって言う、とっても強い種族らしいんだけど…興味あるの?」

「多少」

「行ってみる?暇だし」

「暇だし行くか・・・」


海とシャルロッタは、ソファーの快適さに名残惜しさを感じながら、暇をつぶすために、王城に向かうのであった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



海とシャルロッタは、重たい腰を上げて、王城の広間に着くと、王と謎の銀髪の女が緊迫した雰囲気で対面していた。王が、珍しく仕事らしい仕事をしていたので、海は、驚いたが、そんなことなど海の隣に立っているわがまま王女シャルロッタには、関係ない。


「パパ来たわ!おやつを出しなさい!」

「い、今は、それどころではないのだ!用がないなら帰れ!」

「カッチン!」


王が、珍しく焦った表情で、言ったがシャルロッタは、自分の欲求が満たされないことに対して、怒りを覚えたので、王の隣に、王と同じように緊迫した雰囲気を醸し出している騎士を呼びつけることにした。


「そこのお前!」

「は、はい、何でしょうか...」

「お菓子を持ってきなさい!」

「い、いやでもしかし・・・」

「早くしなさい!」

「は、はい!」


海は、真面目に勤務していた騎士に同情しながら、先ほどから気になっていた王と対面している女の顔を、見たくなったので見える位置まで勝手に移動する。


「ほう、これはなかなか・・・」


女は、黒色の衣装を基調としたドレスを、身に纏い、容姿は、銀色美しい髪に、ルビーのような綺麗な赤色の瞳、凛々しい鼻筋に、妖艶な口、どれをとっても素晴らしい作り物のような美しい顔立ちだった。体つきは、出るところは出ており、決して下品ではない、またもや作り物のような、美しい、体つきであった。海は、数秒間見とれた後、我に返り思う。


ナンパするしかないと…


海は、王と銀髪の女が何やら真剣な表情で話し合っているが、空気を読むつもりはない。海もシャルロッタと同じように己の欲求のため、美女に声をかける。


「へい、へい、彼女!うえええええええええい!!」

「・・・」


海は、当然のように無視される。海の作戦その1とりあえず、こちらに興味を持ってもらう作戦は、見事失敗した。そんなことでめげる海ではない。王が、海をものすごく睨み付けているが、海は、満面の笑みで無視する。


「彼氏いるの?ねぇ?ねぇ、てっばぁ??」


銀髪美女に、ジリジリと距離を詰めながら、気持ち悪く近寄っていく海。今の海は、にょきにょきと動くミノムシと形容できそうである。

いつもなら、気持ち悪い行動を真っ先に止めようとするシャルロッタだが、可愛そうな騎士が持ってきたお菓子を食べることに集中していたので、海の気持ち悪い行動に気付いていない。そのことをいいことに、海は、ミノムシ的行動を続ける。


「とりあえず名前教えてよ?」

「鈴木海!邪魔をするな!」


さすがの王も海への恐怖より、いら立ちが増したらしく、キレたが、以外にも銀髪美女が、海に向かってはじめて口を開いた。


「お前、美味そうだな…」


銀髪美女が初めて、海に言った言葉は、ウザい死ねなどの罵倒の挨拶ではない、普通の人間ならほぼ、ほかの人間には使わないであろう言葉であった。海は、短絡的思考から、それを好意的に受け止め次の言葉を発する。


「そうでしょ、僕のウインナーもおいしいから食べてみない?」

「そうだな、ウインナーとやらが、何かは分からんがお前をいただくとしよう。人間の王よ、この話は、また、後でしよう」

「は、はい」


銀髪美女は、王にそれだけ言うと、海と共に広間を後にした。海は、まさかこんな下ネタが、成功するとはまったく思っていなかったので、驚きながら銀髪美女の後を追った。

広間に残された、シャルロッタと王。シャルロッタは、いつの間にか消えた海の存在に疑問を抱きながら、言うのであった。


「パパ!お菓子まだない?」

「帰れ!!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



海が、銀髪美女に連れてこられたのは、王城の客間だった。客間は、真ん中に高級感あふれる机と、椅子が並べてあり、入って右側にベットが置いてある。客間に関わらず、どこか、生活感が漂っている。

銀髪美女が部屋に入った途端すぐに話を切り出す。


「で、お前食べてほしいのだろ?」

「え、あっはい」


海は、こうもうまくご馳走にありつけるとは、思っていなかったので拍子抜けしていた。


「そこのベットに横になれ」

「えっ、ハイ」


海は、促されるままベットに横になる。海は、とても期待していたが、重要なことを思い出したので、言うことにする。


「そう言えば、まだ名前を聞いてませんでしたね、僕は、鈴木海です、よろしくお願いします」


他人のベットで横になったまま自己紹介をする海。


「ふっふ、お前なんだか少し面白いわね、人間のくせに…私の名前教えてあげる。私は、ヴァンパイアの王、レオパルド・ブラッティーグレイだ」

「そうですか、よろしくお願いします。レオパルドさん」

「ええ、そしてさようなら」

「えっ?」


レオパルドは、仰向けで寝ている海に覆いかぶさり、海の首元に唇を当てた。


「チョマジでしてくれんの???」


海は大いに期待した。しかし、海の期待とは裏腹に無防備な首元から、何かを吸いだす音と、水音が混ざりあい官能的に聞こえる。海は、首元から、血をグイグイと抜かれていることに気付く。


「あれ?なんか血吸われてないですか?」


そんな海の言葉を無視して、レオパルドは、海の首元から血をグイグイと吸い上げる。海は、血を吸い上げられ、命の危機に晒されているにもかかわらず、抗いようのない快感に、襲われていた。


(やばい、血を吸われて、意識が段々遠くなっていく…でも気持ちいいいいい、しかし、意識が…でも気持ちいいいいいい・・・意識が…気持ちいいいいいいいい…まっいっか・・・)


海は、快感に抗えず、そのまま意識を手放したのであった…





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