明かされていく真実

第7話 三階の部屋

 梯子を登ってみると、そこは物置のようだった。

 天井は斜めになっており、窓は換気用だろうか、とても大きい。


 古いオルガン、傷んだ棚、箪笥、いくつかの櫃、ランプ、ライティングビューローと、さまざまなものが置かれている。

 梯子でどうやって運んだのだろうと響は思ったが、口には出さなかった。

 数人がかりで吊り上げたのかもしれない。


「探し甲斐がありそうだな」

 呟くと、音葉が頷く。

 ふたりで手分けして指輪を探した。

 

「あった?」

「いいえ」


 何度か、同じ会話を繰りかえした。


 壁際の棚の抽斗はすべて空だった。

 その隣の棚には箱が積まれている。開いてみると、全部皿やカトラリーなどの食器類だけだった。すべて揃いの、家紋が入っている。

「すげえ」

 響は口の中で呟いた。

「え?」

「いや、なんでもない」


 箪笥の中には、丁寧に畳まれたシャツやズボンが入っているだけだった。しかし、一枚ずつ広げて指輪が紛れていないか確かめたので、かなりの時間がかかってしまった。それらは、都合の良いことに空だった櫃のひとつに放り込む。


 そのほかの櫃には五月人形が入っていて、最初に覗きこんだ音葉は悲鳴を上げた。

「大丈夫?」

「ええ。吃驚しただけ」

 確かに、迫力のある武者人形だった。

 夜中に暗がりでこれを一人で見たら、響でも悲鳴を上げるだろう。

 黒光りする兜と甲冑を着て、槍を持っている。

 響は櫃を閉め、心の中で人形に詫びた。

 ──ごめんよ、失礼をして。


 残るは奥にあるライティングビューローだ。


 はたして開いてみると、なかに小箱があった。


 濃紺の天鵞絨を張った小箱。

 ブローチの箱よりも、ひとまわり小さい。


 どきどきしながら、箱を開く。

 そこには。

 血のように赤い宝石ルビーの指輪が入っていた。


「これじゃない?」

「これかな」

「きっと、そうよ」


 そのときだった。


「そう、それだよ」


 ふたりの背後から、声がした。


 驚きに声も出せず、ふたりは勢いをつけて振り向く。


 そこには青年が立っていた。


「あなたは……」


 すらりとした長身。

 濃い眉。

 美しく通った鼻筋。

 力強い光を放つ、大きな瞳。


 響はパーカーのポケットから、さきほど見つけた写真を取りだした。

 音葉とそっくりな少女と写っている青年。


 ──恭一朗。


「はじめまして。春日かすが恭一朗と申します」


 青年は上品に微笑んだ。

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