⑶ 始めは全体の半ばである
①
零思さんが退院してから一週間ほど、空五倍子探偵事務所から受け取った次の幹部の情報を見ながら、零思さんはいつもの席で塩煙を吸っていた。
希孔納さんは最近、潜入捜査が無い様で机でまったり過ごしている。
私はといえば、いつもながら本を読んでいる。
そうしていると、
「零思! 居るか!?」
バンッ、という大きな音を立てて扉が開いた。そこにいたのは結弦さんだった。
「結弦さん、どうしたんです? いつもながら勢いよく」
「どうしたもこうしたも、零思お前! 第伍幹部確保の一週間後に次の幹部のところに行くだなんて、無茶にもほどがあるだろ!」
「え!?」
「ふにゃ?」
私は思わず声が出てしまった。
前回の幹部戦から約一週間。それなのにもう次の戦い。なぜにこんな早いペースなのでしょう。正直、第陸幹部からずっと立て続けに戦っている身からすると、もっとゆっくりしてほしいです。
「今回はこっちで行きますから大丈夫ですよ。結弦さんたちはゆっくり休んでいてください」
「そう言う問題じゃあない! こんなに急ぎ足なのはおかしいぞ!」
私の言いたいことを結弦さんは代弁してくれた。しかし、零思さんの反応は予想とは違った。
「逆ですよ。ここまで来たからこそ、ある程度つぶしておく必要がある。すぐにでも手を打たなければすぐに元に戻ってしまう、それはなんとしても避けなければいけない」
「だからと言って......」
「やっとここまで来た、もうないチャンスですよ」
零思さんのトーンは下がっていた。
何か隠している、私はそう直感しました。
「とにかく、今日の深夜から出ますので」
「あ......あぁ」
さっきの零思さんの一言にか、結弦さんの勢いは衰え、結局今日の深夜に出撃することになった。
「あの、私は......」
「ああ、智恵ちゃんは来なくてもいいよ?」
「あたしはついてくにゃ!」
希孔納さんはいつも明るくてうらやましいほどです。しかし、ここ最近仕事がなく張り合いがなかったことを考えると、彼女の判断は妥当といえなくもないでしょう。
「希孔納さんが行くんだったら、私も行きます!」
......勢いで言ってしまいました。
「じゃ、全員参加だな。深夜出発だから今のうちに休んでおけよ。それと希孔納、お前は先に行って敵の動向を探っておいてくれ」
「了解にゃ! で、どこに行くにゃ?」
出撃に気を取られていてすっかり忘れていたが、いったいどこへ向かうのだろうか。
「行先は愛媛県だ。詳細は後でな」
そう言うと、零思さんは机に戻った。希孔納さんも机に戻り、私はというと結弦さんにお茶を出そうとしていた。
結弦さんは結局少し私としゃべってから帰っていった。
結弦さんを見送ったのち、すぐに準備に取り掛かった。
戦闘用の防具を着ようとしていると
「ああ、智恵ちゃん、今回から防具無しね」
「はい!?」
零思さんが後ろからいきなり言ってきた。
「え、えっと、無し......?」
「そ。防具つけなくていいよ」
「いやいやいや! 確かに動きにくいですし外したいって思ってましたけどいきなり外せといわれても......」
「前回の戦闘のこと聞いて大丈夫だなって思ったから。ほら、剣で避けて勇猛果敢に戦ってたじゃん」
にこやかな笑顔で、腕を剣を振っているかのように振り回しながら零思さんは話す。
ふざけているようにしか見えませんが、零思さんのことです、防具無しは本当でしょう。
②
「零思さん、希孔納さんから連絡が入っています」
夜、出発直前に桜さんが言った。
「直ぐ繋げてくれ」
事務所のスピーカーから少しノイズ交じりの小声が聞こえてきた。
「零思さん! 零思さん! 敵が移動したにゃ!」
「行先は?」
「どうやら三重に向かってるらしいにゃ。でも、三重のどこに行くかまでは分からにゃかったにゃ」
「......。見当はついた。そのまま伊勢神宮で落ち合おう」
「りょ、了解にゃ」
連絡が切れたと同時に、零思さんはガレージに向かおうとした。
「早くいくぞ」
呆然と今までの会話を聞いていた私に向かって、零思さんが言った。
「あ......はい。あの、なんで伊勢神宮と思うんですか?」
私は気になり、思わず聞いてみた。
「奴らの活動に必要な力はかなりの確率で神社にある。あの場所に長らく居たとすれば、エネルギー不足になるのは目に見えている。ほぼ永久に補給出来且つ、必要以上、つまりは持ち運びできるほど有り余っている力を持つ神社で三重にあるとすれば、必然的に日本の氏神アマテラスのいる――」
「――伊勢神宮......」
「そう言うことだ。行くぞ。合流に遅れる」
急いで事務所を出る零思さんを追いかけるように私も事務所を出た。
階段を下り、ガレージに向かい車に乗り込む。なぜか今回は車での移動らしい。反対を押し切って戦闘に向かうことといい、防具無しのことといい、今回はイレギュラーが多い。
車が走り出す。行先は三重、伊勢神宮。いつもと違う感覚に戸惑う私をよそに、戦いは着々と近づいたていた。
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